056 安国チンドン団
「チンドンヤぽくっていいですぜ! ボブタン様!」
「ちんどんやって知らんけどおいしいのか? このかっこおら暑ちーーーー!!」
「おれの生まれた村では、お祝いの時にパーッと太鼓とか笛鳴らしてワイワイもりあげる係をチンドンヤって言ってたんで。うふふふボブタン様可愛いですぜ! 人族の娘っ子だ!」
「からかうでないだや!」
バシッとSTR600オーバーの猛烈な張り手がワンチャンを襲ったが、ワンチャンは大きな体でダイナミックにぐるっと宙返りしてかわしてみせた。
「すご!」
別の獣人にお姫様だっこされたオツヤが、感嘆の声を上げた。
「ボブ、あんまり揺らさないでーーー!」
「あ、カーちゃんごめんごめん」
「だから、お母さんではありません!」
ボブに肩車してもらっているカタリア。
事件の数日後、住民たちの心が少し落ち着いたのを見届けてから、オツヤたち一行は、里に別れを告げた。
一行の姿が見えなくなるまで、手を振り続けてたケンボー。
少しずつ笑顔を取り戻してくれていた。
里での数日間、もっとも活躍したのは、犬人族の使徒ワンチャンだった。
彼は大きな体に似合わず曲芸が得意で、家の屋根から子供たちに向かい、
「おーい! 今から、三回まわってワンと言ったら拍手な!」
といい注目を集めると、屋根からジャンプ。
グルグルグルと、空中三回転を派手に決め着地。
両手で見得を切って、
「ワン!」
「はい! 拍手! んーもっと拍手もっと! たりないワン!」
といい、道化を演じる。
子どもたちだけでなく、大人たちも楽しませていた。
オツヤたち一行は、里では努めて明るく振舞っていたが、帰路はまだ無言になりがちであった。
そこでもワンチャンは、天然なのか心遣いなのか明るくふるまい、皆を笑わせた。
「熊獣人と人間の男と女」
手配の内容は、この分かりやすい一文のようだ。
使徒を加えると一行は大人数であっても、ボブがいつものように、オツヤとカタリアを抱え上げているのは、追跡者にアピールをしているようなものだ。
偽装として、まずオツヤは別の獣人使徒が抱えることにした。
全員が「依り代様は自分がお抱えいたします」と立候補したのだ。
警備隊の制服を着た使徒以外が、交代で担当することにした。
「はい、オツヤ様」
ニコニコ顔でお姫様だっこされたオツヤは「顔近いです」と震えるが、
「大丈夫ですよ。やさしくしますからねオツヤ様」
と微笑まれ、拒否できずにいた。
いや、自分で歩けばいいのだが、500mくらいでくたくたなのだ。
そしてこれがもっとも重要なのだが、ボブの変装。
ボブは熊獣人であるが、耳としっぽ、そして毛の生えた背中から臀部の脊髄に沿った半分ほどしか獣人特有のモフ毛がない。
これを布で隠す。
そして手首と足首のリストバンド、レッグウォーマーのようなモフ毛を、事務員が使う黒いアームカバー(カタリアがもっていた)で隠した。
これでちょっと、いや、かなり筋肉がムキムキではあるが、可愛らしい人間の女の子ボブの完成である。
布は、紫の地に色とりどりのメルヘンチックなハートがあしらわれた、派手可愛いシーツであった。
これを収納から出したときのカタリアは、
「あらら私、偶然こんな派手な布を持ってました良かった良かった、偶然ってすてきですわね」
となんか恥ずかしそうに不自然に出すので、一同は空気を読んで深く突っ込まなかった。
「巫女様けっこう、隠れメルヘンちゃんですかい? ははっ」
一人だけ空気を読めなかった白い犬は、皆に取り押さえられ、CMの間にぬいぐるみに置き換えられた。
「いやーーー、流石巫女様の先読みですな」
トマスンがさりげないフォロー。
ついでに、なるべく皆、派手めな衣装やアクセサリーをつけて、小太鼓と草笛をもち偽装、いや仮装の集団が完成した。
復活の白い犬ワンチャンは何事もなかったように、
「じゃ、みんな、派手にいきますか! ハイ! せーの!」
もどします! ハイ! もどします♪
心を1にもどします♪
心のままに いきましょう!
チンチン♪ ドン!
チンチン♪ ドン!
コンボーの遺したうたの、明るい祭りばやしバージョンをたのしく歌い、歩をすすめた。
街道を巡回する教国近衛騎士団。
任務を帯びて急遽編成派遣された、15名の部隊。
「なんだ。ずいぶんにぎやかな歌が聞こえてくるな」
遠眼鏡を持った者が、音のする方角を確認する。
「10名程度の集団ですね。お祭りのような派手派手しい恰好をしています。曲芸師と楽団でしょうか。
女が二人、がっちりした娘が小柄な娘を肩車してます。
あと、男が獣人に抱きかかえられています・・」
「何、獣人と男と女がいるのか! 熊獣人はどうだ?」
「ええと、教国警備隊員が4名、先導としんがりにいますね。制帽を被ってます。
犬獣人が派手に動き回ってます。
警備隊員以外はなんか祭りの派手な格好をしてますね。楽器をもってます。
熊獣人はいませんね。はは、曲芸してますよ」
別の騎士がいう。
「この地方では今、祭りの時期ですね。
結構大きい祭りで、屋台がずいぶんたくさん出るので、首都からも客がくるそうですよ」
「踊り子や曲芸師も、町を上げて各地から呼んでるそうです。
だけど、貧困集落もあって山賊もいやがるんで、ああやって警備隊がついて護衛してるんです」
「なるほど。そういうことか。いいだろう」
「隊長。尋問しないでいいんですか?」
「野暮はやめておこう。なんか楽しそうな音楽じゃねえか」




