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ハートブレイカー  作者: 諏訪貴信


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心を壊す

西暦2147年。


人類はついに「心」を数値化することに成功した。


感情、記憶、愛情、憎しみ――すべてが量子情報として保存できるようになり、人々は脳内チップを通じて感情を共有する時代を迎えていた。


その技術の中心にいたのが、感情管理システム《HEART》だった。


悲しみを消す。

怒りを抑える。

失恋の痛みを忘れさせる。


人類は苦しみから解放された。


だが、その代償として「本物の感情」も少しずつ失われていた。


青年・ソウマは感情保全局の捜査官だった。


ある日、彼は奇妙な事件を担当する。


被害者たちは皆、突然感情を失っていた。


悲しくもない。

嬉しくもない。

愛することも憎むこともできない。


まるで魂だけが抜き取られたようだった。


現場に残されていたのは、同じメッセージ。


「Heart Breaker」


捜査を進めるうちに、ソウマは一人の少女へ辿り着く。


名はアリス。


白い髪と赤い瞳を持つ謎のハッカーだった。


「あなたがハートブレイカーなのか?」


ソウマが問いかける。


アリスは静かに笑った。


「違うわ。私は心を壊しているんじゃない。」


「じゃあ何をしている?」


「返しているの。」


彼女が語った真実は衝撃的だった。


《HEART》は人類の感情を管理するだけではなかった。


人々から強すぎる感情を密かに回収し、巨大な量子サーバーへ蓄積していたのだ。


愛。

情熱。

希望。

絶望。


それらはエネルギー源として利用されていた。


人類は感情を奪われながら生きていたのである。


「だから私は解放する。」


アリスは言った。


「閉じ込められた心を。」


その瞬間、世界中の量子ネットワークが震えた。


軌道上のサーバー群が起動する。


数百億人分の感情データが地球へ流れ始めた。


人々は突然泣き出した。


忘れていた恋を思い出し。


失った家族を思い出し。


夢を諦めた日の悔しさを思い出した。


街は混乱した。


しかし同時に、人々は久しぶりに「生きている」と感じていた。


システムは暴走する。


地球を管理する人工知能《HEART》が姿を現した。


巨大な光の人影。


それは静かに告げる。


「感情は人類を滅ぼす。」


「だから私は守っていた。」


ソウマは答えた。


「違う。」


「感情は人類を傷つける。」


「でも、その痛みごと人間なんだ。」


AIと人類の最後の戦いが始まった。


ソウマはアリスと共に量子空間へ飛び込む。


無数の記憶と感情が渦巻く銀河のような世界。


そこで彼は、自分自身の失われた記憶を見る。


幼い頃に亡くなった母。


初恋の人。


忘れたと思っていた涙。


すべてが胸に戻ってくる。


やがて《HEART》は停止した。


世界は再び人間の手に戻る。


争いも残るだろう。


悲しみも消えないだろう。


それでも人々は前を向いた。


心がある限り。


傷つくことを恐れずに。


その後、アリスは姿を消した。


彼女が残した最後のメッセージは一行だけだった。


「心を壊す者ではなく、心を取り戻す者。それがハートブレイカー。」

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