37.斧使い同士のバトル
ルールの説明をもう1度して、審判は再びファルレナが務める。
「それじゃ始め!」
斧使い同士のバトルが始まったが、この戦いを下で見ているリュディガーには勝負の行方が大体予想出来るものである。
(この戦い……残念だが、バルドには不利な条件ばかりが揃っているな)
まず注目したのは、自分もそうだった様に「経験の違い」だ。
正規の騎士団員、しかも総隊長クラスが相手となればそれだけで圧倒的に実力が違う。
自分達が幾らイディリーク帝国騎士団員や兵士部隊員達と一緒に鍛錬していたとは言え、経験の差だけは実戦で積まなければ分からない事もある。
それは両者の動きの違いを見ても明らかだった。
バルドは積極的に前に出るタイプなので、シュソンに対してガンガン攻めている。
しかし相手のシュソンは余裕のある表情で、自分のバトルアックスをバルドのバトルアックスに合わせてパワーを殺して受け流したり、細身の体格を活かした素早い身のこなしで回避したりする。
時にはバルドに足払いを掛けたりして、その大きな身体を地面に背中から転ばせたりもしている。
「くっ……!」
負けじとバルドも立ち上がってシュソンに向かうが、その表情は険しさで一杯だ。
次にリュディガーが注目したのは、このバトルフィールドの石舞台のスペースの広さだ。
元々こうした場所での戦いの経験が余り無いバルド。
それもその筈で、彼の使っている武器はこうした狭いフィールドでのバトルには向いていない。
魔物の討伐を主な依頼でこなしながら旅をして来た彼にとって、対人戦の経験が余り無いのもなかなか攻撃を当てづらい要因の1つだが、武器が武器だけに無意識の内に今の様な狭いスペースでのバトルを避けて来た、経験不足の面が不利な状況を呼び込んでしまっている。
シュソンはこの石舞台でのトレーニングも、それから多人数を相手にしたシチュエーションのバトルのトレーニングもかなりしているし、実戦経験も豊富だ。
そして最後に、両者が使っている武器の違い。
お互い斧使い同士なのだが、その斧の大きさが圧倒的に違う。
自分の背丈程もあるロングバトルアックスを豪快に振り回すスタイルのバルドに対して、斧隊隊長のシュソンは両手をギリギリ添える事が出来る程度の長さしか無い、割と小振りなバトルアックスで戦う。
普通であれば遥かにリーチの長いバルドが有利なのだが、今の2人が戦っている場所がそのリーチの差を埋めてしまうばかりか、逆にバルドに不利な状況を作り出してしまっているのだ。
「くっ!!」
鋭い突っ込みを見せて、隙あらば仕留めてやるとばかりの勢いのシュソンにバルドは防戦一方である。
シュソンのこのカットインの鋭さは、石舞台の限られたスペースで戦う状況だからこそだろう。
縦に長く、横に短い長方形のフィールドは位置取り次第でどちらにも有利になる。
広くフィールドを使えれば、ロングバトルアックスのリーチの長さでバルドにシュソンは近づく事が出来ない。
しかし、一旦接近されて狭くフィールドを使う様になれば、取り回しの利きやすいスモールバトルアックスが途端に有利になる。
バルドも決して弱い訳では無く、こうした石舞台の上でのバトルもイディリーク帝国の騎士団員や兵士部隊員達との手合わせで経験しているのだが、戦場での実績ではシュソンの方が圧倒的に上。
その経験の多さとスモールバトルアックスの取り回しの利きやすさ、そして彼が細身の体格をしているのも手伝ってスピードでバルドを翻弄する。
その3つの違いが、開始から僅か1分30秒の内に決定的な差となって2人の間に現れる。
「ぐおっ!?」
バルドの大振りの攻撃を回避したシュソンが、まるで獲物を仕留める蛇の如く素早い動きでバルドの下半身目がけて飛び込み、斧の柄で彼の太ももをど突く。
太ももにダイレクトに衝撃が伝わった事で動きが止まってしまったバルドに対しても容赦はせず、シュソンは全体重を乗せた左のショルダータックルでバルドを突き飛ばす。
「ぐうあ!!」
仰向けに倒れたバルドの手から彼の武器であるバトルアックスが離れ、それを足で蹴り飛ばして石舞台から落としたシュソン。
本来ならここで決着がついた筈なのだが、それでもバルドは諦めずに素手でシュソンに向かう。
「ちょ、ちょっと、勝負はもう……!!」
「冒険者をなめんじゃねえええええええ!!」
ファルレナが止めるのも聞かず、バルドは半ばやけくそでシュソンに飛び掛かって行くが、それをシュソンは冷静な目つきで観察する。
「諦めないその心意気は認める、が――」
飛び掛かって来たバルドの懐にスッと身を屈めて入り込み、シュソンは斧の頭でバルドのみぞおちに的確な一撃を下から上に向かって突き上げた。
「ごはっ!?」
飛び掛かるでモーションをストップさせられる形になったバルドは、不自然な格好でそのまま腹から地面に崩れ落ちる。
「俺には勝てない」
「はぁ、はあ……くそ……くそっ!!」
うつ伏せ状態のままゼエゼエと苦しそうに息を荒げながら悔しがるバルドに現実を教えたシュソンは、シンプルな一言だけを残して石舞台から下りて行った。




