第1章 地下街 8
地下街 8
「何歳だ」
酒場の灯が揺れている。
割れた瓶
酒で濡れた床
全部が妙に遠かった。
隊長がユラをじっと見る。
「18」「お前に聞いてねぇ」「じゃ17」「増減すんな」
ミナが吹き出す。
「適当すぎ」「大体その辺だろ」「お前絶対ダメな保護者」「だから違うっつってんだろ」
酒場の空気が少し緩む。
でもユラだけは笑えなかった。
隊長の視線はまだユラに向いている。
「家は」
「………」
「あるのか」
答えたくなかった。
帰る場所。
胸が苦しくなる。
ユラは視線を落とした。
隊長が小さく息を吐く。
「お前、家出だろう?」
その瞬間、酒場が静かになった。
さっきまで笑ってたミナも何も言わない。
ヴィクが煙草の灰を落とした。
「だから何」
「保護対象だ」
「帰りたくない」
思わず口から出た。
唇をかむ。言うつもりじゃなかった。でも、止まらなかった。
「別に困ってない」
「地下街でか?」
「関係ないでしょ」
「ある」
男の声は低かった。
怒鳴らない。でも、逃がさない声だった。
ユラは苛立つ。
何も知らないくせに。
ここに来て初めて少し息が出来たのに。
祖父母の屋敷に戻るくらいならここの方がずっと良い。
ヴィクがぼそっと言う。
「まぁ、ここは飯食えるしな」「あんた今それ言う?」
ミナが呆れた様にいう。
ヴィクは肩をすくめる。
「いや、割と大事だろ」
隊長が額を押さえた。
「おま、保護協力するきあるのか?」「あるある」「顔」「カワイソー」「棒読みやめろ」
酒場に笑い声が戻る。
隊長は、真面目な顔でユラを見た。
「……お前、一緒に詰所までこい」
ユラの背中が冷えた。




