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白銀の王。  作者: 春乃來壱
23/31

23.あおいろの少年。




少し眉を下げ困り顔で佇む少年を、セラが笑顔で手を引きながら戻ってくる。


連れてこられた少年は、短く揃えられたふんわりとした青髪に、少しつり目でぱっちり二重の碧瞳。背丈は中学生くらいか。これで髪が長かったら女の子と間違えてしまいそうな可愛らしい顔立ちをしていた。


セラに手を引かれるまま歩いてきた少年と目があった。少年も碧達と1度昼に会っていることを覚えていたのか少し驚いたように目を見張ってからペコリと会釈をした。


「もう、アルちゃんったら帰って来てるんなら早く中に入ってくればいいのに…」


「えっと、誰か来てるみたいだったから邪魔になっちゃうかなって」


「家族なんだからそんなこと気にしなくてもいいの!」


「…ごめんね?そうだ、グラシェの仕込み手伝うからさ。ね?」


「そうねぇ、なら許しちゃう!…おかえりなさいアルちゃん」


「うん。ただいま、セラさん」


「あ、もう!お母さんって呼んでって言ってるのに…」


子供のように頬を膨らませて言うセラに、少年(アル)は苦笑しながら宥める。

そのままアルと話し、すっかり機嫌の直ったセラは、マリーとアル、グラシェに興味を持った雪とむいを連れて料理の仕込みをしに厨房に入って行った。


「ねぇフィー、ルーティアって何歳から働きに出るものなの?」


「んー…小さい頃から働きに出る子も多いって聞いたことがあるくらいで、僕も詳しいことはあんまりわからないっすね…」


「…あの子、何歳くらいなのかな」


「アルはマリーと同じ13歳だぞ。仕事に出る年齢もまちまちだがまだ幼いやつが出来る仕事なんて、家の手伝いか、冒険者かそれの手伝いくらいだな。冒険者登録できるのも6歳からだし、殆どは荷物運びとかをやってるな。なんだ、坊主達は世情に疎い感じか?」


碧達の疑問にマークが順に答える。

仕事に出る歳などの知識はルーティア、延いては獣人国の住民にとっては街で普通に暮らしていればよく見る光景で、学ばなくとも何となく知識として覚えているはずのもので。

それを知らぬ碧達をマークは不思議そうに見ていた。


フィーとむいは何百年も災厄の森に篭ってたのだし、碧や双子に至ってはつい最近ルーティアに来たばかりだ。

ルーティアの世情など知らなくて当たり前なのだが、それをマークが知る由もない。どう答えるべきか返答に迷っているとフィーがニコニコと笑いながら答えた。


「僕ら辺境の地から出てきたばかりなんで外の事はまださっぱりなんすよね。おばばにはそれを含めて勉強してこいって言われたんすけど」


「そうだったのか、じゃあ慣れないことばっかで大変だろ。なんかあったら言ってくれていいぜ」


「…ねぇ、マークさん」


「なんだ?」


「…傭兵って、アルの年でも入れるものなの?」


話を聞いて、マークはアルの居る厨房を見ながら複雑そうに笑った。


「傭兵は実力主義だからな。幼かろうが歳食ってようが関係ねェんだよ。獣人国にとって、門は外から攻撃された時の防衛の要になる。当然その門を守る奴も強くなきゃいけねェ。だから門番になるには試験があるんだけどな。まぁその試験ってのが最悪でな?魔獣とサシで戦わされたり、高難度なクエストに行かされたり、常日頃から危機感を持てだとか言っていきなりナイフが飛んでくるんだわ」


「ナイフが飛んでくる試験って…」


試験のことを思い出しているのか、マークがゲンナリした顔で言う試験を想像して、碧は頬が引き攣る。

生活してたらいきなりナイフが飛んでくるだなんでどんなサバイバルだろうか。獣人は人より丈夫な体をしているらしいので感覚が違うのかもしれないが、それでもきついだろう。


ただ、試験はもっと過酷なものがあったようで。


「1番最悪なのは最終試験の団長と戦わなきゃいけない事なんだよ。団長が持ってる木刀を奪うか、自分が体力切れで倒れるまでひたすら戦うんだ。あの人バカみたいに強いのに体術に関しては手加減無しで来るから全然奪えねぇんだよ。俺がどれだけ苦労したか…」


