061 スマイルフル
その夜、救世の暗黒神教団の拠点でのサバト(という名の宴会)に、珍しい客が来た。
派手ではないが身なりのよい大人の男性1名と女性2名、そして二人の少女であった。
カタリアに相談があると河川の町から訪ねてきたので、案内されたようだ。
入信希望者ではなく、一風変わった相談だった。
三人の大人は、夫婦と、妻のほうの妹で、連れてきたのは、夫婦の娘と、妹の娘。
この二人は姉妹のように仲が良く、唄と踊りが好きでものごころがついたときには一緒に歌っていた。
そして町のステージにも上がるようになり、町主催の演奏会や祭りではアイドル的な存在になっているとのこと。
先の花火の日に、一行の演奏とカタリアの歌に感銘を受け、二人はそれをアレンジして歌うようになった。
町長に相談し、本格的にこの歌で二人を都でも売り出したいと盛り上がる。
話を通すために、ここへきたという次第だった。
皆の前で、二人は、「はじまりの1」を踊り唄った。
カタリアの柔らかい静かな歌とも、チンドン団の楽しいアレンジとも違う、二人が工夫したバージョンは、柔らかで楽しくも心を打つ素晴らしいものだった。
息が合った二人は、本当に仲が良い。
手を取り合い目を見合わせ、妖精の笑顔で踊り、天使の声で唄う。
自然とみなも笑顔になった。
ステージを終え、二人そろって可愛らしく丁寧に礼をすると、拍手は鳴りやまなかった。
オツヤとカタリア、ボブ、里に行った使徒のメンバーたちは、笑いながらも涙を流していた。
プラウダ、コンポー、ケンボーと初めて会った時を思い出していたのだ。
サバトのあとで、娘たちの父とカタリアは、条件を煮詰めていた。
父は少なくないお金を用意してきていたが、不安そうに語りだした。
「私は、実はユナイテッドステータス教団の関係職をしております。
もしもほかの宗教を信仰してるとすると問題となる可能性もありまして。
今の教国の行いに、はなはだ疑問を感じてはいるのですが・・」
彼女たちの父は、神妙な顔で言った。
「救世の暗黒神様は、決してユナイテッドステータス教も教国も否定しません。
間違った行いを否定します。
暗黒神教は求めるものを誰も拒みません。しかし誰にも何も強要しません。
ただただ『はじまりの1のこころ』を取り戻し、皆に笑って暮らしてほしいのです。
この謝礼は受け取りません。そうですね。
もしこの歌の収益が、すべての必要経費を引いてもまだ利益となることがあれば、その3%でよいので、ある里にご寄付いただければ、ありがたくいただきましょう。
山中にある、ペトロンというものが代表を務める里です」
「それだけでよいのですか?」
相場よりはるかに低い報酬である。
「あとひとつだけお願いがあります。
ときどき立ち寄った際だけでいいのですが、その里の高台の慰霊碑に祈りをささげていただければ、うたをつくったコンポーという少年と、その育ての親のオサジイの御霊も喜ぶでしょう。
里ではどの神の名も不要です。
ただ亡くなった二人のことを、あなた方の『はじまりのこころ』で祈っていただければいいのです」
その後、彼女らは「スマイルフル」という名で全土に知られていく。
ワンチャンが、「『笑顔いっぱい』って意味なんだ。テツヤに教えてもらった言葉さ。2人にぴったりだろ」と命名した。
ステート川沿岸に発した新興宗教? 「救世の暗黒神教」は、その規模を無理に広げることも、信者獲得に走ることもなかった。
ただ、そのおしえは、かつてのどの宗教もなしえないほどの速さと規模で、やさしく教国全土に広がっていくのだった。




