第31話
6月も中盤にはいって期末テストが近づいてきた。私生活は非常に順調である。勉強も頑張ってるし、デートもしてるし、デートがない時はバイトしている。
ちなみにバイトは小洒落た個人経営の喫茶店とかではない。そういうのも考えたしちょっとした憧れもあるが、とりあえず日雇いの引っ越しスタッフやイベント設営とかである。まぁ、接客はちょっとアレだし、筋トレにもなるし、これなら経験なくても一線級の活躍できちゃうし。力持ちってだけでチヤホヤされる俺にとって優しい世界だ。
今日は愛梨が部活がないらしいので一緒に帰ることになった。最近では佐藤達と少しだけ離れて、クラスのいろんな奴と絡むようになった芹那もなんかついてくる。
「今日は佐藤達と帰らんの?」
「なんか用事あるんだって~。校門まで一緒帰ろ!」
と言うので、適当に雑談しながら靴を履き替え、校門まで向かっていると何やら人だかりができている。
遠目で見てみると1人の女が複数の男子生徒に話しかけられている。うちの高校の制服ではない。近づいていくとその女が大声でこちらに手を振ってきた。
「芹那ちゃーん!」
中学生の女だ。愛梨達が通っていたとこの中学の制服を着ている、小柄な女子だ。ぶんぶんとこちらに大きく手を振っている。
芹那が「あー!なんでここにいるの?」といいながらその子の方に走っていく。
「だれあれ?」
「あれ、詩音ちゃんだ。私達の中学の1個下の子。なんでここいるんだろ」
芹那と何やら話している詩音ちゃんとやらに、愛梨と並んで近づく。
「あ、愛梨さんもいた!ごめん、芹那ちゃんは金髪だからすぐ分かったんだけど」
すさまじい美少女だ。小柄で華奢な体に、茶髪で少し外ハネにセットされたボブカット、顔はザ・可愛い系といった風貌。愛梨とか芹那とか、佐藤周りの子達と比べても遜色のないレベル。こいつらの中学どうなってんだ?アイドル育成校かなんか?
「全然いいよー。私も遠目じゃわかんなかったし。今日はどうしたの?お兄ちゃんに会いに来たの?」
「ですです。てかうわ!ホンモノだ!」と俺の方を見て叫んだ。なんだこいつ。
「え、何?俺のこと知ってんの?」
「あーはい。すみません。いえ、あの、芹那ちゃんのSNSで画像見ました。愛梨さんに彼氏できた~っていうのです」
急に大人しくなってペコペコし始めた。芹那は”ちゃん”で愛梨は”さん”か。
「いや、でも生で見たらもっとすごいですね~!愛梨さん、ホントに大丈夫?」
また急にテンションが復活した。しかもちょっと失礼である。
「全然大丈夫!めっちゃ優しいし、頭もいいし順位一桁とかなんだよ?」
愛梨はそう言って腕を絡めてきた。嬉しいことを言ってくれる。
「うわ~、ホントに仲良しなんだ。確かに、お似合いだもんね。こりゃお兄ちゃんも残念だったね…」
また急にテンションが下がる。感情の起伏が激しい奴だ。てかお兄ちゃんも残念だったねってことは?
「マコトの妹かなんか?」と愛梨に聞いてみる。
「あはは、違う違う!健太くんの妹だよ!」
はぁ?マジ?全然、全く、1ミリも、これっぽっちも似ていない。
「うそ?全然似てねーじゃん」
「あは、それよく言われます!けど、えっと、佐藤健太の妹の佐藤詩音です。よろしくお願いします」
とペコリと頭を下げてきた。
「あ、あぁ、よろしく」
とこちらも答えたが正直動揺している。
今まで、冗談で考えたことはある。佐藤の周りに美少女が4人もいた状況が、まるで虚構の世界みたいだって。その4人は、高校に1人でもいれば騒ぎになるような、顔面偏差値で言うと75くらいはありそうなレベルの美少女だ。無作為に全国の大学生から4人選んだら全員東大理三でした、みたいなありえない確率だ。
まぁでも実際に眼の前で起きている現実だ。たまたまありえないレベルの美少女2人と佐藤が幼馴染で、それにつられて愛梨とゲーム少女が寄っていったと考えるとまぁなくもない。男避けとか、自己防衛の意味もあるんだろうと考えていた。実際それが起こっているんだからと、理由をつけて納得していた。
で、今度は佐藤の妹もやばいレベルの美少女でした、って話だ。奇妙だ。こんな偶然あるのかと思うくらいに世にも奇妙な話だ。今まで、0%だと思っていたなんかの世界論が、0.1%くらいはあり得るんじゃないかと思えてきたくらいはおかしい。
目の前で愛梨と芹那と佐藤の妹が談笑している。全員が方向性の違う、凄まじい美少女だ。遠巻きに見ている男たちも、俺がいなかったらこいつらに殺到しているんじゃないかってレベルだ。
今まで佐藤関連の話はあまり愛梨に聞いてこなかった。なんか嫉妬してるの?みたいに思われるのも面倒だったし。でもこれは…。改めて佐藤詩音の顔を見て思う。あまりにも佐藤健太と似ていない。そして、ここまでの思考をまとめて思う。こいつ、義妹じゃねーの?
