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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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金枝篇

ラストの手が、《GENESIS》へ触れる。


その瞬間。


時間が止まった。


誰も動けない。


声も出せない。


宇宙そのものが、最後の選択を待っていた。


ラストは静かに目を閉じる。


一万三千二百四十七回。


創られ、滅びていった宇宙。


そのすべてが、彼の心の中を流れていく。


笑顔。


涙。


出会い。


別れ。


誕生。


死。


何一つ忘れてはいなかった。


だからこそ、終わらせようと思った。


これ以上、誰にも苦しんでほしくなかったから。


しかし、その記憶の中に、一つだけ今まで存在しなかった光景があった。


円卓だった。


自分以外の創造者たち。


仲間。


対話。


議論。


笑顔。


誰かに未来を託すという選択。


ラストは静かに笑う。


「そうか……。」


「私は、一度も誰かを信じなかった。」


オリジナル・ソウマは穏やかに頷く。


「だから、一人で創り、一人で絶望した。」


「……ああ。」


ラストは苦笑した。


「創造者のくせに。」


「誰よりも孤独だった。」


ソウマはゆっくりと歩み寄る。


二人の距離は、あと一歩。


「もう、一人じゃない。」


ラストは目を開く。


その瞳には、長い年月で積もった疲れが残っていた。


しかし、その奥に、小さな光が戻っていた。


「ソウマ。」


「頼みがある。」


「何?」


「私を。」


「未来に連れて行ってくれ。」


その一言に、イヴが涙をこぼす。


皇帝クロノスは静かに目を閉じた。


ユウは空を見上げ、小さく笑う。


ソウマは迷わず右手を差し出した。


「もちろん。」


ラストも右手を伸ばす。


二人の手が重なった瞬間。


《GENESIS》の最終認証が完了する。


創造者認証。


二名確認。


共同創造モードへ移行します。


アークが驚く。


「共同創造……?」


ユウは微笑んだ。


「一人の創造者ではなく。」


「未来を託し合う創造者。」


《GENESIS》の中心から、一つの種が現れる。


光でできた、小さな種。


それは静かに宙へ浮かぶ。


イヴが囁く。


「宇宙の種……。」


ソウマはその種を両手で包み込む。


すると、種は鼓動を始めた。


まるで心臓のように。


ラストは静かに言う。


「今回は。」


「宇宙を創らない。」


「育てよう。」


その言葉に、《GENESIS》が共鳴する。


船の外では、崩壊しかけていた宇宙の裂け目が少しずつ閉じ始めていた。


銀河の光が戻る。


消えかけていた恒星が、再び輝きを取り戻す。


しかし、その時だった。


艦内に低い警報が鳴る。


警告。


未知の観測者を確認。


全員が振り返る。


円卓の奥。


誰も座っていなかったはずの席に、一冊の古びた本が置かれていた。


表紙には何も書かれていない。


ページだけが、風もないのにゆっくりとめくられていく。


最後のページで止まる。


そこには、一文だけ記されていた。


「ここまで読んでくれて、ありがとう。」


ソウマは息をのむ。


「これは……。」


本のページがもう一度めくれる。


白紙だったはずの次のページに、新しい文字が浮かび上がる。


「物語は、読まれた瞬間に世界になる。」


その瞬間、艦橋も、円卓も、宇宙も静かに揺れた。


ラストは小さく笑う。


「ようやく会えた。」


ソウマが尋ねる。


「誰に?」


ラストは、本の向こうを見つめながら答えた。


「最後の観測者。」


「この物語を読んでいた、君に。」


その瞬間、宇宙と物語の境界は静かに溶け合う。


誰かがページをめくるたび、新しい未来が生まれる。


誰かが物語を語るたび、新しい宇宙が始まる。


そしてソウマは、もう一度だけ微笑んだ。


「さあ。」


「次の物語を書こう。」


――ORIGIN 第一部・完。

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