第1章 地下街 5
地下街 5
地下街にも季節はあった。
地上ほど分かりやすくはない。
でも、冬が深くなると客の機嫌が悪くなる。
寒さでイラつくのか、酒の量が増えるのか。
多分両方だ。
その夜も、酒場は騒がしかった。
酔っぱらい
笑い声
怒鳴り声
皿が割れる音
ヴィクが頭を抱えてる。
「何で毎日壊すかなぁ……」
ミナがキセルをくわえたまま鼻で嗤う
「景気いいじゃん」
「払うの俺…」
「カワイソー」
「絶対思ってねぇだろう」
ユラは皿を運びながら視線を逸らす。
その時、扉が開け放たれた。
冷たい外気が一気に酒場に流れ込んだ。
「寒っ」
奥の客が顔をしかめる。
長い外套
濡れた靴
灰色の制服
警邏だった。3人
警邏隊の男が店内を見回す。
ヴィクが小さく舌打ちをした。
「……最悪」
ミナが煙を吐く。
「最近多いね」
「上で何かあったらしい」
隊長が帳場に来る。
「ヴィク」「何」「また未登録のガキ囲ってるって話出てる」
ヴィクが煙草に火をつける。
「知らねぇな」「惚けんな」
ユラの背中に嫌な汗が流れた。
警邏は嫌だった
正確には怖かった
捕まる
連れ戻される
そう思うと胸が苦しくなる。
男の視線がユラで止まった。
「……お前新顔か」
「………」
ヴィクが先に答えた。
「うちの侍女」「登録証」「申請中」「毎回それ言うな、お前」
ミナが吹き出した
「様式美だよ」
男が眉をよせる。
「ミナ、お前も笑ってる場合か!」「コワイコワイ」男はため息をついた。どうやら顔見知りらしい。
酒場の奥で酔った客が大声をあげる。
「うるせぇんだよ、けいら!」
あっと、思った時は遅かった。
椅子が飛んだ。
警邏の男に直撃した。
酒場が静まり返る。
「ーおい」
低い声。
客の顔色が変わる。
ヴィクが片手で顔を覆った。
「……終わった…」
次の瞬間
酒場が一気に修羅場になった。