あるあるじゃん。すげー可愛いくて仲良しの妹、兄に家族愛以上のものをもっているような妹で、でも家族だからそういう目で見てなかったけどある日血が繋がってなかったって判明して…みたいな?
頭を軽く振っておかしな考えを頭から追い出す。ないない。義妹はともかく、虚構の世界とかあり得ない。ちょっと佐藤の妹のレベルがやばすぎて、それまでのことも含めて衝撃を受けて、おかしな事を考えてしまった。
「で、今日はどうしたの?健太くんに会いに来ただけじゃないんでしょ?」
「えと、優奈ちゃんとお兄ちゃんと3人で学校帰りに駅前に買い物いくことになったんで、早めに終わったからここで待ってました!」
「え~あたし聞いてないんだけど?」
芹那が言う。そういう時は大概一緒に行くんだろう。
「えっと、お兄ちゃんに聞いてない?昨日3人でたまたまあった時に決まって、芹那ちゃんも誘ってると思ってた」
「ん~聞いてないけど、まぁたまたま誘われなかったのかな?まぁいいよ!今日は3人で遊んできな~」
と言って笑顔でバイバイと手を振りながら帰ろうとする。
「ちょっと待て」と言って引き止める。
「どしたん?」
「いや、俺等も帰るから、1人にしたらアレだろ」と言って周りを見渡す。男子が何人かこちらを見ているので、1人にしたら確実に話しかけられるだろう。
「あぁ…、ルナくんがいてあげてくれない?あたしがいるより絶対安全じゃん」
キョロキョロと周囲を見渡して芹那が言う。
「いや、それはさすがに…。佐藤が、自分の妹の近くに俺がいたらそっちの方が心配するだろ」
間違いなく心配する。だって美少女だから。愛梨の次は俺の妹かよ、とか思われちゃいそう。
「あ~まぁ言われてみると…」
「私もそう思います。芹那ちゃんもちょっと待ってて、一緒に買い物いこ?」
妹ちゃんも道理が分かるようで納得している。
「んじゃ、私達は帰ろっか!」と愛梨が手を繋いできた。
「おう、佐藤が来る前に帰るわ。んじゃな」
と言って芹那と妹ちゃんに軽く手を振った。
「私も来年ここ入る予定なんで、その時はよろしくです~!」
と言ってこちらに大きく手を振ってきた。
「なんつーか、あれだな。佐藤にあんな妹いたんだな」
帰路につきながら雑談する。
「そうそう、私も初めて見た時はびっくりしたよ!あんな可愛い妹いたんだなって」
「マジで似てないよな。なんつーか、美醜とか云々じゃなくて、顔の方向性がちがうっつーか。実は義理の妹だったりすんの?」
妹ちゃんに「あなたと佐藤は血がつながってますか?」なんて聞けるわけなかったので愛梨に聞くことにした。
「え~さすがにそれはないでしょ!私も知らないけど、今まで生きてきて義理の妹みたいな存在あったことないし?」
知らないのか。まぁ芹那くらい近かったら知ってるかもだが、そこまで近しい間柄じゃないだろうしな。
「中学の時さ、客観的に見て佐藤の周りに明らかにレベルの違う女子が集まってた状態だったんだろ?なんか違和感というか、周りの生徒とかはなんか言ってなかったの?」
前々から思ってたことだが、今日は更にそう思う。愛梨達4人に加えてあの妹がいたんだったら周りの人間はどう思っていたんだろう。
「自分でレベルの違う女とか認めるみたいで恥ずかしいけど、でも実際めちゃめちゃ言われてたよ!ラブコメとかギャルゲーの主人公じゃんとか!」
嫉妬とかもすごかったんだろうな。そう考えると、凡スペックで周りを美少女に囲まれた佐藤に少し敬意を感じなくもない。いろいろ言われたであろうし、愛梨達が見てない男子だけの空間ではイジメやいじりがあったんじゃないだろうか。ハーレムも良し悪しだな、と少し同情した。
愛梨を送り届けてから1人で帰っているとまた先程のしょうもない考えがふと浮かぶ。虚構の世界云々ってやつだ。
なんとはなしに、適当に道端のドクダミの葉を摘んで、アスファルトに照り返る陽の光を通して見てみる。先端が尖って基部が丸みを帯びたスペード型の葉は、表面に葉脈が浮き出ており葉のフチは赤紫色を帯びている。少ししっとりとした手触りの葉を軽く折り潰してみると、独特の強い香りが鼻をつく。
現実である。紛れもなく現実である。軽く鼻で笑って下らない妄想を振り払う。虚構の世界なんてありえないし、もし仮にそうだったとしてだからなんだ?モーフィアスが現れて赤いカプセルでも飲まない限り実証不可能な事を考えても無駄だ。
昔家族で見たSF映画を思い出しながら、そんな事を考えた。




