41.北目指して
バルドとフェリシテがピンクのコートの集団に囲まれてしまった時、気だるそうに突然現れ、そしてあっと言う間にそのピンクのコートの集団を一掃してしまった、全身が青系の服でコーディネートされていた男。
その上、髪の色も目の色も青と来ればイメージに残りやすいのは明らかだった。
そして、今の話の中で出て来た「画家」と言う単語。
その青い男も自分の事を「フリーの画家」だと言っていたので、この時点でその遺跡に現れたと言う人物は彼以外に考えられないバルドとフェリシテ。
既にその男の事も事情聴取で話してあるのだが、もう1度その男の容姿や言動をバーレン皇国側の2人に伝えてみると、ロナとティレフは納得した表情になった。
「その画家の方はどちらへ?」
「さあ……そのピンクのコートの集団を倒した場所で絵を描くって言ってたから、俺達はそこで別れました。格好からすると旅人だとは思うんですけど、それにしてはやけに軽装だった気がしますね」
「成る程。となればこのバーレンの中に住んでいらっしゃる方かも知れないですね。その方の捜索願いをこちらで出しておきますので、何かありましたら通話魔術で報告致します」
「助かります」
もしかしたら、今から自分達が向かう遺跡で出会えるかも知れない。
そう考えながら、皇都ネルディアの駅から北に向かって出ている列車に乗り込んで4人はカリフォンとロオンと共に北を目指す。
「北の方には先に弓隊のグラルダー隊長と、魔法剣士隊のジェクト副隊長が向かっています。その遺跡の調査を最近はお願いしていますので、ロオン隊長とカリフォン隊長もサポートの方を宜しくお願いします」
駅までわざわざ見送りに来てくれた、弓隊の副隊長アイリーナが抑揚の無い声で列車に乗り込む一行に告げた。
そんな彼女の様子を思い出して、リュディガーはカリフォンに質問する。
「あのアイリーナって人は、何時もあんなテンションなのか?」
「そうさ。基本的にああやってローテンションだからかなり取っ付き辛くてよお。でも弓隊の副隊長だから弓は俺より何倍も上手えぞ」
苦笑いしながらアイリーナについて説明する横で、ロオンがトリスの持っている武器に気が付いた。
「トリスさん、でしたっけ?」
「え、ああ……はい、そうですけど」
「貴女も弓を使うのですか?」
「そうですね。剣とかも振った事はあるんですけど、適性を考えたら後方支援に回った方が良いと思いまして」
「そうですか。それなら魔術も使えるのですか?」
「はい。ちょっとだけですけど。主に回復と防御関係の魔術を」
「ああ、納得しました」
自分で「後方支援に回った方が良いと考えた」と言うだけあり、自分の事を良く分かっている人だな、とトリスの事をロオンはそう評価した。
その話を聞いていたバルドが、遺跡まではこの列車でどれ位掛かるのかを騎士団の2人に聞いておく。
「この列車でネルディアから遺跡まではすぐなのか?」
「いえ、およそ2日程掛かります。北のヴィルトディンとの国境付近まで行きますから。その駅を降りて森を抜けるとその奥に地底湖があるんですが、そこが遺跡になっているんです」
遺跡までの道のりをロオンが話してくれたのだが、それでバルドはふと思い出した事があった。
「ああ、あの地底湖かぁ。それならそこまで行った事があるけど……あそこが遺跡だったのか」
旅が好きで各国を回っていたバルドも、その地底湖のそばまで行った事はある。
しかしその時には既に騎士団によって警備が敷かれていただけで無く、その時はまだ遺跡の調査中だったらしいので立ち入るどころか近付く事も禁止されており、早々に追い返されてしまった記憶がある。
それがまさかこんな形で、しかも今回は遺跡の中にまで立ち入らせてくれるなんて。
バルドはまだ見ぬ遺跡の姿に心を躍らせているが、他の3人はその遺跡の話を聞いても特に表情が変わらない。
別に遺跡を見に、このバーレン皇国に来た訳では無いのだから。
「個室のある列車は用意出来ませんでしたから、今日はこの座席で私達は夜を明かしますよ」
むしろ、北に向かうとなればそれなりの時間が掛かるので、身体が痛くならない様にどう言う姿勢で寝れば良いのかを考える方が大事だった。
そんな6人から1両離れた隣の列車の一角で、ボーッと外を眺めながら青い髪の毛を窓から流れ込む風に吹かせている男が1人。
彼のそばには画材の数々が置かれており、窮屈この上無いが仕方が無いだろうと青い男は諦めている。
(まさか、僕の住処に行く人間に出会っていたなんてねー……これも運命なのか、それとも偶然なのかなあ?)
地底湖の遺跡……そこは自分の棲み処としている場所の筈なのだが、今は騎士団の連中が勝手に侵入して来て見張りをそこら中に立たせている。
こうして人間に化けて世界を長年見守っているのに、自分の安心出来る場所が減ったのはかなり精神的につらいものがある。
そう考えながらも、1両隣から風に乗って聞こえて来る6人の会話をその人間離れした耳で聞き取り、青い男は呟いた。
「まぁ、英雄の子孫のお手並み拝見と行こうか……」




