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冒険家の子孫の成り上がり  作者: マッハ! ニュージェネレーション
ステージ2(バーレン皇国編):水の皇国
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36.忘れ物

 その掲げられた本は、リュディガー達には見覚えのあるものだった。

「それは……」

「あんた達の忘れ物だ。部屋に落ちていたから恐らくあんた達のものじゃないかと思ってな」

「ああ……ありがとうございます」

 何と、リュディガーがこの旅に出る切っ掛けになった筈のルヴィバー・クーレイリッヒの冒険日誌を、あろう事か部屋に忘れて来てしまうと言う大失態を犯してしまった。

 自分の迂闊さを恥じつつ、リュディガーは本を掲げた張本人である近衛騎士団長のティレフに返して貰おうと歩み寄って行く。


 しかし、彼はその本を持つ手をパッと引っ込めてしまった。

「……何するんですか?」

「返しても良いが……俺から1つ頼みがある」

「頼み?」

 素直に返してくれれば良いのに、その頼みと引き換えにまさか本を渡すつもりなのか? とリュディガーは眉をへの字に曲げてしかめっ面をする。

「そんな顔するなよ。別に大きい魔物を倒してこいとかそういった無茶なもんじゃないから」

「なら、どう言う頼みですか?」


 若干不機嫌そうな口調でリュディガーがティレフに問い掛けると、彼はリュディガーの方では無くバルドの方を向いて続ける。

「君だけじゃ無くて、良ければ君の相棒の実力も見てみたいな」

「相棒……って、もしかしてバルドの事をおっしゃっているのですか?」

 ティレフがバルドに視線を向けている事も含めて、相棒と言えるべき存在は恐らくバルドの事であろうと察するリュディガーに対して、彼は頷いた。

「そうだ。あのカリフォンが一緒に旅に出るのは俺は止めはしないが、君の相棒がどれだけの実力を持っているのか素直に知りたいだけだ」

「話がよく分かりませんが……それだったら俺じゃ無くてバルドに聞いてみてください」

 自分の相棒の方を振り返りつつ、 ティレフにそう言うリュディガー。


 一方、自分の事を言われているんだよな? とその会話を聞いていて心の中で確信したバルドは、ティレフが自分の方に歩み寄って来る前に自分から彼の方に歩み寄り出した。

「俺の実力を知りたいんですって?」

「聞いてたのか」

「そりゃこの距離だから聞こえますよ。別に俺は構いませんけど……もしかして、俺とカリフォン隊長が勝負するんですか?」

 それなりに声が大きいティレフだからこの距離で会話は聞こえて当然だが、 肝心の勝負の相手は一体誰なのだろうかと質問はしておく。


 しかし、近衛騎士団長は首を横に振った。

「違う。君の相手は彼だ」

「え?」

 ティレフが指差したのは、自分の隣に立っている魔法剣士隊副隊長のジェクト……を挟んでさらに隣に立っている斧隊の隊長のシュソンだった。

「……俺がやるのか?」

 しかし、話を振られたシュソンにとっては予想外の展開だったらしく、目を丸くしてティレフに問う。

「ああ。最近は実戦のトレーニングも余りやってないだろ。だから丁度良いタイミングじゃないかと思ってな」

「まぁ、それは確かに事実だが……」

 実際、最近は武器を1人で振っているだけで対人戦のトレーニングは余りやっていない。

 それでも、冒険者相手にいきなり手合わせの相手をしろと言われても戸惑うばかりである。


 だが、それに対してバルドから驚きのセリフが出て来る。

「俺は構いません。むしろやらせてください」

「バルドさん!?」

「ちょ、ちょっと何を言ってるのよ!?」

 ついさっきまでは余り乗り気では無い感じだったのに、いきなり変な気でも起こしたのか妙なやる気を見せるバルドに対して、トリスとフェリシテは驚きの表情を隠せない。


 そして、それはリュディガーも同じだ。

「おい、正気か?」

「ああ、正気だとも。俺の実力が騎士団員相手に何処まで通用するかを試してみてえんだよ。俺だってイディリークの騎士団員相手に修行してたんだし、腕試しの絶好の機会だ。それにリュディガーが目の前で負けちまって、冒険者がこれだけの実力しか無い奴等だって思われるのもシャクだしよ。冒険者の意地見せてやるよ」

 やけに気を吐くバルドだが、そんな彼の相手になるシュソンは何処か冷ややかな表情である。

「そうか。なら早速始めるとしよう」

 そう言って訓練用の斧を用意して貰ったシュソンは、石舞台に上がる前にバルドにこんな一言を。

「先に言っておくが、俺は手加減は苦手なタイプだ。だから一切手は抜かない……いや、抜けない。だからやるなら全力で掛かって来い」

「望む所ですよ!!」


 熱い血をたぎらせて、同じく訓練用の斧をジェクトから受け取って石舞台に上がるバルドの後ろ姿を見て、リュディガーは心がザワつき始めた。

(大丈夫か、バルドの奴……)

 自分があの部屋にルヴィバー・クーレイリッヒの冒険日誌を忘れてしまった事が発端となって、こんな展開になるなんてまるでイメージ出来なかった。

 しかしこうなってしまったらもう自分にも、それからトリスとフェリシテを含めた周りのギャラリーにも止める事は出来ないだろう、とリュディガーは諦めて大人しくバルドとシュソンの手合わせを見物する事にした。

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