56.食い違い
名前そのままの魔術を展開させて、未だに地面に這いつくばっているコートの集団を眼下に見下ろしつつ、ようやくバトルが終わってホッとするリュディガー。
だが、ドラゴンのテンションは未だに低いままだ。
「……何処か具合でも悪いのか?」
『違う。そんなんじゃない』
「違うのか? でもさっきより明らかにテンションが低いんだが……一体どうしたんだよ?」
普段は他者の様子に余り関心を示さないリュディガーだが、命の恩……いや恩ドラゴンの様子が変だと言うのがこの背中に乗っていてヒシヒシと伝わって来るので、それが気にならないと言う方がおかしい。
自分の命を救ってくれた存在がこんな様子なので、自分でも驚く程その様子を気に掛けているリュディガーに対し、リュディガーが自分の耳を疑ってしまうレベルの思いがけない疑問をドラゴンは言い出した。
『……君さあ、僕を捕まえに来た訳?』
「ん?」
いきなり何を言い出すのかさっぱり分からない上に、何故そんな事を自分に聞いて来るのかも意味不明である。
そもそも何を持ってそんな疑問が出て来るのか、逆にリュディガーはこのドラゴンに聞いてみたい気持ちで一杯だった。
「ちょっと待ってくれ。俺があんたを捕まえるってどう言う事だ? 一体何の話だ? そもそも捕まえられたのは俺の方なんだし、発言する相手が間違っているんじゃないのか?」
疑問と怒りがミックスしたリュディガーのその口調だが、ドラゴンもドラゴンでしっかりと言い分があるらしい。
『だってさー、あんな場所にコートの集団がそうそう都合良く現れるもんかな? あんなにタイミング良く現れるなんて、ちょっと話が出来過ぎていると思わない?』
そのドラゴンの言い分を聞いて、リュディガーは自分があのコートの集団と結託しているのではないかとこのドラゴンに疑われていると気づいた。
「まさか俺を疑っているのか?」
『あんまりこんな事は言いたくないけどね。でもあれだけの集団を連れて来た上に、それなりに戦い慣れている感じだったし……途中であーやって斬り掛かる様に事前に打ち合わせしたり、ファイアーボールで狙われたりしている様に見せ掛けたりしたんじゃないの? 同じ人間同士で結託していても別に不思議じゃないからね』
「何だと?」
あの場所から脱出させてくれたのは嬉しいが、はなっから自分を疑っている様なその口振りにリュディガーの口調も険しくなる。
それでも何とか冷静になる様に気持ちをコントロールして、自分はあの集団とは何の関係も無い事を分かって貰おうとする。
「そう言われても、俺は本当にあの連中は知らないんだ。そもそも俺だってあの連中と因縁があるんだよ。あいつ等に狙われて、それで命からがら逃げたのがつい最近の話だからな」
実際にあのネルディアの街の中で、大きめの魔術を自分に向かってぶっ放してきたのがあの水色のコートの男だったので、あんな連中と組めと言われてもこっちからお断りである。
『ふーん、ああそう……一応信じるけどさ、完璧には信じた訳じゃないからね』
「それは知らんよ。でもな、俺はあの連中と結託なんかしていない。むしろ俺とあんたが結託してた筈だろう」
自分と芝居を打って、あの連中の目を欺いてそのまま脱出する手筈で物事を進めていたのだとばかり考えていたリュディガーだが、ドラゴンからのリアクションは再び予想を裏切るものだった。
『はあ? 何言ってんの?』
「え?」
『僕と君が結託するなんて……僕はそんな話なんて聞いていないし、そもそも結託した覚えも無いんだけど』
「え、え……? こっちの気持ちを読んでくれたんじゃないのか?」
『だから何の話? そもそもさー、あの集団を率いていた君の命令でタイミングをずらしてあの連中があそこに現れたんじゃないの?』
もしかすると……いや、この話の流れは確実にお互いの考えていた事が食い違っていたらしいとリュディガーは気が付いた。
「いや、だから俺はあの連中とは何の関係も無いんだって」
『さっき因縁があるって言ったじゃん』
「それはそうだけど悪い意味での話だ。ちょっとお互いの話が噛み合っていない様だから一旦整理しよう。俺はあの連中と敵対関係にある。そしてあんたはあの連中が自分を捕まえに来たと思っている。そしてあの連中を率いているのが俺だと思っている。ここまでは間違い無いか?」
なるべく冷静な説明をする様に心掛けて、ドラゴンに確認したリュディガーはまずは期待通りの返事を受け取った。
『そうだね、その通りだ』
「なら良い。それじゃあ次だが、あの連中が俺とあんたの目の前に現れた時にあんたの様子が明らかに変わったな。かなり怒りの表情を浮かべて、今にも暴れ出しそうな雰囲気だった。そしてあんたは俺に対していきなり攻撃を仕掛けて来た。ここまでは良いな?」
『うん』
「そして、俺はそれをあの連中の目を欺く為の芝居だと思った。これは?」
『それは違うね』
どうやら芝居云々に関してのあの考えが、お互いの意見の食い違いに繋がっているらしいとこの時点で分かった。




