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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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芸術作品の根源

《GENESIS》起動。


その瞬間、《アーク・オリジン》全体が淡い金色の光に包まれた。


船体に刻まれていた無数の古代文字が、一つずつ輝き始める。


誰も読めないはずの文字だった。


しかしソウマだけは、その意味を理解していた。


第一原則。


宇宙は命令ではなく、選択によって成長する。


第二原則。


創造者は支配者ではない。


第三原則。


創造者もまた、創造物によって変えられる。


ソウマは目を閉じる。


「……そうだった。」


「この船は兵器じゃない。」


「学校だ。」


アークが目を見開く。


「学校?」


「宇宙そのものを育てるための。」


ユウが微笑んだ。


「やっと思い出したね。」


「GENESISは宇宙を作る装置じゃない。」


「宇宙が、自分で未来を選べるようになるための装置なんだ。」


その時だった。


巨大な影がゆっくりと前へ進み出る。


黒い鎧をまとった存在。


その仮面が静かに割れた。


現れた顔に、全員が息をのむ。


それはソウマだった。


ただし年老いている。


白髪。


深い皺。


左目には一本の傷。


未来で何千年も生きた姿だった。


アリスが震える。


「また……ソウマ?」


老人は静かに笑う。


「私は、お前たちの未来だ。」


皇帝クロノスが頭を下げる。


「創造者。」


老人は首を横へ振った。


「違う。」


「私は創造者をやめたソウマだ。」


静寂。


「名前もある。」


老人は穏やかに続ける。


「私は。」


『ラスト』


「最後のソウマ。」


オリジナルがゆっくり歩み寄る。


「やはり、お前だったか。」


ラストは頷く。


「私は何百回も宇宙を創った。」


「そして何百回も失敗した。」


ソウマは拳を握る。


「だから宇宙を壊そうとしているのか。」


「違う。」


ラストは静かに言う。


「終わらせようとしている。」


「もう苦しまなくていいように。」


ラストが手をかざす。


すると、宇宙の裂け目から無数の光景が映し出された。


一つの宇宙では戦争。


別の宇宙では疫病。


さらに別の宇宙では孤独。


無数の世界が、無数の悲しみを抱えていた。


「私は全部見た。」


「一兆回以上。」


「人は必ず苦しむ。」


「だから私は。」


「宇宙を終わらせることが、唯一の救済だと結論した。」


誰も反論できなかった。


ラストの瞳には狂気ではなく、深い慈しみがあったからだ。


ソウマは静かに尋ねる。


「それでも。」


「笑っている人もいただろ。」


ラストは黙る。


「誰かを愛した人も。」


沈黙。


「夢を叶えた人も。」


ラストは目を閉じた。


「いただろ。」


長い沈黙のあと、ラストは小さく笑った。


「……ああ。」


「だから私は弱かった。」


「その人たちを忘れられなかった。」


ソウマは一歩前へ出る。


「だったら終わらせる理由にはならない。」


「一人でも未来を選ぶ人がいるなら。」


「宇宙は続ける価値がある。」


ラストは静かにソウマを見つめる。


その視線には敵意はなかった。


ただ、長い旅路の果てにたどり着いた者だけが持つ疲れがあった。


「では証明してみろ。」


ラストは右手を広げる。


宇宙全体が白く染まり始める。


「私は力では止めない。」


「答えで止めろ。」


「創造者ソウマ。」


その瞬間、《GENESIS》の中央に巨大な円卓が現れた。


そこには十三の席が並ぶ。


オリジナル。


第七分岐。


ユウ。


イヴ。


皇帝クロノス。


十二大科学士。


アリス。


レイ。


ゼロ。


そしてソウマ。


最後に、ラスト。


全員が席に着く。


戦場ではない。


法廷でもない。


そこは、宇宙の未来を決める最後の会議だった。


誰も武器を抜かない。


誰も命令しない。


ただ一つの問いだけが、円卓の中央に浮かび上がる。


「苦しみがある世界を、それでも未来へ残すべきか。」


宇宙の命運は、この問いへの答えによって決まる。


そしてソウマは、ゆっくりと口を開いた。


「まずは、みんなの答えを聞かせてほしい。」


それは戦いではなく、対話によって未来を決めるという、創造者としての最初の選択だった。

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