043 スラム その4 ~墓参り~
スラムの谷を登り、見晴らしの良くなった高台で、ガリさんとプラウダは手を合わせている。
スラム住人に、個別の墓を建立する余裕などない。
この高台に、遺骨を埋蔵するのだ。
墓石代わりに大きな岩が置かれている。
そこに途中摘んだ野花と、饅頭を一つ供えた。
どの神にも祈らず、ただ死者の静かな眠りを一心に願うのが、里のならわしだった。
辺境騎士団長ガリクソンは、ユナイテッドステータス教に身をささげる立場であるが、里にいるときのガリさんは、ただメロディアという女の冥福を祈る一人の人間にしか過ぎなかった。
辺境騎士団長に就任して間もないころ、単独行動中のガリクソンが、魔獣に襲われ死にそうになっていたメロディアを助けたのが出会いだった。
メロディアは訳ありなのか、出自については口が堅かった。
ただ、咎人として教国から追放された身で、もはやどこにも行くところがないと語った。
「これ以上、騎士様にご迷惑はおかけできません。私はひとりでここで生きます。
あなたに最後に助けていただいたことは忘れません」
気丈に、それ以上の助けを拒んだ。
確かにガリクソンは教国騎士団所属の要職という立場上、咎人をかくまうことは不可能だった。
しかし、この魔獣地帯に捨てておくこともできず、考えぬいた結果、身分も立場もステータスも関係なく受け入れる場所に、彼女を内密に送ったのだ。
そして、辺境から首都に寄る際には、最優先に様子を見にきた。
給金のうち、自身の最低限の生活費以外は、里の代表オサジイに渡しつづけている。
自分の身分も金のことも、オサジイにしか伝えていない。彼は口が堅い。
メロディアは、プラウダの出産の際、体調を崩しひと月もせず死んでしまった。
プラウダは母の顔をほとんど覚えていない。
だが、年々育つにつれ、その面影は母メロディアにそっくりとなり、メロディアの死に目に会えず泣いたガリクソンは、プラウダの笑顔を見るために、里に通い続けるのだ。




