善の研究
宇宙の中心。
創世機関《GENESIS》の円卓。
そこでは、史上初めて「宇宙の未来」を議題とする会議が始まろうとしていた。
ソウマは静かに立ち上がる。
「この会議には、勝者も敗者もない。」
「誰かを論破するためでもない。」
「宇宙を続けるか終わらせるか、その答えを一緒に探したい。」
ラストは腕を組み、静かに頷いた。
「いいだろう。」
「まずは聞こう。」
最初に立ち上がったのは、皇帝クロノスだった。
黒いマントを翻し、円卓の中央へ歩み出る。
「私は前宇宙で、すべてを支配しようとした。」
「秩序さえあれば、人は争わないと思った。」
彼は自嘲気味に笑う。
「だが、人は自由を失った瞬間、生きる意味も失った。」
「私は皇帝として失敗した。」
静かに席へ戻る。
次にユウが立つ。
「私は最後の生存者だった。」
「二百億年、一人で宇宙を見続けた。」
その声に、誰も口を挟まない。
「孤独は、人を壊す。」
「だから私は、どんな未来でも『誰か』がいる宇宙を選びたい。」
アリスは少し緊張しながら立ち上がる。
「私は科学者です。」
「失敗もたくさん見てきました。」
「でも。」
彼女は微笑む。
「母は失敗した研究を『次の誰かへの手紙』って呼んでいました。」
エレナの言葉だった。
「失敗が未来につながるなら、それは無駄じゃありません。」
レイは頭をかきながら立ち上がる。
「難しい話は苦手だ。」
会議の空気が少し和らぐ。
「でもな。」
「仲間を失うのは嫌だ。」
「だから戦う。」
「理由なんて、それで十分だろ。」
ゼロは静かに言った。
「私は感情を否定して生きてきた。」
「効率だけを信じていた。」
少しだけ笑う。
「だが今は違う。」
「非効率だからこそ、人間は面白い。」
十二大科学士も、一人ずつ自らの過ちを語った。
傲慢。
焦り。
恐れ。
栄光への執着。
誰もが、自分の失敗を認めた。
そして最後には、全員が同じ結論にたどり着く。
「もう一度、学びたい。」
静かになった円卓で、ラストだけが動かなかった。
ソウマは問いかける。
「あなたは?」
ラストは窓の外を見つめる。
そこには、数え切れないほどの宇宙が浮かんでいた。
「私は、一万三千二百四十七回。」
「宇宙を創った。」
「一万三千二百四十七回。」
「宇宙が滅ぶ瞬間を見届けた。」
「赤ん坊が生まれる瞬間も。」
「誰かが愛を告げる瞬間も。」
「親子が別れる瞬間も。」
「文明が滅ぶ瞬間も。」
「全部見た。」
ラストは静かに目を閉じる。
「最初は希望を信じていた。」
「百回目までは。」
「千回目でも。」
「一万回目でも。」
「だが最後には、必ず同じ場所へ戻る。」
彼はソウマを見る。
「だから終わらせることが慈悲だと思った。」
長い沈黙。
誰もラストを責めなかった。
その言葉は絶望ではなく、途方もない年月を生きた者の告白だったからだ。
ソウマはゆっくり立ち上がる。
「あなたは間違っていない。」
ラストは驚いたように目を開く。
「え?」
「苦しみを終わらせたいという願いは、優しさだ。」
「だから否定しない。」
ソウマは一歩近づく。
「でも。」
「一つだけ違う。」
ソウマは円卓の中央へ手を置いた。
「あなたは、一万三千二百四十七回の宇宙を見た。」
「でも。」
「その一万三千二百四十八回目は、まだ見ていない。」
ラストは黙る。
「未来は、繰り返すものじゃない。」
「誰かが昨日と違う選択をした瞬間、未来は初めて過去から離れる。」
イヴが静かに涙を流した。
「それが……。」
ソウマは微笑む。
「希望だ。」
その瞬間、《GENESIS》全体が眩く輝いた。
円卓の中央に、新たな文字が浮かび上がる。
創造者の最終試験
回答を確認しました。
最後の承認者を待機中。
全員の視線がラストへ向く。
宇宙を終わらせるか。
それとも、新たな未来へ託すか。
最後の鍵を握るのは、最も長い時間を生きた「最後のソウマ」だった。
ラストは静かに立ち上がり、震える手を《GENESIS》へ伸ばした。




