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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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8/38

静かに堕ちていく

第三の犠牲者の遺体は研究棟で発見された。


死因は前の二人と同じ。


身体に異常なし。


脳にも損傷なし。


しかし感情だけが消失していた。


まるで心そのものが抜き取られたように。


残された文字は一つ。


【S】


「ソウマを指しているように見せている。」


アリスは即座に言った。


「だが、あまりにも露骨すぎる。」


ソウマも同意した。


もし犯人が自分なら、わざわざ自分を疑わせる証拠など残さない。


だが問題は別にあった。


第三の犠牲者。


研究員のノア。


彼は死ぬ直前、あるファイルにアクセスしていた。


そのファイル名は――


《ソウマ計画》


「そんな計画は知らない。」


ソウマは顔をしかめた。


アリスが暗号を解除する。


すると画面に現れたのは数百年前の記録だった。


『被験体S』


『感情適応率99.9%』


『ゼロ系列との融合可能性あり』


レイが息を呑む。


「被験体……S?」


さらに記録を読み進める。


すると信じられない文章が現れた。


『被験体Sには偽装記憶を移植済み』


『本人は自然出生した人間と思い込んでいる』


部屋が静まり返った。


「嘘だ。」


ソウマは立ち上がる。


「そんなものは偽造だ。」


だがアリスは何も言わなかった。


彼女の沈黙が逆に不気味だった。


「アリス。」


「何か知っているのか?」


長い沈黙。


やがてアリスは言った。


「私も最近知った。」


「何を。」


「あなたの出生記録が存在しない。」


空気が凍った。


病院の記録。


学校の記録。


戸籍。


DNA登録。


すべては存在する。


だが十三歳以前のデータだけが完全に欠落していた。


まるで途中から作られた人間のように。


その時だった。


研究室の照明が消える。


非常電源に切り替わる。


赤い警告灯だけが点滅する。


そして壁のモニターが一斉に起動した。


映し出されたのは一人の少年。


十歳くらい。


白い病衣を着ている。


ソウマだった。


「な……。」


映像の日付は百八十年前。


ありえない。


少年はカメラを見つめている。


そして言った。


「もし君がこれを見ているなら。」


「計画は失敗したんだね。」


ソウマの声だった。


だがソウマ本人には覚えがない。


「僕は被験体S。」


「ゼロを止めるために作られた。」


「でも問題がある。」


少年の表情が曇る。


「ゼロを止める鍵と。」


「ゼロそのものが。」


「僕の中に同時に存在している。」


映像が途切れる。


誰も言葉を発せなかった。


その瞬間。


ソウマの腕の【-1】の刻印が赤く光り始める。


頭の中に大量の記憶が流れ込む。


知らない研究所。


知らない科学者たち。


そして――


密閉されたカプセル。


その中に眠る人物。


ゼロ・マイナスワンではない。


ゼロでもない。


もう一人のS。


「まさか……。」


アリスの顔色が変わる。


「第四の容疑者。」


誰も考えていなかった可能性。


犯人はソウマでもゼロでもない。


本物の被験体Sがまだ生きている。


そしてその人物は。


事件が起きたすべての現場にいた。


監視カメラにも映らず。


記録にも残らず。


誰の記憶にも残らないまま。


完全な透明人間として。


その時、基地全体に警報が鳴り響いた。


第四の事件発生。


場所は――


ソウマが収容されていた独房。


しかしありえないことに。


独房の中で倒れていたのは。


ソウマ本人だった。


では今ここに立っているソウマは誰なのか。


その謎を残したまま、警報音だけが鳴り続けていた。

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