構造・神話・労働
第二章 八番目の法則
静寂だった。
誰も言葉を発せない。
七つの法則。
それが宇宙のすべてだったはずだ。
しかし今、その常識は目の前で崩れ去っていた。
銀色の髪の子どもは、興味深そうに周囲を見回している。
フレアが一歩前へ出た。
「あなたは誰?」
子どもは首をかしげる。
「分からない。」
「気が付いたら、ここにいた。」
ノアが冷静に分析する。
「GENESISの記録には存在しない。」
「創造者が生み出した存在でもない。」
ラストは静かにつぶやいた。
「宇宙が、自分自身を超え始めた……。」
《GENESIS》の表示が変化する。
解析不能。
新法則を確認。
名称未登録。
ソウマは子どもの前にしゃがみ込んだ。
「君の名前は?」
子どもは少し考え、微笑んだ。
「名前は、誰かにもらうものなんでしょう?」
「だったら。」
「あなたが付けて。」
ソウマはしばらく黙っていた。
そして、夜空を見上げる。
生まれたばかりの宇宙には、まだ星はほとんどない。
それでも、どこまでも可能性が広がっていた。
「じゃあ……。」
「ステラ。」
子どもの瞳が輝く。
「ステラ?」
「星という意味だ。」
「まだ何色にも染まっていない未来。」
「この宇宙が最初に選んだ奇跡。」
ステラは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
その瞬間、宇宙全体へ銀色の光が広がった。
アークが驚きの声を上げる。
「エネルギーが増加している!」
リディアも解析を続ける。
「しかも、どの法則とも干渉していません。」
「独立した第八法則です!」
その時だった。
宇宙の彼方で、小さな光が瞬いた。
一つ。
二つ。
十。
百。
千。
無数の光が次々と生まれていく。
イヴは涙ぐみながら微笑んだ。
「見て。」
「星が……。」
ラストは目を細める。
「違う。」
「星じゃない。」
ソウマも気付いた。
「あれは……生命?」
生まれたばかりの宇宙では、本来まだ生命は誕生しない。
それなのに、光の一つ一つが、小さな意志を持つように脈打っている。
ステラはその光景を見つめながら言った。
「私は創る法則じゃない。」
「私は。」
「出会いの法則。」
「違うもの同士が巡り合った時。」
「宇宙は、創造者でも予想できない未来を生み出す。」
ソウマは静かに笑った。
「だから、お前は八番目だったのか。」
しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。
宇宙の果てに、小さな黒い点が現れる。
最初は砂粒ほどだった。
だが、それは急速に大きくなっていく。
《GENESIS》が警告を発する。
未知の侵入反応。
宇宙外生命体を確認。
識別コード──NULL。
ユウの表情が一変する。
「宇宙の外から来た……?」
黒い点は、ゆっくりとこちらへ近づく。
やがて、その姿がはっきりと見えた。
それは船でも、生物でもない。
一冊の黒い本だった。
表紙には銀色の文字が刻まれている。
「終章」
本はひとりでに開き、ページがめくられる。
そこには一行だけ記されていた。
『すべての物語には、終わりが必要である。』
その文字が宇宙へ溶け込んだ瞬間、新しく生まれた星々が一つ、また一つと静かに消え始めた。
ソウマは本を見据え、静かに言う。
「今度の敵は、宇宙を壊す者じゃない。」
「物語そのものを終わらせようとする存在か……。」




