50.喋り出したドラゴン
そんな彼の様子を見て、青いドラゴンはのっしのっしと足音を立ててゆっくり近づいて来る。
『そりゃまあ、こうやっていきなり人間の声が僕から聞こえたら不思議だと思うよね。でも現にこうして君の目の前のこのドラゴンが君に話し掛けているんだよ。分かるかな?』
「……何だと?」
ドラゴンが自分に話し掛けている?
しかも人間の声で、意思疎通をしっかりと出来ている?
ドラゴンは自分の鳴き声やボディランゲージでコミュニケーションを取ると聞いているが、人間の言葉を理解するドラゴンなんて見た事も聞いた事も無い。
それがまさか、こうして自分をここまで連れて来たドラゴンがそうだなんて。
「ちょっと待て……話がさっぱり理解出来ん。あんたは一体何なんだ? 何故俺をここまで連れて来たんだ? そもそも何で人間の言葉を理解出来るんだ? と言うか俺をさっさと元の場所に戻してくれないか? それよりもあんたは本当にドラゴンなのか?」
矢継ぎ早に出て来るリュディガーの質問に対し、グルグルと唸り声を上げた青いドラゴンは困った様な顔になった。
『待った待った。そんなにいっぺんに聞かれても僕は答えられないよ。1つ1つ順番に答えるからさ、まずはその前に僕の話を慌てないで聞いて貰えないかな』
「話だと? 俺に話があるのか?」
『うん、そうだよ。荒っぽいやり方だけど、君に話があるからこそこうしてここまで連れて来たんだからね』
「そこまでして俺に話さなければならない事があるのか?」
かなり不機嫌そうなリュディガーのその声にも、彼(?)は自分のペースを崩さずに答える。
『だからそう言ってるじゃないか。とりあえずここまで連れて来た理由とかは後で説明するから。これから話す事は君と僕とだけの秘密だよ』
しかしそう言われても、こうやって強引なやり方をされたリュディガーは素直に納得出来無い。
「……秘密にするかどうかは、これから先のあんたの態度次第だ」
不機嫌なのを隠そうともしない声色でドラゴンに向かって言ってみるものの、ドラゴンはリュディガーに対して平然とこう言い放った。
『あっそう、それならそれで良いけど……だったらここで死ぬ? それともここで置き去りにされた方が良い? この森には大きいのから小さいのまで色々な魔物がいるからね。そんな武器も持っていない丸腰の状態で、ここから無事に抜け出せると思わない方が良いと思うけどなあ』
「……分かった」
『素直でよろしい』
素直云々では無く、早い話がそれはただの脅迫じゃないかとリュディガーは心の中で突っ込むものの、それを自分の口から出す気力はもう残っていなかった。
そんなドラゴンの脅迫……もとい素直なリュディガーの反応で、今から話すドラゴンの話は秘密と言う事になった。
だが、確かにそれは秘密にしておかなければならないだろう……と話を聞いている内にリュディガーも思ってしまう事になる。
『えーっと、それじゃ僕が何でこんな事をしたのかって話なんだけど……話の前にまず君に聞きたい事があるからそれから率直に言っちゃうね。君はあの偉大な冒険家のルヴィバー・クーレイリッヒの子孫なんだろう?』
ストレートにそう問われたものの、腕を組んでリュディガーは渋い顔になる。
「いや、その辺りは俺も良く分からないんだ。俺の親戚の先祖がそのルヴィバーだったって言う話は聞いた事があるから、俺は直属の子孫じゃ無いと思っている」
実際の話、リュディガーは自分がそのルヴィバーの子孫であるとは思っていない。
……のだが、親戚関係から立ち聞きしてしまったあの会話の内容からすると、もしかしたらその線もあるのかも知れないと今は徐々に思い始めている。
なので、まだ自分の先祖云々に関してはあやふやな状況なのだ。
それを聞いて、ドラゴンはリュディガーにこう告げた。
『えー、そうなの? だったらおかしいよ。だって君からはルヴィバーの波動を感じるんだよね』
「はい?」
波動なんて言葉は自分の関係では初めて聞くが、そもそもその波動とは一体どう言う意味で出た単語なのだろうか?
その疑問をこのドラゴンに聞いてみると、彼(?)はなるべく丁寧に説明をしてくれた。
「波動って何だ?」
『波動って言うのは、個人個人が持っているオーラみたいなもんだよ。僕達には魔力の流れとか種類とか、それから量が人間達とか他の魔物達から見えるんだけど、そのルヴィバーの持っていた魔力は非常に独特なものだったから良く覚えているんだよ』
「と言う事はもしかして、冒険日誌の中に書かれていたドラゴンってまさか……」
まさか目の前にいるこのドラゴンが、あの冒険日誌の中のエピソードで人間の言葉を覚えたと言うドラゴンなのだろうか?
確かに実際にこうして人間の言葉を操っている以上、そう考えるとかなり辻褄が合う。
だが、青いドラゴンはそれを否定する。
『僕は違うよ。その冒険日誌のドラゴンって確か、茶色い奴じゃなかった?』
「いや、そこまでは読んでいないんだが……」
まだ全て冒険日誌を読み終えていないリュディガーが素直に答えると、ドラゴンは呆れた口調になる。
『何だよそれ。冒険に出る位ならそれ位ちゃんと読んどいてよね。……まあ良いや、そのルヴィバーの残した冒険日誌に出て来るドラゴンっていうのは、元々僕等の仲間だったドラゴンだよ』
「何だって?」




