ディスタンクシオン
ORIGIN 第二部 ― 創世編
第一章 名もなき宇宙
暗闇だった。
光もない。
音もない。
時間という概念すら存在しない。
あるのは、小さな光の種だけ。
ソウマが両手で抱えていた《宇宙の種》だった。
「ここは……。」
ソウマが周囲を見回す。
隣にはラストが立っている。
その姿はもう老人ではなかった。
長い旅を終えた疲労は消え、二十代ほどの青年へと戻っていた。
「ようこそ。」
ラストは静かに微笑む。
「創世の庭へ。」
宇宙の種が、ゆっくりと鼓動する。
一回。
二回。
三回。
鼓動のたびに、暗闇へ小さな光が広がっていく。
まるで夜空に最初の星が生まれるようだった。
「始めよう。」
ラストが言う。
「でも今回は、僕たちが世界を決めない。」
「どういうこと?」
「今までの創造者は、すべてを設計した。」
「重力。」
「時間。」
「生命。」
「善悪。」
「未来。」
「だから世界は、創造者の想像を超えられなかった。」
ソウマは宇宙の種を見つめる。
「今回は違う。」
「世界自身に選ばせる。」
《GENESIS》が応答する。
創世プロトコル変更。
自律進化型宇宙を構築します。
突然、宇宙の種から七つの光が飛び出した。
赤。
青。
緑。
金。
白。
黒。
透明。
七つの光は互いに距離を取りながら回転を始める。
イヴが静かに説明する。
「宇宙の法則です。」
「今までは創造者が決めていました。」
「今回は法則同士が対話し、自分たちで均衡を探します。」
アークは驚きを隠せない。
「法則が意思を持つ……。」
「生命だけが生き物じゃない。」
ユウが笑う。
「宇宙も、生きているんだ。」
その瞬間、赤い光が大きく揺れた。
空間全体に重低音が響く。
七つの光の前に、一人の少女が姿を現す。
赤い瞳。
真紅の長い髪。
燃えるようなマント。
「私は第一法則。」
少女は名乗る。
「名前はフレア。」
「変化を司る。」
続いて青い光から少年が現れる。
深い青の瞳。
静かな笑顔。
「僕はノア。」
「秩序を司る。」
緑の光。
白衣を着た女性。
「私はリーフ。」
「生命を育む。」
金色の光。
幼い男の子。
「僕はクロノ。」
「時間を刻む。」
白い光。
羽衣をまとった女性。
「私はルミナ。」
「希望を照らす。」
黒い光。
漆黒の外套を羽織った青年。
「俺はネヴァ。」
「終焉を司る。」
最後に、透明な光が静かに揺れる。
誰の姿にも見える。
男にも。
女にも。
子どもにも。
老人にも。
見る者によって姿を変える存在。
「私は第七法則。」
「名はありません。」
ソウマが問いかける。
「どうして?」
透明な存在は微笑んだ。
「まだ決まっていないから。」
「私は。」
「可能性。」
その瞬間、《GENESIS》がかつてない警報を発する。
創世異常を確認。
未知の干渉。
暗闇の彼方から、七つではない八つ目の光が現れた。
それは誰も創っていない光だった。
銀色に輝きながら、ゆっくりと宇宙の種へ近づいてくる。
イヴが青ざめる。
「そんな……。」
ユウが息をのむ。
「記録にない。」
ラストは目を細めた。
「宇宙が、自分で新しい法則を生み出したのか。」
銀色の光は静かに人の姿になる。
年齢は十歳ほど。
少年とも少女ともつかない姿。
瞳は星空のように無数の色を宿していた。
その子はソウマを見上げ、優しく微笑む。
「初めまして。」
「あなたが創造者?」
ソウマは頷く。
「そうだ。」
その子は首を横に振った。
「違うよ。」
「私は、この宇宙が最初に創った存在。」
「だから。」
「あなたより先に、この宇宙の住人なんだ。」
ソウマは驚きながらも笑みを浮かべた。
創造者がすべてを決める時代は終わった。
新しい宇宙は、自ら考え、自ら選び、自ら未来を紡ぎ始めていた。
そして、その最初の奇跡は、創造者でさえ予測できない「八つ目の法則」の誕生だった。




