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白銀の王。  作者: 春乃來壱
28/31

28.「ーーこっちを見て。」




ひらひらと小さく手を振るノアに見送られながら店を出る。


外に出ると、道を行き交っていく人の多さのせいかどこか蒸し暑い。


じわりと汗ばむのを感じて、碧はゴソゴソと“ボックス”を漁り、ノアから貰ったばかりの魔法具(ピアス)をつけてみようと手に取った。



それに気づいた2人が歩くスピードを緩めながら近くの人がいないところまで行き、立ち止まる。


「あ、ごめんね。ありがと」


「ダメっすよミドリくん。人が多いんっすから歩きながらは危ないっすよ?」


「…フィーの言う通りだよ。ちゃんと止まってからじゃないと危ないでしょ」


普段からピアスをつけ慣れてる碧は鏡などを見ずに歩きながらでもすんなりとさせるのだが、確かに2人の言う通りだ。

碧が気をつけていても相手からしたらいい迷惑だろうと素直に謝る。


慣れた手つきでピアスをつけた途端、まだ片方しかつけていないのに先程まで感じていた蒸し暑さが和らいだ。これは凄いものを貰ってしまったと感動しているとフィーにじっと見られていることに気づく。


「フィー?どうしたの?」


「ん、あぁいや、ミドリくんがそれつけてるのがなんだか新鮮で…似合ってるっす!」


ピアスは高校に入学した時に輝璃があけていたので自分も開けたくなってあけた。

あける時に何故か碧よりもそれを見ていた龍斗の方が痛がっていて正直痛みよりも龍斗の方が気になってそれどころじゃなかった。


最近はあまりつけてなかったが穴が塞がってなくてよかったと内心ホッとする。


「そうかな?ありがと」


「…俺、碧がつけてるとこ久しぶりに見たかも」


「あー、確かに最近ずっとつけてなかったね。今までつけてたのも自分の部屋に置いたままだったしなぁ」


ずっとつけなくても特に困るものでは無いし持ち歩いて無くしても嫌なので、つけてない時はいつも部屋の決まった場所にしまってある。


持っているものもデザインが気に入って買ったものなどが多いのでそこまで思い入れはないものばかりなのだが、そのなかのひとつだけ、龍斗と奈那さんから貰ったものが入っているのでそれだけは心残りだ。


こんな事になるなら無くさないようにと大事にしまってないでずっとつけておくべきだったと後悔する。


考え始めたらもっと気分が落ちてしまうので下がる気持ちを無理やり切り替え、もう片方のピアスをつけると蒸し暑さは完全になくなった。

むしろ涼しいくらいだ。


これは是非ともノアにこの魔法具の作り方を教えてもらおう。

万が一壊れたとしてもせめて自力で修繕出来るようにはしておきたい。


「それじゃあつけ終わったみたいなんで行くっすかね」


「あ、うん!」


そう言いながらフィーは再び大通りへと向かって歩き出す。

ノアの店からギルドまではそんなに遠くはなく20分程歩けばつく距離で、念の為ノアにもしっかりと道を聞いておいたので迷うこともないだろう。


露店の売り物にはその日しか売ってないものもあると教えて貰ったので、せっかくだからと露店を見ながら行くことにした。


露店によって売ってるものは様々で、旅のお土産になる物から不思議な形をした壷の売っている店、ノアの所と比べるとものは少ないが魔法具が売っている店、他国から取り寄せた衣服などが並んでいる店など色々あるがその中でも食べ物や飲み物を取り扱っている店が多い。



「こんなにいっぱいお店が出てるのに同じものを売ってるお店が見当たらないって凄いね」


「…そうだね、なんかお祭りみたいでちょっと楽しい、かも」


そう言いながら輝璃はふわりと笑う。碧達にとっては露店で売ってる物は見たことの無いものが多く新鮮で、まずは何処に寄ろうかとキョロキョロと周りを見渡す。




「おにいさん、おにいさん方」


すると何処からか声をかけられたので、振り返って声の主を探すが見当たらない。


「あれ?」


「あ、こっちです。下です」


下?と思いつつ視線を下げると小さな男の子が碧の服の袖をくいくいっと遠慮がちに引きながらこちらを覗き込むようにしてみていた。


外見的にはむいと同じくらいの歳のように見える。

その頭には、髪と同じ茶色でふわふわの大きな獣耳がピコピコ動いている。なんの獣人の子なのだろうか。見たところ犬でも猫でもないようだ。



なんにしても可愛いな。頭撫でてもいいかな、でも初対面でいきなり撫でるのはなぁ、と葛藤していると少年が碧の反応がないことに困った様子を見せ始めたので慌てて返事をする。


