031 恵みの儀 ~地下闘技場の成れの果て~
広大な空間に、黄色の光膜につつまれた魔獣たちが所狭しと積み上げられている。
教国王城地下は、王城広間よりはるかに広い。地下闘技場。
数代前までの教皇の政権時、この場所は賑やかであった。
人対人の決闘のみならず、魔獣対騎士。
若き日の血気盛んな魔導士プラウディオもここで戦い、経験値の獲得に努めレベルアップし、今のステータスの土台を築いた一人だ。
広い観客席を埋める貴族たちの声援と罵声もなつかしい。
しかし、今では実力で騎士や魔導士の力を示すのに決闘という形はすっかり廃れ、闘争相手におのが実力を試し、命を懸けステータスアップをめざす者はほとんどいなくなってしまった。
だがそのおかげで、このような大型小型、大量の魔獣を保管できる場所が確保された。
時代の変化を恨んでも仕方がない。
今現在、どうすれば教国政治をうまく継続させるか、それだけで手いっぱいだった。
「ふーー、魔獣もたまってきたな。整頓も移動もまたつらいわ。
病院の分とS級以上の『狂奔の贄』はシェルターでやらんといかんが。今日の贄ならばここでよいじゃろう」
壁面に設置された王城内通信魔道具で指示を出す。
「おい、これから地下闘技場で『恵みの儀』を行う。予約者を誘導して連れてこい。
王族と大臣直系は別日にシェルターでやるから除け。
残りの貴族関係者と大商人の子息だ。お布施額順に並ばせるのだぞ。
先に武器は持たせておけ」
「よし、次は『隠蔽結界』」
闘技場内の魔獣の一部の姿が消えた。
姿を隠した魔獣は頭数としては少ないが、超大型が多く含まれていたため、空間の圧迫感がかなり軽減された。
どうやらS級以上の魔獣を秘匿する目的らしい。
近衛兵に誘導されて、乱れた列で数十人の集団が地下闘技場に入る。
装飾の多い豪華な衣装を身に着けた子供たちである。
衣装は様々だが、全員同じ規格の光る短剣を持っている。
「はは。今日はいくつ上がるかな」
「俺はドラゴンを殺りたいな!」
「私は殺せればなんでもいいわ」
「俺の突きがうなるぜ」
「ゲームがいいとこだったのによ」
甲高い声で、ガヤガヤだらだらと騒いでいる。
「いつものことながら・・」
頭に手を添え、頭痛をこらえる枢機卿。
「おい。静かに。整列して。ステータスパネルを順に開くのだ!」
兵士が命令するが、ガヤガヤ騒ぐ声が大きく、聞く耳を持たない。
「聞け」
静かな、冷たい声を枢機卿が発した。
魔力を込めた威圧を受けた子供たちは、ビクッとして青ざめ、ピシッと背筋を伸ばし枢機卿のほうを向く。
「・・・あ、おい、早く整列して、ステータスを開け。お前から」
兵まで圧にひるんだようだが、なんとか持ち直し子供に指示を出す。
彼らは1m間隔で整列し、ステータスを開く。
「はっはひ、ステータスオープン」
「次」
「ステータスオープン」
「次」
……全員がステータスパネルを出す。
「こいつはこれ、こいつはこれ」
子供たちのステータスパネルとお布施リストを見比べながら、彼らの前に一人一体、黄色い膜につつまれた魔獣が浮遊し配給された。
「教国の未来を担う若人よ。これから『恵みの儀』を執り行う」
枢機卿は荘厳に唱えた。
兵に目線で合図を送る。
「さあ、言うんだ。唱えの言葉を!」
子供たちは短剣を自分のステータスパネルに重なるように掲げ、いっせいに唱え始めた。
「「「「「「「偉大なるステータスよ我がユナイテッドステータスの神よ。
我らはステータスをあがめステータスを高めステータスをすべてとします」」」」」」」
「やれ!」
子供たちは光る短剣の剣先を魔物たちにおろした。
さして力がはいっていないであろうへっぴり腰の者もいたが、すべての短剣は黄色い膜を通過し魔物に触れると、HPが1しかない魔物たちを絶命させた。
短剣は勇者から抽出した聖気をチャージできる「量産型簡易聖剣」であった。
子供たちのステータスパネルの表示が一斉に書き換わる。
「やった!」「すげっ」「うお」「おれ無敵じゃん!」
先ほど受けた枢機卿の威圧を忘れ、子供たちは騒ぎ出す。
ステータスの上昇は、完全にお布施額と比例していた。
兵士は「(枢機卿様はどれだけ頭を回転させてるんだ。。。恐ろしい人だ)」と考え込んでしまったが、
「お、おい、お前たち、恵みの礼の言葉がまだだ!」
「「「「「「「我々はステータスの恵みに感謝しユナイテッドステータス教国に永劫身をささげ、ユナイテッドステータス教国に命をささげ、ステータスの敵と戦うことをここに宣言します!」」」」」」
祝詞は毎日練習をさせられて全員暗唱していた。
形式的な修行に時間を費やすのが、今の時代である。
「これにて『恵みの儀』を了とする。精進するのじゃぞ。若人よ」
「さて、終わったわい・・・・だが、もうひとつ、犯人の始末はなんともな。
警備隊の出動は今のところすべて空振り。
国境監視員からも目撃報告もなし。
とすると、裏の手段で逃亡してる可能性が高いが、キュウビの追跡を振り切れるものがいるとは思えん。
奴の嗅覚と勘は追跡においては右に出る者はいまいよ。
しかし、キュウビからの報告がこの三日まったくない。
合理解は1つ――『キュウビは死んだ』。
返り討ちにあったということだ。
つまり敵の戦闘力はS級以上、あるいはSS級とみるべき。
ならば、次の一手は・・。
わしら以外で武力においてSS級を確実に始末できるのは、ちと頭が固いやつだが協力させるしかないわ」
ブワワワワ
光の輪に、枢機卿は消える。




