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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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異邦人

第八章 約束の星


宇宙は静まり返っていた。


ノクスの背後に現れた銀髪の少女。


その姿を見た瞬間、未来喰らいエクリプスの力がわずかに揺らいだ。


「……やめろ。」


ノクスは苦しそうに呟く。


「その姿を見せるな。」


少女の影は何も言わない。


ただ静かに立っている。


ソウマはその姿を見つめた。


「彼女が。」


「お前の約束だったのか。」


ノクスは答えない。


しかし、その沈黙が答えだった。


フィニスが静かに継承の書を開く。


ページが一枚だけめくられる。


そこには新しい文章が浮かんでいた。


『忘れられた記憶は、消えたのではなく閉じられているだけだった。』


宇宙に光が広がる。


ノクスの周囲に封印されていた記憶が現れ始めた。


それは遠い昔。


第一宇宙よりも前。


創造者がまだ創造者と呼ばれていなかった時代。


若い青年がいた。


今のノクスと同じ顔。


だが瞳には希望が宿っていた。


その隣には少女がいた。


銀色の髪。


青い瞳。


優しい笑顔。


「名前は?」


若き日のノクスが尋ねる。


少女は笑う。


「まだない。」


「じゃあ付けよう。」


「約束だ。」


映像がそこで途切れる。


ステラが震える声で言った。


「私に似てる。」


エルが頷く。


「似ているんじゃない。」


「ステラの原型です。」


全員が驚く。


「第八法則が生まれる前。」


「出会いという概念は、一人の少女の願いから始まった。」


ソウマは息をのむ。


つまり。


ステラは偶然生まれた存在ではなかった。


宇宙そのものが、忘れられた約束を思い出そうとして生み出した存在だったのだ。


ノクスは苦しそうに頭を抱える。


「やめろ。」


「思い出したくない。」


宇宙全体が揺れる。


エクリプスの瞳が一斉に開く。


忘れろ。


終わらせろ。


苦しみから解放されろ。


だが今度は違った。


ソウマが前へ出る。


「忘れない。」


ノクスが顔を上げる。


「何?」


「苦しい記憶も。」


「失敗した未来も。」


「守れなかった約束も。」


ソウマは静かに言う。


「全部持ったまま進む。」


「それが未来だ。」


ノクスは震える。


彼はずっと逆だと思っていた。


忘れれば救われる。


終わらせれば楽になる。


それが答えだと。


しかし目の前の創造者は違った。


傷を抱えたまま歩こうとしている。


その姿は。


かつて自分が憧れていた誰かによく似ていた。


その時だった。


少女の影が初めて口を開く。


「見つけた。」


ノクスの瞳が大きく見開かれる。


「……え。」


少女は微笑む。


「ずっと探してた。」


「約束を忘れちゃった人。」


宇宙が静まり返る。


ノクスの頬を一筋の涙が伝った。


エクリプスの全身に無数にあった金色の瞳が、一つずつ閉じ始める。


未来喰らいの力が弱まっていく。


少女はゆっくりと手を伸ばす。


「約束したでしょう。」


「どんな未来でも。」


「また会おうって。」


ノクスは震える手を伸ばした。


触れた瞬間。


少女の姿は光へ変わる。


消えたのではない。


無数の星になったのだ。


宇宙中へ広がる銀色の星々。


ステラが涙を流す。


「約束の星……。」


その光景を見ながら、エルが静かに呟く。


「なるほど。」


「だから出会いは宇宙を救うのですね。」


しかし。


その直後だった。


《GENESIS》が、かつてない警報を発した。


緊急事態。


緊急事態。


創世領域の外側より反応。


ソウマが振り返る。


宇宙の果て。


さらにその向こう。


本来なら何も存在しないはずの場所。


そこに巨大な「目」が開いていた。


エクリプスよりも遥かに巨大。


銀河を塵に見せるほどの大きさ。


そして、その目はこちらを見ていた。


イヴの顔から血の気が引く。


ラストですら言葉を失う。


エルが初めて恐怖を浮かべる。


「そんな……。」


「観測者が……。」


ソウマは振り返る。


「観測者?」


エルは震える声で答えた。


「違います。」


「観測者たちを観測している存在です。」


宇宙誕生以来、一度も姿を見せなかった究極の存在。


創造者でもない。


調律者でもない。


観測者でもない。


その目が静かに開く。


そして宇宙全体へ、ただ一言だけが響いた。


「物語は気に入った。」


「だが、まだ終わり方が決まっていない。」


第三の宇宙を超えたさらに外側。


そこから、新たな階層の存在が姿を現したのだった。

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