「あっ、ごめんね。何か俺たちに用かな?」


「あのあの、喉とかかわいてませんか?僕達すぐ近くで飲み物を売ってるんですが買っていきませんか?」


碧が笑いながら答えると少年はどこかホッとした様に“あっちにあるんです”と指をさしながら言う。


「…碧、どうする?」


「ちょうど喉も乾いてたし行ってみよっか。フィーもいい?」


「僕もいいっすよ!」


2人の了承ももらったので少年にその場所までの案内をお願いしようとしたら、近くを歩いてた男性が驚いたように目を見張りながらこちらに話しかけてきた。


「おい、坊主。そいつについてくのはやめておいた方がいい。ーーハイエナ族に関わると碌な事がないぞ」


男性からかけられた言葉に碧達に対しての悪意や害意は感じられず、むしろこちらを心配している様な様子だった。


だからこそ、男性が少年に向ける視線の悪感情がより際立つ。眉間にシワを寄せながら嫌そうに見られている少年は居心地が悪そうに視線を下げる。


「……ぁ」


立ち止まったまま動かない碧達に、少年はハッとした様に碧の服の袖を掴んだままの手をそっと離した。

それを横目で見ながら碧はフィーに“念話”で問いかける。




『…フィー』


『はいっす』


『ハイエナ族って何?なにか悪いことでもしたの?』


『ハイエナ族も獣人なんすけど、ハイエナ族は前に言った獣人国が作られる前に起こった奴隷解放戦で人間を庇った一族として言われてる人達っすね』


『え?じゃあ人をかばったのになんでこの男性(ひと)はこんなに拒絶する、みたいな』


『今はもう殆ど緩和されてますけどあの時の獣人にとって人間は等しく嫌悪の象徴だったんすよ。事情はどうであれ、それを助けたとしたら同族である獣人達を裏切ったも同然、って事らしいっす』


『でもそれってこの子に関係ないんじゃ…』


『獣人は…特に大人達は人間から酷い扱いをうけた人が殆どっすから。全員がそういう人間な訳じゃないって頭では理解してても納得はできなかったから許せなかった、って事じゃないっすかね』



その話を聞いて碧は視線を少年に向ける。今も俯いたままで顔は見えないが腕や足の数箇所に傷跡があることに気づいた。

無意識に眉間に皺がよる。少年に手を伸ばそうと腕を動かすと少年はビクッと怯えた様に体を硬くした。



()()()()()()()だ。

だって、それは痛い事を耐えてきた人の反応だ。

謂れのない言葉に耐えて。痛いのも怖いのも、辛くて苦しくて逃げ出したくても、それをしてしまうともっと痛い事になることを知ってしまっているから。我慢して我慢して我慢して我慢して、そうして見に染み付いてしまった癖。



体を小さくしながら怯える少年は、まるで自分を見てるようで。


ーーー気づけばいつも暗い場所にいた。あの人たちがいつもいる場所とは薄い扉一枚隔てただけで、常に息を殺していないといつ来るかわからない恐怖でどうにかなってしまいそうだった。

居た事さえ忘れていて貰えるように息を殺していたはずなのに、今は壊れそうなほど鳴る心臓がうるさい。静かに、静かにしろ。

だんだんと荒くなる息を、震えた手で口を抑えて無理矢理押し殺す。早く、早くおさまれ。早くしないと帰ってきてしまう。気づかれる前に早く。

カン、カン、カン、とゆっくり階段を登る足音がする。お願いだから早くおさまってとさらに手に力を入れる。もう、すぐドアの近くにいる。

あの人が入ってくる前に、はやくはやくはやくはやくはやくーーー




「ーー碧、こっち見て」


「……っ」




パニックになりかけていた碧を呼び戻すように、輝璃が碧の頬を包み込みながら目を合わせるように覗き込む。

なかなか合わない視点が自分に合った事を確認してから輝璃は落ち着くようにゆっくり言葉を続ける。



「…そう。そのままゆっくり息をして。この手も邪魔だから離しちゃおうか。…あぁ、強く掴むからほっぺに跡がついちゃったね。それに体にずっとこんな力入れてたら疲れちゃうでしょ?力抜いてリラックスして」


「かが、り」


「ん。大丈夫、そばにいる」


「………そう、そうだよね、ごめん。ちゃんと、落ち着いた」


輝璃の手の体温を感じながら、碧は少しずつ落ち着きを取り戻していく。


こうして体に直接触れられてる方が碧が安心しやすい事を知っている輝璃は、完全に落ち着くまで手を離さずに待っていてくれる。


「…ん。もう、大丈夫そうだね」


碧がゆっくりと目を閉じると、輝璃は優しく笑いながらそう言った。





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