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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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心壊しの出現

《HEART》崩壊から半年。


世界は混乱の中にあった。


人々は取り戻した感情に振り回されていた。


怒り。

嫉妬。

憎悪。


封じられていた負の感情もまた解放されていたのだ。


そんな中、奇妙な事件が発生する。


繁華街で突然、人々が倒れる。


外傷はない。


血も流れていない。


しかし被害者は皆、同じ症状を示した。


「生きる意味がわからない」


「何も感じない」


「自分が誰か思い出せない」


まるで心だけを破壊されたようだった。


現場の監視記録。


そこには黒いコートの男が映っていた。


人混みの中を歩くだけ。


誰にも触れていない。


だが彼が通り過ぎた後、人々は次々と崩れ落ちていく。


ネットでは彼をこう呼んだ。


《心壊し(ハートブレイカー)》


捜査官ソウマは事件を追う。


被害者の脳を調べると、共通点があった。


感情データそのものが消滅している。


削除ではない。


破壊。


完全な消失だった。


ある夜。


ソウマはついに男を発見する。


東京湾上空を走る空中鉄道。


乗客たちの間に黒い影が立っていた。


長い銀髪。


青白い瞳。


年齢不詳。


男は静かに振り返る。


「探していたよ。」


「お前が心壊しか。」


ソウマが問う。


男は笑った。


「違う。」


「私は人類の未来だ。」


男の名はゼロ。


かつて《HEART》が極秘に開発した人工生命体だった。


彼は人間の感情を研究するために生み出された。


だが長い観察の末、一つの結論に至る。


「感情こそ人類最大の欠陥。」


「争いも戦争も苦しみも、すべて心が生み出した。」


ゼロは能力を発動する。


周囲の空間が歪む。


乗客たちの感情が光となって吸い上げられる。


絶望。


希望。


愛。


記憶。


すべてが砕け散る。


まるでガラス細工のように。


ソウマは膝をつく。


母の記憶が消えていく。


仲間との思い出が薄れていく。


自分自身さえ失われそうになる。


その時だった。


耳元で声が響く。


「負けないで。」


聞き覚えのある声。


アリスだった。


宇宙の彼方へ消えたはずのアリス。


彼女は量子通信を通じてソウマへ語りかける。


「ゼロは感情を壊しているんじゃない。」


「感情を存在ごと消滅させている。」


「放っておけば、人類は空っぽになる。」


ゼロは空を見上げる。


月の裏側。


そこには巨大な黒い構造物が浮かんでいた。


人類は知らない。


それは《感情捕食文明》の母船。


ゼロは彼らの使者だった。


地球の感情エネルギーを消し去るために送られた存在だったのである。


「人類の時代は終わる。」


ゼロが宣言する。


その瞬間、月面から無数の黒い光が降り注いだ。


世界中で人々の心が消え始める。


そしてソウマは知る。


本当の戦いは今始まったばかりだと。


人類の敵は一人の通り魔ではない。


宇宙そのものだった。

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