不可解な予測
司令室は封鎖された。
ゼロ・マイナスワンが姿を消したからだ。
監視映像を確認しても、その姿はどこにも映っていない。
まるで最初から存在しなかったかのようだった。
「ありえない。」
アリスが呟く。
「映像は改ざんされていない。」
「でも誰かが消えている。」
ソウマは死亡したエルガのデータを再調査していた。
そこで気になる事実を発見する。
死亡したエルガは事件の三日前から、誰にも会っていなかった。
正確には――
会った記録が存在しなかった。
しかし日誌にはこう書かれていた。
『彼がまた来た。』
『誰にも話せない。』
『もし私が死んだら、犯人は私の記憶の中にいる。』
「記憶の中?」
レイが顔をしかめる。
「どういう意味だ。」
その時、アリスが急に立ち上がった。
「まさか。」
彼女はエルガの脳内バックアップを起動する。
死者の記憶を映像化するシステム。
映し出されたのは事件前夜。
エルガは一人で部屋にいた。
誰もいない。
だが突然。
部屋の隅に人影が現れる。
監視カメラには映らない。
センサーにも反応しない。
しかしエルガだけには見えている。
その人物はゆっくり近づく。
顔は見えない。
黒い影に覆われている。
そしてこう言った。
「君は真実に近づきすぎた。」
映像がそこで途切れる。
ソウマは凍り付く。
その声に聞き覚えがあった。
「嘘だろ……。」
それは。
自分自身の声だった。
沈黙が落ちる。
レイが振り向く。
「説明してくれ。」
「違う。」
ソウマは首を振る。
「俺じゃない。」
だがアリスの表情は険しかった。
「本当に?」
さらに調査を進める。
すると恐ろしい事実が判明した。
エルガが死亡した時刻。
ソウマの位置情報が消えていた。
二十分間だけ。
完全に。
監視カメラも。
生体認証も。
量子通信履歴も。
空白。
まるで誰かが意図的に削除したようだった。
「そんなはずない。」
ソウマ自身も覚えていない。
しかし証拠は揃い始めていた。
犯人はソウマ。
それが最も合理的な結論だった。
レイは拳を握る。
「お前を信じたい。」
「でも説明できない。」
アリスも黙ったまま。
その夜。
ソウマは独房に隔離される。
そしてそこで見つける。
自分の腕に刻まれた見覚えのない数字。
【-1】
ソウマの背筋が凍る。
ゼロ・マイナスワン。
まさか。
その瞬間、独房の壁に文字が浮かび上がる。
誰も触れていない。
誰も侵入していない。
黒い文字。
『ようやく気づいたか。』
『私はお前だ。』
『いや。』
『お前が私なんだ。』
壁いっぱいに文字が広がる。
『エルガを殺したのは誰だと思う?』
『本当にゼロ・マイナスワンか?』
『それとも記憶を失ったお前か?』
ソウマは言葉を失う。
もしゼロ・マイナスワンの言葉が本当なら。
事件は殺人ではない。
もっと恐ろしい何かになる。
そして翌朝。
第三の犠牲者が発見される。
だが今回は違った。
犠牲者が死の直前に残したメッセージ。
そこには一文字だけ書かれていた。
【S】
犯人を示す最初のイニシャル。
それとも。
ソウマ自身への警告なのか。
事件は宇宙戦争よりも危険な謎へと変わり始めていた。




