47.逃がさないよ
城での事情聴取で、今の自分と共にドラゴンに退治しているリュディガーが傭兵をしている、と言う事を知っていたジェクトに「早く行け」と静かだが力強い声で言われたリュディガーは、根負けして彼が出した指示を受け入れる。
「……分かった。すぐに戻って来るから、あんたもそれまで死ぬんじゃないぞ」
「勿論だ」
先程の自分のセリフをそっくりそのままコピーして頷くジェクトに背を向け、リュディガーは先に走り去って行った3人に続いて、地底湖の出入り口に向かって自分も走り出した。
……のだが、そんな彼の目の前にいきなり白い霧が現れる。
「なっ!?」
突然自分の視界を遮ったその白くて濃い霧に対して、思わず走り出した足を止めてしまったリュディガー。
だが、突然の霧の出現に驚いているのはどうやら自分だけでは無いらしい、と後ろから聞こえて来たジェクトの声で察する事が出来た。
「な、何だこの霧は!?」
普段は冷静沈着な性格の2人も、何の前触れも無く突然現れたこの霧に驚きの声を上げるのも無理は無かった。
こんな洞窟の中でいきなり霧が現れると言う事は、それこそ余りの巨大な洞窟でない限り御目にかかれるものでも無い。
と言う事は、この霧を生み出しているのは……とリュディガーもジェクトもこの場に降り立った異質な存在に目を向ける。
「まさか、あのドラゴンが霧を……!?」
「そうとしか考えられないな。この霧からは魔力を感じるから、あのドラゴンが魔術の類を使って俺達をどうしてもここから逃がさない様に、こうして霧を生み出したのだろう」
相変わらずの冷静な分析をするジェクトだが、その顔には明らかな焦りの表情が浮かんでいる上に顔をしかめて歯ぎしりをしている。
今のドラゴンは旋回を止め、湖の中心部分にある陸地に降り立って2人の立っている場所を見ている。
1メートル先も見えない様なこの濃い霧の中では、先に走り去っていったあの3人も含めて洞窟の中を走り回るのは非常に危険である。
かと言って、この2人しか居ない状況であのドラゴンと戦うのはやっぱり無謀だ。
一体あのドラゴンは何をしたいのだろうか?
この洞窟の中をテリトリーにしているドラゴンだからこそ、もしかしたら自分のテリトリーを荒らされた怒りで侵入者達を抹殺してやろうと、こうやって霧を生み出して逃げられない状況を生み出してジワジワなぶり殺しにするつもりなのだろうか?
そうだとしたら、あのドラゴンはそれなりの知能を持っているらしい。
「ガアアアッ!!」
また咆哮を上げたドラゴンは、姿勢を低くして臨戦態勢のフォームを取った。
「くそっ、やれるだけやるしか無さそうだな!」
「ああ、上に居る騎士団の応援がこっちに来るまで、何とか死なない様に頑張るしか無いだろう」
リュディガーとジェクトは覚悟を決めて、青いドラゴンに対してそれぞれ武器を構えて迎え撃つ。
そんな彼等の様子を見たドラゴンは、低い体勢から勢いをつけて今度は斜め上……と言うよりもほぼ前方に地面を足で蹴って飛び立った。
その地を蹴った足に生えている鋭い爪が武器となって、吹き抜けの場所から差し込んでいる陽の光を反射しながら向かって来た。
「ちっ!」
またギリギリで攻撃を回避した2人は、まずジェクトが早口で詠唱をしてファイヤーボールをドラゴンに向かってぶつける。
しかし咄嗟に繰り出したその魔術は炎属性の魔術に分類される為、水属性の青いドラゴンには全くと言って良い程に効果が無いのだ。
しかもそのファイヤーボールを当てられた事で、ますますドラゴンはヒートアップする結果になってしまったらしい。
「ガアアアアアアッ!!」
先程よりも更に大きく咆哮を上げたドラゴンは、今度はその巨体に見合わないクイックターンで向きを変え、ドスンと2人の目の前に着地する。
そしてグルグルと唸り声を上げ、大きく身体を持ち上げた。
それを見たリュディガーとジェクトは咄嗟に後ろに跳び退いて、ドラゴンのボディプレスから押し潰される前に逃れる事に成功した。
「反則だな」
「全くだ」
寡黙な2人の意見が一致したのは良いとして、ドラゴンが着地した場所は何と本来リュディガーとジェクトが逃げなければならない方向だった、洞窟の出入り口の前である。
その大きな身体で完全に出入り口を塞がれてしまった以上、上に駐屯している騎士団員達がやって来てもここに入れないだろうと考えてしまうリュディガー。
(くそ、これじゃあ増援が見込めない!)
何とかしてドラゴンを退けなければならないのだが、物理的な退かし方は無理だろう。
かと言って言葉で「退いてくれ」と言ってもその言葉が通じる相手では無いし、仮に自分達の言葉がこのドラゴンに通じたとしても完全に敵対関係になっているので、言葉での説得も無理だろう。
つまり洞窟の出入り口だけで無く打開策も塞がっている、まさに「八方塞がり」の状況だ。
どうしたものかとジェクトに続いて歯ぎしりをするリュディガーだが、更に予想外の展開がこの後の自分に降り掛かって来る事を、この時点で彼は全く予想していなかったのであった。




