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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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科学と近代世界

第六章 未来喰らい


宇宙の果て。


黒い静寂の中で、それは目を開いていた。


エクリプス。


銀河ほどの巨体。


全身を覆う無数の金色の瞳。


だが、その姿を完全に見ることは誰にもできない。


見る者によって形が変わるからだ。


ある者には竜に。


ある者には巨人に。


ある者には、底のない闇に見える。


ソウマには――


それは「終わらなかった昨日」のように見えた。


過去の後悔。


救えなかった命。


言えなかった言葉。


選ばなかった未来。


それらが集まり、一つの存在になっていた。


「……これが。」


ソウマは静かにつぶやく。


「未来を食べる存在。」


エルが首を振る。


「違います。」


「正確には。」


「未来を失った者たちの集合意識です。」


円卓がざわめく。


アリスが信じられないという表情を浮かべる。


「集合意識?」


エルはうなずいた。


「未来を諦めた文明。」


「絶望した創造者。」


「滅びを望んだ生命。」


「そのすべての想いが、宇宙の外で一つになった。」


ラストは目を閉じた。


「……だから見覚えがある。」


「え?」


ソウマが振り向く。


「私も。」


「あと少しで、あれになっていた。」


静寂が走る。


ラストは苦笑した。


「宇宙を終わらせようとしていた私は。」


「未来を信じることをやめていた。」


「あと一歩で。」


「エクリプスの一部になるところだった。」


その言葉に、誰も反論できなかった。


突然。


宇宙全体へ声が響く。


声ではない。


心へ直接流れ込んでくる。


苦しまなくていい。


もう選ばなくていい。


未来など、なくてもいい。


レイが膝をつく。


「何だ……この声……。」


十二大科学士の一人が震え始める。


「疲れた……。」


「もう研究なんて……。」


一人。


また一人。


希望を失った者から順に、瞳の色が黒く変わっていく。


《GENESIS》が警報を鳴らす。


精神汚染を確認。


未来消失現象、船内へ侵入。


ソウマは叫ぶ。


「みんな!」


しかし、その声も届かない。


その時だった。


ステラが静かに前へ出る。


「みんな。」


「目を閉じて。」


彼女は両手を胸の前で合わせた。


銀色の光が、宇宙へ広がる。


「未来は。」


「一人では見えない。」


その光は、人と人を細い光の糸で結び始めた。


ソウマとアリス。


レイとゼロ。


ユウとラスト。


エルとイヴ。


そして十二大科学士。


エクリプスの声が弱くなる。


エルは驚きを隠せない。


「第八法則……。」


ステラは微笑む。


「出会いは。」


「希望を作るんじゃない。」


「希望を思い出させる。」


レイの瞳に光が戻る。


「そうか。」


「俺、一人じゃなかった。」


アリスも笑う。


「そうだったね。」


船内から黒い霧が消えていく。


しかし。


エクリプスは怒らなかった。


むしろ静かに笑った。


宇宙全体が震える。


その巨大な瞳が、一斉にソウマを見つめる。


創造者。


試してみよう。


黒い闇の中から、一つの人影が歩いてくる。


若い青年。


黒いコート。


黒い瞳。


その顔を見た瞬間、ソウマは息をのんだ。


「……俺?」


青年はソウマとまったく同じ顔をしていた。


だが、その表情には希望がなかった。


静かで、冷たい微笑みだけがある。


ラストが立ち上がる。


「まさか。」


青年は軽く頭を下げる。


「初めまして。」


「いや。」


「久しぶりかな。」


ソウマは問いかける。


「お前は誰だ。」


青年は悲しそうに笑った。


「君が選ばなかった未来。」


「もし君が、誰も信じなかったなら。」


「もし君が、希望を捨てていたなら。」


「私は君になっていた。」


青年はゆっくりと名乗る。


「私はノクス。」


「エクリプスが生み出した。」


「可能性の亡霊だ。」


その瞬間、《GENESIS》の表示が赤く染まる。


警告。


創造者と同一存在を確認。


宇宙は二人の創造者を認識しました。


宇宙そのものが、二人のソウマのどちらを「創造者」と認めるべきか、判断できなくなっていた。


そして、物語は「善と悪の戦い」ではなく、「希望を選んだ自分」と「希望を捨てた自分」の対話へと、新たな局面を迎えるのだった。

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