テレヴィジオン
「未来の、僕。」
その一言だけで、ソウマの思考は止まった。
カプセルの中から目覚めた青年は、ゆっくりと立ち上がる。
身長も、声も、歩き方も同じ。
違うのは、その瞳だけだった。
黄金色に輝く瞳には、何千年もの時間を見つめてきたような静けさが宿っていた。
「信じられない……。」
アリスは思わず後退する。
「DNAを照合します。」
端末を起動する。
数秒後、解析結果が表示された。
一致率──100.0000%
誤差は一つもない。
目の前にいる青年は、ソウマと同一人物だった。
レイが銃口を向ける。
「お前は何者だ。」
青年は穏やかに微笑む。
「君たちがソウマと呼ぶ人間の、最初の個体。」
「名前はもう忘れた。」
「だから、オリジナルと呼んでくれて構わない。」
ソウマは青年を見つめた。
「俺は……クローンなのか?」
オリジナルは首を横に振る。
「違う。」
「君は複製ではない。」
「私の未来の可能性、その一つだ。」
ユウが静かに補足する。
「分岐とはコピーではない。」
「時間そのものが枝分かれし、一つの人生が複数の結末を持った状態だ。」
ソウマはゆっくりと拳を握る。
「じゃあ、俺たちは全員、本物……。」
「そう。」
オリジナルはうなずく。
「だからこそ、統合が必要なんだ。」
「統合?」
アークが問い返す。
オリジナルは艦橋前方の巨大な窓を指差した。
宇宙の彼方。
暗闇の中に、小さな亀裂が走っていた。
最初は一本だった。
しかし、それは生き物のように広がり始めている。
「宇宙が……割れている?」
リディアが息をのむ。
「宇宙そのものじゃない。」
オリジナルは静かに言う。
「可能性が崩壊している。」
ホログラムに一本の木が映る。
幹から無数の枝が伸びている。
しかし、その枝が次々と枯れ落ちていく。
最後には幹までひび割れ始めた。
「これが今の宇宙。」
「分岐を作りすぎた結果、世界は自分自身を維持できなくなった。」
ゼロが低く尋ねる。
「あと、どれくらい持つ。」
「百日。」
オリジナルは即答した。
「百日後、この宇宙はすべての可能性を失う。」
沈黙。
誰もその言葉を否定できなかった。
ソウマは一歩前へ出る。
「統合すれば救えるのか。」
オリジナルの表情が曇る。
「半分だけ。」
「半分?」
「宇宙は助かる。」
「だが、統合された十三人のソウマは、一人しか残れない。」
アリスの顔から血の気が引いた。
「そんな……。」
第七分岐ソウマが静かに笑う。
「最初から分かっていた。」
「俺たちは、そのために生まれたんだ。」
別の分岐が続ける。
「誰かが消えるんじゃない。」
「十二人の人生が、一人の中で生き続ける。」
しかしソウマは首を振った。
「違う。」
「それでも、それぞれが歩いてきた人生は一つしかない。」
オリジナルは静かに微笑んだ。
「だから君が選ばれた。」
その時だった。
船全体が激しく揺れる。
警報が鳴り響く。
「警告。」
「時空境界に高エネルギー反応。」
窓の外。
宇宙の裂け目から、ゆっくりと巨大な影が姿を現した。
それは艦隊だった。
黒い船体が何千隻も連なり、星々を覆い隠していく。
船首には、見たことのない紋章が刻まれていた。
円環の中で、一本の時計の針が折れている。
ユウの表情が初めて険しくなる。
「来たか……。」
レイが叫ぶ。
「敵なのか!」
ユウは短く答えた。
「ああ。」
「前の宇宙を滅ぼした最後の文明。」
オリジナルは艦隊を見据え、低くつぶやく。
「彼らの名は――」
《クロノス帝国》
その瞬間、艦隊の旗艦から全宇宙へ向けて通信が送られてきた。
「オリジナル・ソウマへ。」
「判決の執行猶予は終わった。」
「宇宙を返還せよ。」
ソウマは息をのむ。
二百年前に終わったはずの裁判は、宇宙そのものを法廷とする新たな戦いへと姿を変えていた。




