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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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最後のあいさつ

第九章 物語の外側


宇宙の果て。


そのさらに外側。


本来なら存在しないはずの場所に、巨大な目が開いていた。


誰も動けなかった。


創造者ソウマ。


ラスト。


エル。


イヴ。


フィニス。


ステラ。


全員が理解していた。


これは今までの敵とは違う。


エクリプスですら宇宙の一部だった。


観測者も宇宙の法則に属していた。


だが。


あの目だけは違う。


「あれは……何だ。」


レイが震える声で呟く。


エルは答えられなかった。


代わりにラストが静かに言う。


「作者だ。」


静寂。


ソウマが振り返る。


「作者?」


ラストは目を離さず続けた。


「創造者が宇宙を創る。」


「観測者が宇宙を認識する。」


「調律者が宇宙を整える。」


「だが、その全てを物語として記述する存在がいる。」


巨大な目が瞬く。


その瞬間。


宇宙全体が一枚の紙のように見えた。


銀河。


星。


生命。


歴史。


未来。


すべてが文字になって流れていく。


アリスは息をのむ。


「私たち……。」


「書かれている。」


その通りだった。


宇宙そのものが一冊の物語だった。


そして、その外側にいる存在がページをめくっている。


巨大な声が再び響く。


創造者ソウマ。


君は面白い。


ラスト。


君も面白かった。


ノクス。


悲しい結末だった。


全員の名前を知っている。


いや。


知っていて当然だった。


その存在は彼らの物語を最初から読んでいたのだから。


ステラが一歩前へ出る。


「あなたが全部決めていたの?」


巨大な目は静かに閉じる。


そして答えた。


違う。


私は書かない。


私は読む。


全員が顔を見合わせる。


フィニスが何かに気づく。


「待って。」


「つまり。」


「作者じゃない。」


巨大な目が笑ったように見えた。


よく気づいた。


宇宙の外側に無数の光が現れる。


それは目だった。


一つではない。


二つでもない。


数え切れないほど。


何兆。


何京。


何垓。


無限の目が宇宙を見つめている。


エルが呟く。


「観測者のさらに上位……。」


イヴが青ざめる。


「まさか。」


巨大な声が続く。


私たちは作者ではない。


私たちは読者だ。


宇宙が静まり返る。


ソウマは理解した。


創造者は世界を創る。


観測者は世界を見る。


だが読者は違う。


読者は物語に意味を与える。


誰も読まなければ。


どんな物語も存在しないのと同じだから。


巨大な目は静かに告げる。


君たちの宇宙は試験中だ。


続く価値があるか。


終わるべきか。


それを判断する。


ラストが苦笑する。


「結局。」


「最後の裁判か。」


その時だった。


ソウマが笑った。


全員が驚く。


こんな状況で笑うとは思わなかった。


「何がおかしい。」


ラストが尋ねる。


ソウマは巨大な目を見上げた。


「簡単だ。」


「もし読者がいるなら。」


「答えはもう出てる。」


巨大な目がわずかに揺れる。


「なぜだ。」


ソウマは微笑む。


「つまらない物語なら。」


「とっくに読むのをやめてる。」


静寂。


宇宙が止まったようだった。


ステラが吹き出す。


レイも笑う。


アリスも。


ラストですら小さく笑った。


巨大な目は何も言わない。


長い沈黙。


そして。


宇宙の外側から、初めて穏やかな声が響いた。


合格。


その瞬間。


宇宙全体が黄金色に輝く。


《GENESIS》が最終メッセージを表示する。


創世試験終了。


第四宇宙認証完了。


未来生成権限を解放します。


だが。


その直後。


誰も予想しなかった表示が現れた。


新規創造者候補を検出。


候補数。


1。


全員の視線が一人に集まる。


銀色の髪。


第八法則。


出会いの化身。


ステラだった。


彼女自身も驚いている。


「え?」


ソウマが目を丸くする。


ラストが笑う。


「なるほど。」


「次の時代が来たか。」


そして宇宙の外側から最後の声が響く。


創造者ソウマ。


君の物語は終わらない。


だが。


次の主人公は君ではない。


ステラは呆然と立ち尽くす。


新しい宇宙。


新しい時代。


新しい創造者。


宇宙は静かだった。


争いは終わった。


エクリプスは未来を喰らう存在ではなくなり、失われた希望を語り継ぐ存在となった。


フィニスは終わりを閉ざす者ではなく、次の始まりへ橋を架ける者となった。


エルは変わらず宇宙を調律し続けている。


そして――


ステラは新たな創造者として選ばれた。


「本当に私でいいの?」


ステラは不安そうに尋ねた。


ソウマは笑う。


「創造者に必要なのは完璧さじゃない。」


「じゃあ何?」


「誰かと出会えることだ。」


ステラは少し考えた後、小さく笑った。


「それなら。」


「できるかもしれない。」


宇宙の中心。


《GENESIS》の前に、ステラは立った。


ラスト。


ユウ。


イヴ。


アリス。


レイ。


ゼロ。


十二大科学士。


エル。


フィニス。


ソウマ。


全員が見守っている。


《GENESIS》が静かに問いかける。


新たな宇宙を創造しますか?


ステラは首を横に振った。


「違う。」


その答えに《GENESIS》が沈黙する。


「私は創らない。」


「育てる。」


ソウマが微笑む。


かつてラストが言った言葉だった。


ステラは宇宙を見上げる。


無数の銀河。


無数の生命。


無数の未来。


どれも未完成。


だからこそ美しい。


「未来は。」


「誰かが決めるものじゃない。」


「みんなで見つけるもの。」


その瞬間。


第八法則が宇宙全体へ広がった。


出会い。


それは力ではない。


武器でもない。


ただ、人と人を結ぶもの。


宇宙のあらゆる場所で、新しい出会いが生まれる。


遠い星の子どもが初めて友達を作る。


研究者が新しい発見をする。


別れた家族が再会する。


旅人が見知らぬ景色に感動する。


誰かが誰かを好きになる。


その小さな奇跡の積み重ねが、宇宙を前へ進ませる。


そして。


宇宙の外側。


無数の読者たちの瞳が静かに瞬いた。


面白かった。


続きを見たい。


この宇宙は生きている。


その声は祝福だった。


ソウマは最後に振り返る。


長い旅だった。


通り魔「心壊し」から始まった事件。


ゼロとの戦い。


十二大科学士。


ラストとの対話。


創世。


エクリプス。


ノクス。


調律者。


読者たち。


苦しみもあった。


失敗もあった。


だが。


一つだけ確かなことがある。


どんな絶望の中にも。


未来へ向かう小さな光は残っている。


ソウマは空を見上げた。


そこには、約束の星が輝いていた。


少女の願い。


ノクスの涙。


ステラの笑顔。


すべてが星になっている。


「ありがとう。」


誰へ向けた言葉だったのか。


仲間たちへか。


宇宙へか。


それとも。


この長い物語を最後まで見届けた、どこかの読者へか。


答えは語られない。


だが、きっとそれでいい。


物語は終わる。


終わるからこそ、次が始まる。


フィニスが継承の書を閉じる。


ステラが未来へ歩き出す。


ソウマはその背中を見送る。


そして最後のページには、ただ一文だけが記されていた。


「終わりは、はじまりの続きだった。」


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