57.スゲー事言い出したよ、おい
「あれは芝居じゃなかったのか?」
『だから違うって。そもそも芝居なんてしようとも考えていなかったよ。僕はね、君があの連中を率いてここにやって来たと思ったから腹が立ったんだよ。僕を探している人間は非常に多いからね。で、その話が本当だとしたら君が敵になる訳だろ? だったらまずは君から始末しようと思っただけだよ』
「俺から始末?」
『うん。僕の存在を狙って地底湖にやって来る人間は後を絶たないから、目立たない場所で活動しているだけだよ。あの地底湖で僕にさらわれる事も全て想定した上で、あの辺りにあのコートの連中を配備しておいて、空を飛ぶ僕の姿を見つけたらその方角に向かって追い掛ける様に指示を出す。そして、あの森の中に着地したって分かったらあの集団で攻め込んで、物量作戦で一気に僕を捕らえるつもりだったんじゃないかって思ってさ』
早とちりと言うか、勘違いも甚だしいその予想の内容に、リュディガーは思わず乾いた笑いを浮かべてしまう。
「はは……とんでもない考えだな。そもそも俺とあのコートの連中のリーダー2人が目の前で戦い始めて、それでおかしいと思わなかったのか?」
普通はそこであの2人と自分が敵対関係にある、と理解出来そうなものだがなとリュディガーが付け加えるが、ドラゴンの答えは予想の斜め上を行く。
『僕はあれが芝居だと思っていたよ。僕の目の前でああ言う風に争いを始めて、そして苦戦するふりをして僕にも攻撃をさせる。それで僕の実力を大体測った上で、部下たちに僕を捕らえさせるために動かしたんじゃないかと思ったんだよ。現にあの水色のコートの魔術師が言っていたでしょ。私達2人がこの男の相手をするから、貴方達はこのドラゴンを相手にしなさいって。僕はその時になって確信したね。そうやって敵のふりをして、自然な流れで大勢の部下達に僕の相手をさせて捕まえようとしているって』
こんな長々と斜め上の答えを言われて、リュディガーは変な意味で感心してしまう。
「凄いな……ある意味凄い。尊敬する。良くそこまで考えが広がるものだ」
『長い時を生きていると色々見ちゃうからね、僕も。だから色々と警戒するのは当然の事なんだよ』
「あんたは一体何歳なんだよ?」
『もう3000年以上生きてるよ』
「……」
話の流れで軽い気持ちで年齢を聞いてみたリュディガーだが、まさかの答えが返って来て言葉を失ってしまう。
ドラゴンは他の魔物に比べて長寿だと言うのを文献で知っているが、それでも長く生きて1000年位だとの情報だ。
『どうしたの、急に黙っちゃって』
「いや……そんなに長く生きてるのかと驚いた」
『それは色々仕方無いよ。僕だって早く死のうと思って生きてる訳じゃないもん。僕等ドラゴンだって人間だっていずれは絶対に死ぬんだから、それは変わらないでしょ。ただそれが長いか短いかの違いだけだよ。僕達は他の竜族と違って長くて1万年位が寿命らしいんだけど、それまで生きていると退屈でね。だから世界中を回っているって訳だよ。でも、人間に捕まるのだけはごめんだね』
世の中を長く見て来たからこそ、かなり達観した様な口振りのこの青いドラゴン。
そんな彼に対して、リュディガーはふとこんな疑問を口に出す。
「そう言えばあんた、さっきゼッザオって言う場所の事を知っているって言ってたな?」
『ああ、確かに言ったね』
「だったらルヴィバー・クーレイリッヒの事も知っているんじゃないのか? そのゼッザオに渡って茶色いドラゴンと交流を持っていたんだろう? そしてあんたも茶色いドラゴンの事を知っているなら、ルヴィバーの話も同じ様に知っていてもおかしくないと思うけどな」
自分が目標にしているその偉大な冒険家に繋がる手掛かりが少しでもあるのなら、彼の素性を知っているこのドラゴンに話を聞いてみようと考えたリュディガー。
だが、その質問タイムはそろそろ時間切れの様である。
『あ……それに答えても良かったんだけど、もう駄目だ』
「え?」
『そろそろ地底湖が見えて来るからさ。ほら、あの向こうに』
ドラゴンが首を振って指し示す方向には、うっすらとではあるがあの地底湖の吹き抜けの場所が見える。
このままドラゴンと共に着地したら色々と面倒な事になるかも知れないので、手近な所で降りて「何とかドラゴンを追い払った」と言う設定で逃れてくれとの要望が彼から出たのだ。
「別に話しても問題無いんじゃないのか?」
『駄目だよ。僕等ドラゴンは世間では人間の言葉が通じない設定なんだから。もし約束してくれないんだったらこの高度から落ちて貰うよ』
「……分かった」
また脅迫されたリュディガーはそれを渋々受け入れ、手近な林の中で下ろして貰う。
だが、別れる時にドラゴンがこんな一言を。
『ああそうだ、最後にほら……この国の連中が持ってっちゃったあのバングルあるでしょ?』
「バングル……ああ、あったな」
『あれがゼッザオに繋がるカギになる、とだけ言っておくよ。じゃあね!』
「え、あ、ちょっ、おい……!?」
かなり気になる事を言い残し、ドラゴンはリュディガーに背を向けて風を巻き起こしながら飛び去って行ってしまった。




