第26話
例えば俺がクラスの可愛い子と付き合いました、みたいなことがあるとする。恐らくその子の事が好きだった男はいるだろう。俺のことが好きだった女もいるだろう。ということは、不可抗力として可愛い子と付き合えばBSSやWSSといった事象は発生することになるので、これは早めに動かなかったそいつが悪いってことだ。
幼馴染の場合はどうだろう。例えばうじうじ系男子に幼馴染がいたとして。その幼馴染がマコトみたいなチャラ男と付き合って染められて、ヤられました。となった場合。まぁうじうじ系男子が悪い。典型的BSSだ。NTRとは呼ばないかもしれない。だがこれはうじうじくんからしたらNTRではないのか?幼いころから一緒にいて、何もかもを知ってる幼馴染。親同士も将来一緒になったらいいわねぇ、なんて言っちゃってる関係。確かに告白はしてないけど、自分の中では両片思いだったはず。なので、幼馴染の場合はNTRである。
という理論を大輝にぶつけてみたらこう返された。
「ルナくんさぁ…、前も言ったよね?NTRは恋人とか、妻とか夫とかを奪われることで、付き合ってないんだからNTRじゃないんだよ?しかも両片思いだったはずとかいうのは自分の感情というか、主観的意見でしょ?その男子の被害者意識によってNTR風な感じがでてるだけで、客観的事実としてはそれはBSSだから」
うぜえ…。オタクがよぉ。
「そういえば大輝って女の幼馴染いんの?」
「いないよ!なに急に!いても教えないよ!寝取られそうだし!」
「ほら!お前彼女いないのに今寝取られそうって言ったじゃん!ってことはNTRじゃん!」
と、ぎゃあぎゃあ議論していると愛梨に突っ込まれた。
「ほらもう、ノンデリも大概にしてね。瞳ちゃんも聞いてるから」
そうだった。瞳の幼馴染の気持ちを考えていると、なんか感情移入してしまってついNTR被害者みたいな気分になっていた。大輝に幼馴染がいたら本物のNTR体験というものを教えてやろうと一瞬熱くなってしまった。
「そもそも私と隼人は別にそこまで常に一緒じゃないし、そんなラノベの幼馴染みたいな関係じゃないから。親もそんなこといってないし。しかも両片思いだったはず、とかありえないって」
瞳が言う。はぁ、まぁそりゃそうか。そうだったらおもろいなって気持ちがあったのも否めないが。
「ま、普通はそんなもんか。そんなべったりしてる幼馴染とか現実ではいないわな…っていや、あぁ、いたわ」
昼飯をぱくついている芹那を見る。
「え?あたし?」
うんうんと頷く。大輝と瞳も頷いている。
「芹那ちゃんと優奈ちゃんはたしかにそんな感じだよね~。健太くんと常に一緒にいる感じだし。ってか小学校からクラスもほとんどずっと一緒なんでしょ?すごいよね」
優奈、三木優奈のことだ。佐藤の周りの清楚系王道ヒロインみたいな女。
「ん~、どうだろ。あたしはそこまでずっとべったりしてる訳じゃないと思うよ?優奈はマジでべったりだけど。朝起こしたりご飯作ったりしてるし。あたしは登下校とか学校で一緒にいるだけ」
それでも十分べったりしてんじゃんと思うが。ってかマジか。
「え、三木さんって佐藤くんを朝起こしたりしてるの?そんなのラノベの中の出来事かと思ってた…」
瞳が俺の気持ちを代弁してくれた。
「いや、さすがに親がいなくて、メッセージが返ってこない時とかだけらしいけど、起こしには行ってるみたい」
「それでも羨ましいなぁ。あんな人が朝起こしてくれるって前世で世界救ってないと道理が合わないよ」
まぁ確かに多少は羨ましい。が、口には出さない。だって愛梨が見てるから。黙ってゆで卵を剥いていると愛梨がニヤッと笑いながら言った。
「ルナくんも羨ましいと思う?私が朝起こしにいってあげよっか?」
「マジ?嬉しい。今度合鍵渡すわ」
自然体で返事をする。甘いんだよ。
「んーからかい甲斐がないなぁ」
