38.宰相の話
その現実と言うものを嫌と言う程に思い知らされたバルドと、彼と同じく思い知らされたリュディガーは、カリフォンとの約束を守らなければならなくなった。
それはそれでもう決まった事なのだが、ここでギャラリーの中に人数がもう1人増えている事に気がついた。
「悪くは無かったですよ」
「ロナ宰相閣下!?」
何時のまにか、宰相のロナまでもがこの鍛錬場にやって来ていた。
何時からここに居たのかとトリスが問い掛けてみると、さっきのバルドとシュソンの戦いが始まった少し後にやって来たのだと言う。
「なかなか良い戦いを見せて貰いました。だが、まだまだこれからと言った感じでしょうか」
冷静に、そして的確にその実力を見極めているのは彼もシュソンと同じらしい。
しかし彼の本来の目的はどうやらギャラリーでは無く、何やら伝えたい事があってここまで来た様である。
「それはそうと、この後は皆さんどちらに向かう予定なのですか?」
「一先ずヴィルトディン王国の方へ向かおうかと思っていたんですけど、確かあそこはエスヴェテレスと交戦中だと言う噂を聞いております。なので、予定を変更して何処か別の国にしようと思っているんです」
フェリシテの答えを聞いて、ロナは納得した様に頷いた。
「ああ、我が国の北にあるヴィルトディン王国ですね。確かにあそこはエスヴェテレスとは余り関係がよろしくない国ではありますが、今は交戦中では無かった筈ですよ」
「えっ?」
それならヴィルトディン王国に行っても問題は無いんじゃ? と冒険者の4人組は心の中で同時に同じ事を考える。
「交戦中では無い……?」
「ええ。交戦しそうな状況ではあるのですが、冒険者達の中には普通に我が国からヴィルトディン王国に向かう方もまだ大勢いらっしゃいますよ」
「あ、そうなんですか……」
「だったらやっぱりヴィルトディンの方に行きましょう。むしろ今入っちゃった方が良いよ。だってもしエスヴェテレスと戦争が始まっちゃったりでもしたら、それこそ次に入国出来るのはどれ位先のタイミングになるか分からないからね」
戦争が起こっていない今の状況でヴィルトディン王国の中で色々と情報を集めれば、新たな冒険の目的地が見えて来るかも知れない。
そう考えていた4人組だが、ロナが伝えたいのはその事では無い様だ。
「ええと、その前にですね……もしかしたら貴方達の冒険に役立つかも知れない情報をお持ちしたのですが……」
「役立つ情報?」
バルドを介抱していたリュディガーがロナの方に目を向けると、若き宰相は真顔で頷く。
「はい。その情報なのですが、我々の間だけの秘密と言う事にしていただけませんか。ここは城の敷地内ですから、今ここに居る騎士団員等には箝口令を敷いておきます」
「え……いや、それだったら別室で話をしましょうよ」
そんな箝口令を敷く位のトップシークレット扱いの話であるのなら、自分達とあんただけで話をすれば良いじゃ無いか……と思う4人組の中で、トリスが真っ先にその思いを口に出した。
「それならそれで構いませんが……お時間はありますか?」
「ええ。私達は旅をするに当たって別に急いでいませんから」
あのコートの集団がまた狙って来ない内に国外に脱出したいと言う気持ちはあるのだが、急いで脱出した所でまた出会ってしまったら結果はどちらも同じだ。
それにこの旅は冒険家のルヴィバー・クーレイリッヒの見つけられなかった何かを見つける旅でもあるし、その冒険家が一体何をその旅で見たのかを知る為の旅なのだから、逆に急がないでまったりと行きたい所である。
色々とイレギュラーな出来事が重なって、今の所そのまったりとしたペースで進むと言う目的は余り達成されていないのだが。
それを聞いたロナは、鍛錬場から4人を連れ出して近くにある応接室の1つに案内する。
その後ろからロナの護衛としてその一団に着いて来るのは、近衛騎士団長のティレフであった。
「さて、話をしましょうか。私が貴方達に話したいと言う情報は、率直に言ってしまえばこのヘルヴァナール世界に言い伝えられている伝説のドラゴンの存在です」
「え、それって……」
この世界の住人であればその大半が知っていて当然の話。
その昔、人間の言葉を理解出来る7匹のカラフルなドラゴンがこの世界に居たと言われている。
そのドラゴン達は神の使いとして、それぞれが違う役割を持ちつつ世界を見守る存在として知られている。
一説によれば、赤、青、白、黒、灰色、黄、緑の7色のドラゴンが居るらしい。
実際に野生のドラゴンでそうした色を持っているドラゴンが何匹も目撃され、そして人間と争いを繰り広げている事も珍しくは無いが、実際に人間の言葉を理解するドラゴンと言うのは今まで誰も出会った事が無い。
勿論この冒険者4人組もそうである。
だが、そのドラゴンの話を何故今ここで突然ロナがし始めたのだろうか?
その理由は彼の話を黙って聞いていれば分かるだろう、と考えた4人はロナの次のセリフを待つ事にした。




