52.襲われて良かったの?
真面目な口調でリュディガーにそう言うドラゴンだが、それでもリュディガーはゼッザオと言う場所が気になって仕方が無い以上、改めて自分の答えを口に出した。
「そうか。なら答えはNOだ。俺は絶対に行く。ルヴィバーは数々の冒険を経験して、最終的に俺の生まれ育ったイディリーク帝国を建国した人間だから、彼が何処でどうやって旅をして行ったのかどうしても知りたいんだ」
『ふうん、ああそう……なら僕は止めない。好きにすれば良いさ』
リュディガーの固い意思に根負けしたドラゴンは説得を諦めて、彼が旅を続ける事を了承した。
が、リュディガーはまだドラゴンに聞きたい事が山程ある。
「それはそうとして、何でこの話が俺とあんただけの秘密なんだ? 別に他の人間に話しても良い様な気がするがな」
かなり深刻な内容なので確かに他の人に話すのはためらうかも知れないが、話を聞いている内に「別に他の人間に話しても問題は無いんじゃ無いか?」と考えたリュディガーはそう言う。
だが、ドラゴンはそうはいかないらしい。
『ダメダメ、絶対ダメ。そうなったらゼッザオを目指して行く人間が沢山現れちゃうよ。僕もゼッザオの場所は知っているけど、今ここで君に教えるつもりは無いよ。あそこは僕達竜族にとっての一種の聖地なんだ。そこをこれ以上人間に荒らされるのはきついからね。ルヴィバーがあの土地に入り込めたのは本当に運が良かったからだよ』
ゼッザオは竜の聖地。
細切れではあるものの、自分が求めている見知らぬ土地の手掛かりや内部事情が分かって来たリュディガー。
それでもまだまだその情報が足りないので、もっとドラゴンに教えて貰おうとする。
だがその一方で、自分のテリトリーを荒らされて怒り心頭だったこのドラゴンはリュディガーに攻撃を仕掛けて良かったと思っているらしい。
『でも、実力としてはまあまあ大丈夫な気もする』
「は?」
その言い方だと「ゼッザオに行っても生き延びて来られるのでは無いか?」との期待をしている風に聞こえるので、さっきの「ゼッザオに行くのを諦めて欲しい」と主張があべこべになってしまう。
「あんた、自分の言っている事が矛盾してると思わないか?」
『そうかもね。ちなみにルヴィバーの子孫が旅をしているって聞いたのは、僕がイディリークで色々な絵を書いて回っている時だったんだ。最初はまさかあのルヴィバーの子孫が? って驚いたけど、何だかコートの連中と色々揉めたらしいって聞いて、一体何をしようとしているのか興味があったんだよね』
リュディガーの疑問をサラッと流してドラゴンは続ける。
『それで君に会いたいと思ってこうして目の前に姿を現した訳なんだけど、その前に僕のテリトリーに足を踏み入れたって事でちょっとイライラしてたんだ。だけど、君に攻撃を仕掛けて割と良かったと思ってるよ』
「全然良くない。こっちは死にかけたんだぞ」
足の爪で引っ掻いてこようとしたり、その大きい身体で押し潰そうとして来たり、挙句の果てにはあんな鉄砲水まで食らいそうになって手も足も出ない状況が続いていたのに、その張本人……いや、張本ドラゴンからそう言われてしまったので冷静な性格のリュディガーの怒りも、流石にそろそろ爆発寸前になってしまっていた。
しかしリュディガーの目指している最終目的地が、自分達の聖地であるゼッザオであると知ったドラゴンは、そのゼッザオに降り立った時に自分とバトル出来た事がリュディガーに取ってきっと役に立つだろうと言い出した。
『君がもし無事にゼッザオに辿り着いたら、その時にその茶色い奴と戦うかも知れないね』
「何故分かる?」
その茶色いドラゴンが居ないかも知れないだろう? と話を断定しないリュディガーに対して、青いドラゴンは自分なりの理由を述べる。
『さっきも言ったと思うけど、その茶色い奴は人間を信じていないからね。だから僕と同じ様に基本引き篭もりがちな訳。いや、もう今は完全にゼッザオに引きこもっていると言って良いだろうね。まして竜族って言うのはさっきも言った通り、自分のテリトリーを荒らされるのが本当に嫌いな種族なんだけど、あいつが今もそんな生活をしていれば、自分のテリトリーを侵す様な奴を許すと思うかい?』
「……いいや」
決して許されないだろうなと予想するリュディガーに、ドラゴンも頷いて続ける。
『ふーん、その辺りは理解出来るみたいだね。言っておくけどその茶色い奴は妙に強いから、僕と戦えて本当に良かったかも知れないね』
「強いのか?」
『うん。魔術に関してはそうでも無いんだけど、身体能力は黄色い奴……あ、黄色いドラゴンも僕の仲間なんだけど、その黄色いドラゴンは体術と武術全般に優れているんだ。恐らくシュア王国に行けば会えるんじゃないかな。で、茶色い奴は黄色い奴に少し劣る位の身体能力の持ち主だから気を付けた方が良いだろうね』
話の中で突然出て来た黄色いドラゴンの情報。
それについてももっと知りたい所だが、そのリュディガーの知的好奇心を邪魔する存在がこの後この森の中に現れるのだった。




