040 スラム その1 ~いきてるぞ~
山間の急斜面に沿って廃材を組み合わせた建物が密集し、山肌を埋め尽くしている。
拾ってきたレンガを組み合わせた赤い建物。
木材を素人づくりで積み重ねたような、ログハウスとも言えない木製の住居。
土を掘った横穴に、防水布をつぎはぎした住居。
規格のないデザインが組み合わされ、独特の風景を作っている。
洗濯物がはためき、生活の匂いがする。
「ここです。――あー、おーい! 俺だ! ペトロンだ!」
「おっ! ペトロン? ペトロン! 生きとったんか!」
襤褸をまとった住民たちが、ぞろぞろと出てきた。
「いきてるか?」
「いきてるぞ!」
このやり取り――「『いきてるか?』『いきてるぞ』」は、スラムの住民で自然発生した合言葉になってる。
厳しい環境下で、常に死と隣り合わせだからであろう。
懐かしさと安心感で、ペトロンは涙を浮かべる。
「俺は帰ってきたんだ」と。
十数名の来客など、この里では非常に珍しいことである。
しかも一行の何名かは警備隊の服装をしているし、なぜかピンクの痴女もついてきている。
住民たちは警戒して隠れていたのだが、ペトロンの仲間として一行を暖かく迎えてくれた。
誰が決めたわけでもなく代表のようなことをしている、オサジイという男の家に招かれた。
オサジイのレンガ造りの家は、人々の集まりにも使われる二十畳ほどの大きな部屋がある。
乾草を編んだ敷物は上等ではないが、手入れはまめにされているようで、胡坐をかいて座ると快適であった。
「何もないがくつろいでください」
不揃いの湯呑に入った、雑草茶が出された。
扉の所から、十歳くらいの子供たちが好奇心で覗き込んでいる。
「ペトおじ?」
「プラウダ、プラウダか?! 大きくなったな! コンボーとケンボーも」
「ペトおじ!」「ペトおじ!」「ペトおじ!」
子どもたちがペトロンに抱き着いた。
さよならも言えなかった別れから、数年ぶりの再会である。
オサジイの話を聞くと、里の状態は楽ではないが、壊滅的でもない。
相変わらず教国の政からの補助はなく、むしろ迫害が続いているのだが、定期的な匿名の寄贈があり、なんとかギリギリ生存できるだけの物資の確保ができていた。
飢餓から町で無茶な犯罪行為に走るものは、ペトロンがいたころより少なくなったとのことだ。
オツヤたちが持参した物資と貨幣に、オサジイは口をあんぐり開けて固まった。
「暗黒神教の依り代、オツヤ様が皆様にと、持参いたしました」
カタリアの言葉で、涙したオサジイはチョロく信者になった。
「ありがとうありがとう。何でも信じますじゃオツヤ様」
涙ながらに、オツヤに抱き着く。
大人数で部屋にいたことで限界が近かったオツヤは止めを刺され、先ほどのスイーツが逆流した。
オサジイ着替えのため退室。
その間、一行は子供たちと遊んで時間を過ごした。
「みてみて、僕ね。こんなんできるんだよ!」
ケンボーはあやとり紐で腕前を自慢する。
ちいさな手を動かすと、麻ひもが星の形になり、四段梯子になり、尖塔になり、宝石模様になり、犬の形になり、指を高速で動かすと、さながら犬は生きてるように動き出す。
一同驚くと、ケンボーは自慢げに笑う。
「僕『あやとり』のスキル持ちなんだって。お母ちゃんはハズレっていってた!」
「一部の貴族や市民は、ステータスが低くスキルにも恵まれない子供をスラムに捨てていくのです」
ペトロンは子供たちに聞こえないように言った。
「僕だってすごいぞ! うたづくりだよ!」
「私だってスーパーレアなんだよ!」
子どもたちは無邪気に騒いでいる。




