062 深夜の特訓
毎日、夜11時ごろオツヤとカタリアとボブは御殿の寝室を静かに抜け出す。
使徒には内緒で・・・・・・・はない。
内緒にしてもすぐばれるので、心配させないように三人がこの時間に抜け出すことと、起こる現象についてちゃんと全員に話してある。
周辺住民にもすべてザコデス大隊長を通じて説明をお願いした。
何度も何度も世界が変容するのだ。
夜分迷惑な話であるが住民からの苦情は全くないとザコデスの報告。
神降ろしありがたやと言っているそうだ。
夜の警備担当者は、「今宵も暗黒神の密儀 ですね。お疲れ様です」と小声で労ってくれる。
はじまりは、ボブの申し出である。
「おら、おらさ、自分が強いなんて思ってなかったつもりだけど、急にレベルアップして調子に乗ってた。よくよくわかった。これじゃ、守れないって・・。
ちっとやそっと特訓してもガリさんやリズやあの外にいたやつには一生勝てないって。だから考えたんだ。嫌かもしれないけどアニキにしかできないんだ。お願い!」
ボブの思い付きは考えもつかないものであった。
そして、カタリアにもやり方を相談し、夜中の秘密特訓(?)がはじまったのだ。
ボブは普段、手配を逃れるためにつけているモフ毛を覆うシーツを外し身軽になる。
「じゃいくよ」「うん」
「ステータスオープン」
世界の序列が変容する。
重厚感のある金属質の板からドス黒い気が放たれ周囲を暗黒界に変容させていく。
「どりゃ!」
ボブは世界最強の漆黒の板に全力で体当たりをした。
倒れるボブにカタリアはヒール。
これを10回ほど繰り返した。
「ステータスクローズ」 「ステータスオープン」
漆黒の板は地面と平行に、高さ50センチ程度のところに現れた。
ボブは暗黒板の下に両手をやり持ち上げようと力をこめる。
ヒールをかけたとはいえ先ほどの体当たりで傷だらけである。
「んががっががが」
これを1セットとして30分でできるかぎり行っている。
暗黒神の板はボブが何をしようとも動かない。襲ってもこない。反射すらしない。
ただの壁への体当たりという自殺的行為とウェイトトレーニングと同じ意味のない行為かと思われた。
しかし、ボブは、「やっぱり、思った通りだ」と傷だらけの状態で笑った。
カタリアが「ステータスを確認しましょう」と提案するが。
「カーちゃん。おら見ない。数字見なくても。わかるから」と拒否した。
事実、日中行うワンチャンとの組手では、日に日にワンチャンの顔色が変わるのが見えた。
ワンチャンはSTRこそボブより低いのだが体の使い方がうまく(なんでも合気という体術だそうだ)、ボブの力を巧みに外しこれまでは互角以上の組手をしてきたのだ。
そしてすぐに、ボブとの組手は「もう危険だから」と相手をやめて、今度はボブに合気の動きを教えはじめた。
ステータスパネルの開閉は常に緊張感を伴う。
万一、ボブやカタリアの場所に現出させてしまえば事故では済まない。
カタリアはオツヤの状態を観察して心に乱れがないかケアしながら、ボブの手当ても並行して行った。
ほんの30分で三人とも限界に近い疲れ方をするのだ。
おわったあと、ぐったりと力を抜いて、カタリアが用意した夜食と飲み物をいただく。
星を見上げながら三人でゆっくりいろんな話をした。
ある日、いつものように来客がくる中、情報の使徒ライト兄弟ライトスがカタリアに報告を入れていた。
カタリアの表情は険しかった。
その夜、特訓を終え、いつもなら率先して話をしてくるカタリアは静かだった。
そして、意を決したように話し出した。
冒険者であった兄のことを。
出会って最初のころの話で教国に殺されたということは把握していたオツヤとボブであったが、それ以来カタリアは詳細を話さなかったのだ。
カタリアがオツヤたちに、収納にしまっていたギルド長の日記、裏帳簿などの多数の物証とともに兄の死の詳細を伝えた。
話しながらカタリアは彼女が普段見せない激しい感情をあらわした。
どれだけ証拠をそろえても、何もできなかった今までの口惜しさ。
ギルド長の日記には、枢機卿からこれを持ち掛けられ兄が選ばれ、犠牲となったこと。
儀式の内部での出来事まで枢機卿から語られたおぞましい内容が詳細に記録されていた。