“1発がすげぇ重いんだもんなぁ…”と言いながら片手で顔を抑えたマークの耳がペタン、と垂れている。相当キツかったらしい。



「…アルも門の所に居たってことは、その試練に受かったの?」


「あぁ。あの試練を最年少で受かったのがアルなんだ。大人でも泣き出す試験をサラッとやってのけたから流石の団長も驚いてたよ」


「大人でも泣き出す試験を13歳で…アルってすごく強いんだね」


「いや、アルが試験に受かったのは1年前だから12歳だな。最初のうちは他の奴らからどうせ不正だろうって言われてたが、アルの仕事っぷりを見てからは、むしろマスコット感覚で可愛がられるようになったな。流石俺の子だろ?」


自分の事のように嬉しそうに話し始めたマークに、フィーがふと“ならアルの耳もマークと同じ様に魔法具で消してるのか”と聞くとマークはピタリと動きを止め、首を左右にゆっくりと振った。


「いいや、アルに俺らみたいな()はない。アルは獣人じゃないんだ。」




6年程前。

十数年前に獣人国に移り住んできた時に建てた宿屋も経営になれてきて軌道に乗り、マリーも簡単な事からだが家のことを手伝ってくれるようになった。


マリーが7歳の誕生日を迎えたあと、セラの言葉に後押しされて傭兵になる為の試験を受けることにした。

国の守りの要の傭兵として働くのは男なら誰しも一度は憧れを持つもので、マークもそうだった。獣人国に移住する際に1度だけその事を零したことをセラはずっと覚えていてくれたのだ。


衛兵になる為の試験は超難関と言われていて、年に何百人も挑み、その殆どが落とされている。


獣人は普通の人間とは体のつくりが違う。更には種族によって特性も、強みも違う。

跳躍力が長けた者。足が早い者。子供と間違えてしまいそうな小柄な者。見上げるほど大柄な者。鋭い牙を持つ者。空を飛べる者。遠くの物音でも聞こえる異常に耳がいい者。夜の暗闇でも昼と変わらない様に見える夜目が効く者。音でどこに何があるか把握出来る者など様々だ。


あまり役に立たない特技や特性を持つものも居るが、殆どが自分の特性を活かした仕事についている。


マークは熊の獣人で、魔法など細かい作業は苦手だが腕っ節だけならかなり強い。魔獣とサシで戦わされたが難なくクリアした。


2つ目の試験は、ある村の近くに山から下りてきた醜豚(オーク)の群れの討伐だった。

依頼のあった村まで行くと、オークの巣の近くまで案内された。


案内してくれた男性にお礼を言い、男性が村に戻っていくのを見届けてから剣を構えた時、醜豚(オーク)の巣の中に小さな男の子がいるのを見つけた。





「…その時見つけた子供がアルだったんだ。アルは魔法適性が高かったんだが、使い慣れてなくて魔力が暴走したらしくてな。そのまま生みの親に捨てられちまったらしくて俺がそのまま連れて帰ってきたんだ」


「なに?ぼくの話し?」


「ん?ああ、俺の自慢の息子だって話してたとこだよ」


仕込みがある程度終わったアルが厨房から出てきた。少しだけ話が聞こえていたらしく不思議そうにしている。そのまま近づいてきたアルの頭をマークがガシガシと撫でる。


「わっ、ちょっとマークさん!」


「なんだ?もっと撫でて欲しいのか?」


「ちょっ、違っ…わなくもないんだけど!セラさんが呼んでるんだってば!」


「お?そうか、じゃあちょっと行ってくるわ。アル、坊主達に遊んでもらいな」


門で見た時は利発そうな大人っぽい印象だったが、マークの前では年相応のようだ。マークに撫でられ反抗しながらも顔は嬉しそうに少し緩んでいるのを隠しきれてなかった。

撫でられてくしゃくしゃになった髪の毛を直しながらアルは碧達の方に視線を向けた。


「門で会ってるから初めまして、では無いですけど改めて。アルって言います。お兄さん達がここに泊まるんだったら多分何回も顔合わせると思うので、仲良くしてくれたらうれしいです」


「俺は碧って言うんだ。こちらこそ仲良くしてね」


「…輝璃、です。仲良くしてね」


「フィーって言うっす!最年少で衛兵になったなんて凄いっすね!」


「ぼくはただマークさん達の役に立ちたかっただけだから…」


「…それでも、凄いよ」


「ありがとう、でもマークさんには内緒で試験に参加したから最初は怒られちゃったんだけどね」


フィーと輝璃に褒められ、アルは照れてしまったらしく少し頬を赤く染めた。そのまま続けた言葉に驚愕する。


「えっ、黙って試験受けたの?だって衛兵の試験って大人でも辛い試験なんでしょ?」


「そう言われてるのは知ってたけど、マークさんと一緒に仕事してみたかったから頑張ったんだ」


なんてことは無いようにサラッと笑顔で言うアルに碧は天才ってどこの世界にも居るんだな…と思った。




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