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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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大衆の反逆

艦橋は静まり返っていた。


「私は三番目の宇宙から来ました。」


少女――イヴの一言は、誰もが信じてきた時間の概念を覆した。


レイが銃を下ろさない。


「証明できるのか。」


イヴは小さく頷いた。


「できます。」


彼女は右手をゆっくりと前へ差し出した。


その瞬間、艦橋の窓の外の星空が変化した。


無数の星々が線で結ばれ、一枚の巨大な星図となる。


しかし、それは現在の銀河でも、前宇宙の銀河でもなかった。


そこには見たこともない恒星群と、青く輝く巨大なリング状の天体が存在していた。


アークは震える声で言う。


「この星図は……。」


リディアは急いで演算を始める。


数秒後、彼女は呆然と立ち尽くした。


「物理法則が違う……。」


「重力定数も、光速度も、今の宇宙とは一致しません。」


イヴは静かに答える。


「だから第三宇宙では、皆さんの科学は通用しないんです。」


ソウマは少女を見つめた。


「君は敵なのか。」


イヴは少し悲しそうに笑った。


「もし敵だったら。」


「未来は、もうありません。」


その言葉に、皇帝クロノスが静かに目を閉じる。


「……やはり失敗したのか。」


「はい。」


イヴは皇帝へ向き直る。


「第三宇宙も滅びます。」


艦橋に衝撃が走る。


前宇宙は滅びた。


今の宇宙も崩壊へ向かっている。


そして、新しく生まれたはずの第三宇宙までもが滅びる。


「原因は?」


オリジナル・ソウマが問いかける。


イヴは迷うように唇を噛んだ。


そして静かに答える。


「人間です。」


誰も声を出せなかった。


「宇宙は壊れたんじゃありません。」


「人間が、宇宙を壊す存在だったんです。」


沈黙。


ユウがゆっくりと歩き出す。


「だからオリジン計画が作られた。」


イヴは頷く。


「そうです。」


「でも、その計画にも欠陥がありました。」


彼女はソウマへ近づく。


そして胸元から、一枚の古い写真を取り出した。


写真には五人の人物が写っていた。


オリジナル・ソウマ。


若き日の皇帝クロノス。


ユウ。


見覚えのある女性――エレナ。


そして中央には、一人の少女。


銀色の髪。


青と金の瞳。


イヴだった。


アリスは驚く。


「これ……何年前の写真?」


イヴは静かに答えた。


「約二百億年前です。」


レイは思わず笑う。


「冗談だろ。」


「冗談なら良かった。」


イヴは穏やかに微笑む。


「でも、本当なんです。」


ソウマは写真の裏側を見る。


そこには、一行だけ手書きで記されていた。


『四度目は、必ず成功させよう。』


ソウマは顔を上げる。


「四度目……?」


イヴはゆっくり頷いた。


「皆さんは、二回目だと思っていますよね。」


「違います。」


「前宇宙は一回目ではありません。」


「この宇宙は二回目でもありません。」


「私たちは、もう三回失敗しています。」


艦橋の空気が凍りつく。


オリジナル・ソウマが目を閉じる。


「……思い出した。」


ユウも静かに呟く。


「だから記憶を封印したのか。」


イヴは悲しげに笑う。


「はい。」


「三回とも、最後は同じだったから。」


「何が起きたんだ。」


ソウマが尋ねる。


イヴは答えなかった。


代わりに艦橋の窓を指差す。


宇宙の裂け目の向こう。


黒い艦隊のさらに奥。


そこに、一つの巨大な「影」が浮かび上がる。


惑星より大きく。


恒星より暗い。


その姿は、人にも機械にも見えない。


見る者によって形が変わる。


皇帝クロノスは、ゆっくりと膝をついた。


「来てしまった……。」


アークも青ざめる。


「そんな……。」


ソウマだけが、その影を見つめていた。


なぜか、恐怖よりも懐かしさを覚える。


影は静かに口を開いた。


声ではない。


宇宙そのものが震える。


『おかえり。』


『創造者ソウマ。』


その呼び名に、ソウマの心臓が激しく鼓動した。


「創造者……?」


イヴは静かに涙を流しながら言った。


「これが、ずっと隠されていた真実です。」


「あなたは宇宙を救う人ではありません。」


「あなたは――」


「宇宙を創った人なんです。」

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