第 1 章 地下街
地下街 2
茶屋鴉樽の2階には侍女達の休憩室があった。
狭い
煙草臭い
化粧道具と服が散乱している
誰かの笑い声
誰かの悪態
壁の向こうでは酒場のざわめきが聞こえていた
「新入り?」
ユラが部屋に入った瞬間、長椅子に寝転がっていた女が顔を上げる
赤毛
濃い化粧
キセルをくわえたまま笑った
「へー、珍しい顔」
「……」
女は煙を吐きながら続けた
「名前」
「ユラ」
「私はミナ」
別の女が鏡越しに言う
「その子多分損するタイプ」
「何が」
ユラは眉をひそめる
鏡の中の女が肩をすくめた
「顔」
「意味わかんないし」
「客が調子に乗る顔してる」
部屋が笑いに包まれる。ユラはムッとした。
ミナがキセルを灰皿に打ち付けながら言った。
「まぁ、最初は皆そう」
「何が」
「怒ってる顔する」
また笑い声
ユラは舌打ちしたくなった。でも、嫌ではなかった。学園の空気と違う。
地下街の女達は踏み込みすぎない。過去も聞かない。
ただ、目の前で生きている。
それが楽だった。
その日の仕事は酒を運ぶだけだった。
酔っぱらいの笑い声
皿の音
煙草
時々、腕を捕まれる
「姉ちゃん、愛想わりーな」
「元から」
客が笑う
ヴィクが奥から怒鳴った
「おっさん、嫌われるぞ!」
「もう嫌われてる!」
酒場が笑いに包まれる
地下街の夜は騒がしかった。その中にいると考えなくてすむ。
夜更け、仕事が終わる。女達が2階に戻ってくる。
誰かが靴を脱ぎ捨てた
「だる…」「今日飲み過ぎ」「酔っぱらい死ね」「それは困る」
また笑い声。
ミナがキセルの灰を落とす。
「奥いった?」意味はわかってた。
「…まだ」
「ふーん」
ミナはそれ以上聞かない。
その時、化粧を落としていた女がぽつりといった。
「そのうち慣れる」
「慣れたくない」
女が少し笑った
「皆そういう」
部屋が静かになる
誰も否定しない
ユラは膝を抱えながらぼんやり床を見る。
地下街の夜は長い。でも、祖父母の屋敷にいた頃より息がしやすかった。




