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橙の帷と消えた国  作者: T.M
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第2章 アルヴァ塔 17

アルヴァ 17


出塔の日が近付くにつれ、アルヴァの景色が少しずつ変わって見えた。


談話室

倉庫

廊下


いつも居た場所なのに、全部最後になる気がした。

ユラは自室の棚の整理をしていた。

持ち出せるものは少ない。

入塔時に預けた荷物、それに塔で働いて貯めた僅かなお金だけだった。

支給服には番号が振られている。

本も毛布も次の塔生が使う。

下着は廃棄。

ここにあるものは誰のものでもない。

ユラは空になった棚をぼんやり見た。

何も残らないんだなと……。


「先でるのか」ノアがベッドに寝転がりながったまま言う。


「…うん」「ふーん」

少し寂しそうにも見えた。

「ちゃんと生きろよ」

「何それ」

ユラは思わず笑う。


その日の夕方、談話室に珍しくログが居た。

椅子に座ったまま、窓の外を見ている。

煙草はくわえていたが、火は点いていない。

「主任?」

「んー?」

「サボり?」

「通常運転」

相変わらずだ。

でも、最近座っている時間が増えた気がする。

その横でレイスが顔をしかめていた。

「主任」「はいはい」「今日はもう休んでください」「嫌だ」

ログはようやく煙草に火を点ける。煙がゆっくりと天井に上がっていく。

いつもの光景なのに何故か不安になる。


出塔前日の夜


談話室にはログとレイスだけが居た。


ログは椅子に深く座り煙草をくわえている。


レイスは壁に寄りかかったまま、じっとその様子を見ていた。

「主任」「んー?」

「明日、本当に来る気ですか?」「行かねぇと怒るだろ」

「そういう問題じゃありません」

ログは笑った。

その拍子に咳が出た。

長く掠れた咳だった。

レイスが眉をしかめる。

「だから病院にー」「嫌だ」

ログは煙草を仕舞う。


それからボソッと

「老人は過去に生き、青年は未来に生きるってな」

「……何ですか、急に」

「昔、誰かが言ってた」

「主任が言いそうな言葉です」

「失礼だな」

ログは笑った。

「だからまぁ、あいつは前だけ見て出ていけばいい」


レイスは何も言わなかった。


夜のアルヴァは不思議なくらい静かだった。

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