009 カタリアはかく語りき
時間がないとカタリアは言ったが、長い夜になった。
そのほとんどはカタリアの語りの時間だった。
どうやらカタリアはこの国、ユナイテッドステータス教国に大いに不信感をもっていて、ギルドに勤めていたのも、ギルドと教国の行う不正の調査を行うための潜入目的だったというのだ。
カタリアの兄は、優れた冒険者であった。
下町で生まれ身分の高い出ではないが騎士を目指し、修練を重ねて、10歳をこえた頃には町の自主防衛に参加し野盗や魔獣、魔族との戦闘を重ねた。
経験値獲得によりステータスは上がり、騎士採用試験を受けるが、ステータス審査ではなぜか実力に劣る貴族たちのステータスに及ばず不採用。
騎士への道は絶たれた。
しかし冒険者登録により実力を発揮。数年のうちに若くしてA級冒険者となる。
そのときの兄の笑顔をカタリアは忘れない。
「なあカタリア。騎士はだめでも冒険者なら平等に平和のために戦えるんだ。お兄ちゃん頑張るよ」
そんな兄の幸福は長くは続かなかった。
勇者パーティと冒険者での共同ミッションによる地龍狩りに、ギルドからの指名参加をした兄の戦死が伝えられたのだ。
突如来た悲しみの中でカタリアは
「お兄ちゃんはみんなのために一所懸命戦って誇り高く敗れたんだ。きっと天国で笑ってる」
そう自分に言い聞かせて、悲しみを乗り越えようと決めた。
しかし、時がたつにつれ、カタリアの頭には疑念が生じていく。
なぜ兄の遺体はないのか?
兄の死の瞬間を見たものがいないのか?
地龍はブレスを使わないし、丸のみはしない。
例え踏みつぶされた無残なものだとしても、遺体は残るはずだ。
そんな疑問を父母にも話すのだが、父は枢機卿プラウディオがわざわざ下町の家まで来て、何の保証もないはずの冒険者の遺族に対して多額の見舞金をくれたことで舞い上がってしまい、聞く耳を持たなかった。
母は困ったように首を横にふるだけであった。
そして、私は家を出た。
強さを持たない私にできることは、情報収集をし真実を解き明かすことだ。
もし腐った何かに大好きな兄が犠牲になったのなら、例えそれがどんな強大な組織であろうと許すことはできない。
18歳の時にギルドに就職した。
国の中枢にせまる教団事務員の試験は実務では完全にこなせたのだが、ステータスの差で貴族の娘たちに敗れた。
くそったれ。
ギルドは荒くれの多い雑多な職場であったが、情報収集という意味ではなかなかに優れた環境であった。
情報統制されない生の声が聞こえてくる。ギルドでの情報収集が続く。
私の疑念は正しかった。教国は腐っている。
腐敗の証拠を集めるのは簡単であった。
書庫及びギルド長室の書類整理及び来客対応、冒険者への聞き込み。
簡単なことだった。
一つ目の不正は、貴族の「魔獣とどめステータスアップ」である。
ステータスをあがめステータスアップを美徳とするこの国は、表向きステータスのもとに平等社会である。
平民でも高ステータスを持つものは要職に就けるし、貴族でもステータスの低いものは、まともな職に就けない。
だから、貴族も、幼いうちからステータスアップするため英才教育を受ける。
ステータスを上げるには、まず修練である。
筋肉トレーニングをしっかり行えば才能の差はあるにしてもSTRの値が上がる。
生命力を上げるために特訓を行えばHPの値。
精神修行や魔法訓練でMPが上がる。
いくつかの要素を満たせばレベルアップで総合値が上がる。
修練の結果(生まれつき所持する場合と半々)スキルを身に着けステータスに反映される。
実戦で、魔獣を倒したときに、レベルアップすることが多い。
強い魔獣をたくさん倒すことは修練以上にレベルアップが図れる。
ギルド内部資料の魔獣討伐記録と、実際の魔獣討伐記録がまったく合致しない。
それは年が新しくなるたびに顕著となっている。
また、生け捕りの依頼がどんどん多くなってる。
生きたまま利用価値がある魔馬や卵が食用となるコカトリス、下水処理スライムなどなら理解できるのだが、明らかに生きてとらえる必要がない魔獣、しかもなるべく強い魔獣の生け捕りの依頼が増えているのだ。
条件は生きていれば状態不問。
素材をまともに採取もできないボロボロ状態の強い魔獣が高値で取引される。
これに関して気づいているものは多い。
「お貴族様たちがぼっちゃんおじょうさんにとどめを刺させてステータスアップさ」
大っぴらに言わないが誰でも知っている公然の秘密になってしまっている。
それが加速して、近年では通常の依頼件数を超えるほどだ。
書類に残さない魔獣拿捕を含めると、どれだけの不正レベルアップがあふれかえっているのか。
本来禁止されている町を危険にさらすS級A級の魔獣生け捕り移送の裏記録もあった。
...そしてついに、カタリアは知ってしまったのだ。
第2の不正ステータスアップの真実を。
兄の死の真実を。
この国の行ってる反吐の出る行為を。
その後は、欺瞞に満ちたステータスパネルを見るたびに吐き気がするのをこらえ、極めて冷静に、冷徹にギルドに勤めつづけた。
「私では巨大な権力に手が出せない。きっといつか、救世主様が現れる」
と信じて。
「 ♡救世主様♡ 」
顔を紅潮させ、オツヤからぴったり離れないカタリア。
別の意味で顔を紅潮させて引き攣っているオツヤ。
「とりあえず食べんべ」
ボブが取ってきた魚が焚火で焼けて、いいにおいがする。
カタリアはいろいろ残念美人であることが判明しつつ、極めて有能であった。
生活魔法で焚火を起こすと、生活魔法の一部、収納魔法で持っていた塩とナイフを取り出し、魚を器用に捌く。
内臓と鱗を取り、隠し包丁を入れ、ヒレに化粧塩がされたサバイバル食とは思えない素敵な焼き魚であった。
生活魔法で洗浄も行い、生臭さなどみじんもない。
「おら普段モツもったいないから、全部ガブっといくんだけどね」
「さ、ささ。オツヤ様 お召し上がりください。 あーん♡」
「じじ自分で食べます!」(近い!!!)
「モグモグ……なんか。美味しい・・。とっても美味しい・・。」
オツヤは泣き出した。
「オツヤ様、大丈夫ですか!熱かったですか!小骨が刺さりましたか?」
「 僕はこんなにやさしくしてもらったのははじめてなんだ。本当にありがとう」
「・・・オツヤ様」
「・・・アニキ」
三人で抱き合い、号泣するのだった。
いろいろあって、ハイテンションだったのかもしれない。




