48.とんでもない展開
ドラゴンは凶暴で見境無くこちらを襲って来ているので、早めに脱出してしまわなければ追い詰められるだけだ。
後ろの洞窟に入り込んでしまえば、身体の大きなドラゴンは入り込めない高さなので一気に逃げ切れる。
だから何としてもそこに飛び込むチャンスを逃すまい、とする2人の目の前で今度は身体をすくめたドラゴンが、2人にもハッキリと見える程の魔力のオーラで身体を包み込む。
その青いオーラに包まれる異様な姿に、先に反応したジェクトが息を呑みつつリュディガーを抱き抱えて地面に引っ張り倒した。
「うお……うおっ!?」
後ろからいきなり地面に引きずり倒されたリュディガーは何が起こったのか理解が追い付かなかった。
しかし今の今まで自分が立っていた場所に次の瞬間、まるで大雨で川が一気に氾濫したかの様な鉄砲水が通り過ぎて行くのはしっかりと目に捉えた。
今までそんな鉄砲水がドラゴンの方から放たれる光景を目にした事が無かったリュディガーは、冷静さをすっかり忘れて呆然としてしまう。
だが、ジェクトはそんな彼を引っ張り起こして耳元で叫んだ。
「次が来るぞ!」
鼓膜が破れそうなそのジェクトの大声に、我を取り戻したリュディガーはジェクトと反対方向に向かって地を蹴って回避行動を取る。
その2人が居る場所に向かって、2発目の鉄砲水がドラゴンの口から放たれた。
この攻撃からしてもドラゴンが完全に怒り狂っているのが分かる。勝てる等と言う気持ちは最早微塵も無く、恐怖と絶望がリュディガーの心を支配して行く。
(恐ろしい……ドラゴンがこれ程までに恐ろしいと感じた事は今まで無かった!!)
傭兵達でグループを作って立ち向かったドラゴンとのバトルの時とは違い、今の自分達はたった2人。
しかもこの青いドラゴンは普通のドラゴンでは無いらしく、強力な攻撃と素早い動きで翻弄して来るのでタチが悪い。
こいつはもしかしたらここの「ヌシ」なのではないかと考えるリュディガーはそれをジェクトに伝えようとするものの、先に動くのはドラゴンの方が速かった。
リュディガーとジェクトの距離が一時的に離れたのを見て、再び地を蹴ったドラゴンは前足を伸ばしつつリュディガーに覆い被さる様に肉迫する。
「くっ!」
ジェクトが今度は土属性の魔術の1つである、魔力で作り出した岩のボールを手から撃ち出す「ロックボール」でドラゴンを足止めしようとした。
が、ドラゴンの動きは意外に素早い為にそのロックボールが身体に弾き飛ばされてしまう。
((しまっ……!))
ロックボールが弾き飛ばされたのを見て目を見開くジェクトと、回避場所を考える暇も無く咄嗟の判断で後ろに向かって飛んだリュディガーの心の声が重なった次の瞬間、ドラゴンの身体とリュディガーの身体が重なった様にジェクトの目には見えた。
「リュディガー!!」
大声で彼の安否確認をするジェクトだが、そんな彼の目の前でとんでもない光景が繰り広げられたのはこのすぐ後。
「う……うわっ!?」
ギリギリそのボディプレスから逃れる事に成功したリュディガーだったが、ドラゴンは前足を伸ばして彼の右足を器用に掴んでそのまま空中に飛び上がる。
すると当然リュディガーの身体は宙吊り状態になり、まさかの事態に焦ったリュディガーはあろう事か唯一の武器であるソードレイピアを取り落としてしまった。
「なっ、ちょ、待て!」
「リュディガー!!」
吊り上げられる恐怖と、自分の愛用の武器を落っことしてしまった絶望で完全にパニック状態になったリュディガーを前足で掴んだまま、ドラゴンはバサバサと翼を動かして自分が入り込んで来た吹き抜けから出て行こうとする。
「くそっ!」
残されたジェクトは咄嗟にリュディガーのソードレイピアをドラゴンに向かって投擲するが、それをドラゴンは余裕で回避して吹き抜けから飛び去って行ってしまった。
(何て事だ……これはまずいぞ!!)
とにかくこの状況を上の駐屯地に居る騎士団員達に報告しなければと考え、まずはようやく霧が薄くなって来た洞窟から脱出する為にジェクトは走り出した。
まさかリュディガーがドラゴンに連れ去られてしまう、と言う最悪の状況を目の前で見てしまった彼は、その顔に焦りの色を浮かばせて洞窟内を全速力で突っ走る。
(守れなかった……目の前の敵から俺は民を守る事が出来なかった!!)
しかし後悔した所で時を戻せる訳では無いので、とにかく今は自分が出来る最善の行動をするしか無い。
ドラゴンは肉食の魔物なので、連れ去られてしまったリュディガーが最終的にどうなるのか大体イメージ出来てしまうのが、更にジェクトの焦りを増やす原因になっている。
リュディガーが連れ去られてしまうのを止められなかった後悔と自責の念で吐きそうになりつつ、息を荒げて時折り足を岩に取られて滑りながら、こちらに向かっているであろう駐屯地のメンバーとの合流をジェクトは急いだ。
(待っていろよリュディガー、必ず助け出してやるからな!!)




