025 魔王リリスヴィーナの憂鬱(後編)
「いかがなさいましたか? 皆さまお揃いで」
途方に暮れる四天王たちの前に、コウモリの翼をもつ一角の女悪魔が現れた。
緑色の表情は、知性的な印象を与える。
魔王軍、魔王直轄参謀エバンゼスである。
魔王軍組織では、四天王の下に各機構が配属される。
四天王を通して魔族を統べるのが魔王であり、魔王直轄の部下はほとんどいない。
エバンゼスは戦闘力こそ中程度であるが、その知力により魔王軍のなかで一目を置かれている。
とくに人間族の情報に通じ、三年前に大規模な衝突があって以来、小競り合いはあったにしろ和平が保たれているのは、彼女の功績が大きいと四天王も認める。
そして、魔王リリスヴィーナとは幼少期から共に育ち、唯一無二の親友であった。
「承知いたしました。
魔王リリスヴィーナ様には、わたくしが話をしてみましょう」
「おお、やってくれるかエバンゼス」
「皆さまはお下がり願います。二人だけで話しますので」
「うむ。たのんだ」
エバンゼスだけが残った魔王室の前。
「魔王様、魔王リリスヴィーナ様。エバンゼスです。エバンゼスがまいりました」
「チャッカポコ エ?」
魔王室の扉が開かれた。
中には、べそをかいて謎の舞を踊る稀代の美女がいた。
「エ、エ、エバちゃーーーーん! 聞いて!!!! ウエーーーン!」
「リズーーーーーー! どうしたの。また泣いちゃって。
リズは泣き虫なんだから」
二人は抱き合った。
「話は分かりましたよ、リズ」
「ありがと。エバだけだよ、こんなこと話せるの・・」
「にわかには信じ難い内容ではありますが、ちょっと私も気になることがありました」
「ん・・」
「いつものように教国に潜入し、情報収集を行っておりましたら、妙な気を感じまして。
それが、勇者のいる場所とは違う方向から、それに勝るかそれ以上の気。
私の知る限りで一番近いのは、リズか先代様か、魔を纏った気でございました。
しかも、嘘のように急に途絶えるのです。
その報告もあり、帰還したのです」
「やはり、幻ではないようね・・。
あのキザ勇者ごときが私を超えるなどありえないし、何か未知の強者の可能性が高いわね。
しかも隠匿に長けている。たちが悪いわ」
「そうです。リズの真の力を知る私としましては、魔王様が後れを取ることはあり得ないと思いますが、とにかく正体不明でたちが悪い強者であることは間違いありません。
引き続き、情報収集を続けます。
まずリズは元気を出してください!
ほら、人間領でお土産買ってきましたよ」
「わ、ピンクのチョコがかかったドーナツ! きれい!」
「ふふ、リズはピンクと甘いものが大好きですね!」
「そーなの。なのにみんな赤くて辛いのばっかり持ってくるのよ。
何、辺境名物ヘルババネロ温泉饅頭って。
あっこれチョーおいしい♡ もぐもぐ」
「それで、ステータスパネルの件ですが、不本意だとは思いますが、ここはぐっと耐えていただいて、あの秘密スキルでいつもの状態に表示を固定させましょう。
それなら実務上、ステータスパネルの開示がなんどきあっても大丈夫ですから」
「あ、あれをやるのね・・・。
弱く見せるときにしか使ったことないから、なんか嫌だけど。仕方ないよね。
エバがそう言うんだったらリズ、我慢する!」
「はい、リズ、いい子ね。素直な子。
では、頑張りましょう! はい立って! ほっぺのクリーム拭いて。
魔王リリスヴィーナ様、ビシっとしてください」
直轄参謀エバンゼスを引き連れ、最高会議に出席した魔王リリスヴィーナは、何事もなかったかのように政務を執り行った。
さきほどの引きこもりの件に、深入りをする自殺的愚行を犯すものは魔族幹部の中にはいない。
いつもの絶対恐怖がそこにいれば、それでいいのだ。
「では、リズ。今みたいにちゃんとやるのよ。
リズがおかしくなったらみんな困るでしょ!
わたしはまた、人間領の偵察に出るからね」
「うん。エバいないと寂しいけど、頑張るよ。
でもときどき、あれやってもいいよね」
「あれね。まあリズもたまには息抜きしないと、またストレスたまって切れちゃうから。
ほどほどにならいいよ。ちゃんと書き換えるの忘れないでね」
「うん。あんがと。またね!」
「またね!」




