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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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イデオロギーの崇高な対象

第三章 終章の書


「すべての物語には、終わりが必要である。」


黒い本から放たれた一文は、宇宙そのものへ刻み込まれた。


生まれたばかりの星々が、静かに光を失っていく。


叫び声はない。


爆発もない。


ただ、「最初から存在しなかった」かのように消えていく。


「止めろ!」


レイが銃を向ける。


引き金を引く。


光弾は黒い本を貫いた。


しかし、本には傷一つ付かなかった。


その代わり、撃ち抜いたはずの光弾だけが、歴史から消えていた。


「攻撃が……なかったことになった。」


ゼロが低くつぶやく。


《GENESIS》が解析を続ける。


対象は物質ではありません。


概念生命体と推定。


物語因子を観測。


アークが息をのむ。


「概念そのものが生命になっているのか。」


黒い本のページが、再びめくられる。


新しい文章が浮かび上がる。


第一章 宇宙は生まれた。


その瞬間、新しい恒星が一つ誕生した。


さらにページがめくられる。


第二章 文明は発展した。


星々の上に都市が現れる。


生命が誕生し、文化が芽吹く。


ほんの数秒で数百万年分の歴史が流れていく。


そして最後のページ。


終章 すべては静かに終わる。


その一文とともに、文明は跡形もなく消えた。


ソウマは本を見つめた。


「……これは物語を書いているんじゃない。」


ラストが静かに答える。


「違う。」


「書かれたことが、現実になる。」


ステラは小さく震えていた。


「この本……。」


「悲しい。」


ソウマはステラを見る。


「何が分かる?」


「この本は終わらせたいんじゃない。」


ステラは目を閉じる。


「終わるしか知らないんだ。」


静寂が訪れる。


敵意ではない。


悪意でもない。


黒い本は、自分の役目を果たしているだけだった。


その時、イヴが一冊の白いノートを取り出した。


誰も見たことのない真っ白な本。


「これは……?」


ソウマが尋ねる。


「未来で受け継がれてきた本です。」


イヴは表紙をなでる。


「名前は《はじまりの書》。」


ラストが目を見開く。


「まだ残っていたのか……。」


「黒い本が終わりを書くなら。」


イヴはソウマへ白い本を差し出した。


「こちらは、始まりを書く本です。」


ソウマは静かに受け取る。


ページはすべて白紙だった。


何も書かれていない。


《GENESIS》が反応する。


創造者へ。


選択してください。


終章を読むか。


最初の一文を書くか。


ソウマは白いページを見つめる。


「何を書けばいい?」


オリジナル・ソウマは微笑む。


「それを決めるために、君は創造者になったんだ。」


ソウマはペンを握る。


しかし、すぐには書かなかった。


代わりに円卓にいる全員を見渡す。


皇帝クロノス。


ユウ。


イヴ。


アリス。


レイ。


ゼロ。


十二大科学士。


ラスト。


ステラ。


そして七つの法則。


「この宇宙は、もう俺だけのものじゃない。」


ソウマは白い本を円卓の中央へ置く。


「だから最初の一文も、俺一人では決めない。」


ステラが嬉しそうに笑う。


「それが、第八法則。」


「出会い。」


その瞬間、白い本の最初のページに、誰も書いていない文字がゆっくりと浮かび上がる。


『昔々、宇宙は一人では始まらなかった。』


黒い本は、その一文を初めて静かに見つめた。


そして、表紙がわずかに震えた。


まるで、終わりしか知らなかった存在が、生まれて初めて「始まり」という言葉に触れたかのように。

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