未来視の魔法使い②
レディ・ミーゼリアン、ムズもそうだった。テトラス王国のミストヴェル侯爵家に仕えていた魔法使い。かつて仕えた女侯爵のことが大事で大事で、歯車が狂ってもなお時を刻み続ける時計のようにずっとずっと死人のために生き続けることを決めてしまった人。
ウィンスレットは帽子を盾にしてぎゃあぎゃあ吠える。
「だって順番に話さないとわからないでしょ! 世界が終わる、以上! これで満足? 満足じゃないでしょ! だから順番に話してたんだよ!」
「わかった、わかったわよ。悪かったわ」
「……遠回りに言うとそんなんじゃわからんとかって信じてもらえないから率直に話したんだよ。みんなそう。誰も信じてくれない。タロットも水盆も嘘をつかないのに」
「うんうん。それで?」
「だからあ! 【大氷河】はドラゴンの死体なの。ずっとずっと前、千年前に始祖王が殺したの。その死体なの。始祖王が立ち去って千年したら目覚めて、目覚めたら世界が終わるって予言が出てて、王家の血筋が——あいたっ本が落ちた」
「自分の頭より高く積み上げるからよ」
アレクシアは呆れながら崩れた山を直す。ウィンスレットはその様子をぽかんと口を開けて眺めた。鳥の巣のようにもつれた枯れ草色の髪がぼさぼさ揺れる。
「あなた、王様なのにぜんぜん王様らしくないね」
「そう? 議会や枢密院の人たちとはなんとか戦っているわよ」
「ふーん。自分の勘違いじゃない?――ひえっ、そんな睨まないでよう。ごめんってえ」
アレクシアはため息を押し殺す。十四歳……くらいを相手に怒ったところで仕方ない。
「それで? 知っていることはそれだけなの?」
「うんだからね、王家の血筋が。あっ違うよ今ある各国の王家のことじゃなくて、始祖王の血を引いてるかどうかってことね? だからまったくの平民でも素質のある奴はいるかもしれな……ひいごめんなさい要点だけね! ドラゴンが来る、王家の誰かが止める、でもそれが誰かはまだわかんない、以上! ……あ、待って今のは端折りすぎだった」
「詳しく聞かせてちょうだい。要点だけ。いいわね?」
「うん。要点だけね」
アレクシアが額を抑えながら言うと、ウィンスレットはにこにこ笑って帽子を抱きしめた。すっかり警戒やふてくされは消えたようだった。
魔法使いが語ることには、とにかくドラゴンの復活と世界の終わりは真実、らしい。
「千年前から語り継がれていたのに、人間てばすぐ忘れちゃうんだから」
ということで、千年のうちのどこかで口伝が消滅したのが悪い、らしい。当たり前じゃないの、千年もあったんだからとアレクシアは思う。
始祖王はこの世界を救い、今の中央大陸に多くの文明を築いた。その過程でいくつかの血筋を残し、最期は世界の狭間に消えたという。アレクシアの信仰心は彼にないが、前世で読んだ小説の中でも伝説として語られた男だったから、一応、敬愛していた。
その男の血筋が、世界を破滅から救う?
いまいちピンとこない、という顔をしているのを見抜いたのか、ウィンスレットは早口になった。
「えーと、世界が終わるのは早くて三年後、遅くて十年後。そんで――誰かが死ぬ。でも死に方を選べる。その選び方によってこの世界がどうなるか決まる」
「どうなるかって?」
「さあ? とにかく、どうにかなるの。それが決まるの」
「よくわからないわ」
「だよね。あたしも。でも世界の法則が変わるの。ええっと、あたしに見えたのはそれだけ」
ウィンスレットは唇を突き出しへへっと笑った。懐いた犬のようだった。
「わかんないなりに未来視はする。しちゃう。あたしにとって呼吸みたいなものだから。で、その結果を学院長先生とかに報告して、あとは星座図とか水盆とかを読んで暮らしてる。ここは衣食住保障してくれるから好き、あ、ときどき見込みのある女の子を教えたりするよ。カレンナはうまく修行すれば化けるよ」
と扉を指差す。アレクシアは眉をひそめて呻いた。
「そうだったの。……カレンナはもう生徒ではないのよ」
「そうなの?」
「王宮宛に手紙を出したのではなかったの?」
「使用人の人にカレンナに出しといてって手紙渡したら出してくれるんだよ。みんないい感じにしてくれる。魔法使いは生活能力がないからね!」
えっへん、と何故だか胸を張るウィンスレットであった。彼女は続けざまに目を細めて言う。
「それにしてもあなた、魔力ないのに魔力の気配がするね。……誰かと深くつながってるんだね。いいことだよ。悪いことでもあるけどね」
「……そう」
「うん。じゃあね、とにかく伝えたからね。もしできそうなら他の国の王様たちにも教えてあげて。そうすればこの先の展開が変わるかも。世界の運命なんてさあ、決まってるわけじゃないんだから。人間の行動によって、あっちこっちに変わっていくものだから」
「また何かわかったら教えてくれるかしら?」
「いいよう」
ウィンスレットは子供のようにぱたぱた手足を振り回した。
「この世界が終わるまで、あたしは未来とそこに向かう人たちの味方だよう」