「つか結局瞳は隼人くんになんて言うか決まったの?」
「まだ。でも夜に適当に話しかけてみる」
「そのまま告っちゃえば?隼人くんもOK出してくれるんじゃない?」
ギャルがとんでもないことを言う。でも確かに見たい。俺ものろう。
「いいじゃん。キャンプファイヤー中に2人で抜け出して告白とか、青春じゃん?しかも相手が幼馴染なら尚更」
「だからそういうんじゃないって!」
「でも多分今ならいけるんじゃない?吊り橋効果、はちょっとちがうか。多分今の危機感と、安心感の落差で感情がぐわーってなってころっと成功するんじゃない?知らないけど」
大輝の保険込みの超適当な追撃も入った。「うっさい!」と蹴られている。大輝相手には上からいけるようになった変身後の瞳だ。
「部活の先輩達もいってたよ、はやい人たちは今回の合宿の時とかに付き合うんだって!幼馴染だし、いい機会じゃん?」
皆で全力で余計なお世話をする。理由は見たいから。
「ないない!告ったりしないから!」
「でもさぁ、まぁちょっとでもアリなら告るのもいいんじゃね?高校生活なんて一瞬で過ぎていくんだから、あの時ああしてたら…とかさ、将来思っちゃうかもよ?」
まるで人生2週目かのようなアドバイスを送ってみると、瞳は「う~ん」と考え込んだ。瞳に見えないようにギャルがサムズアップしてきた。
昼飯も食い終わってレクリエーションだ。まぁ主目的は他のクラスの班とのコミュニケーションって感じのやつ。
レクリエーションでは他のクラスの人間といろいろ話をすることもできた。ろくでもない噂は依然としてあるものの、入学当初よりは話をできる人間が増えてきたのは良いことだろう。特にトラブルもなく、なんやかんやいろいろおわってまた飯の時間だ。
夕飯は定番のカレー。火起こしやら飯炊きやら食材を切ったりやらだ。火起こしを買って出て、適当に薪を井桁に組んで焚き付けに火を付ける。楽勝だ。5人班で人が余り気味だし少し抜けよう。
火が順調なので辺りをプラプラしていると、暇そうなマコトを見つけた。
「よう、順調?」
「ん~なんとも言い難いね」
「どした?」
「なんか気まずい。佐藤にもバリバリ警戒されてるし」
そりゃそうだろ。あははと爽やかな笑みを浮かべているマコトを見て思う。こいつ振られたくせにまた絡んできてるよ、と思われてるに決まってる。メンタル強すぎて最高かよ。
「あのゲーム少女とは話してんの?」
「えっと、ゲーム少女って九条さんのこと?」
「そうそう、ヘッドホンかけてる奴。佐藤のゲーム仲間なんでしょ?」
見るからに変わってそうな女だ。未だに話したことがないし、口数も少なそう。偏見だが、返事も「ん」とかしか言わなそう。まぁ、可愛いけど。
「いや~あの子はマジしゃべらないからね~。ずっとスマホ見てるし」
「で、どっち狙ってんの?」
「いや、特に狙ってはないけど。なんとなく中学も一緒だし仲良くしたいな~みたいな?その過程でそりゃお近づきになれたらいいな、とは思ってるけどね」
思ってたよりずっと健全だ。まぁいいんじゃない、って感じだ。暇そうなので俺等のグループのほうに引っ張ってきた。
「お、マコトくんじゃん!」
おつかれ~と歓迎されている。
「ルナくんが俺に断りもなく芹那をいれたから、除け者にされて寂しくなってやってきたよ」
「なんでわざわざ断り入れなきゃいけねーんだよ」
まぁちょっと悪かったとは思ってるけど。ちなみに昼飯仲間は互いに名前呼びだ。苗字だと距離感じるし?
「こっちは楽しそうでいいな~」と言ってくる。ごめんて。
「そっちはどんな感じなの?」と芹那が聞いた。
「佐藤と三木さんが夫婦みたいにカレー作ってて、九条さんはずっとスマホいじってる感じ」
「わぁ、めっちゃその光景が目に浮かぶ。ドンマイ」
「ま、覚悟して入ったから別に大丈夫」
「マコトくんも根性すごいね~。私が言うのもなんていうか申し訳ないけど、よく健太くん達の班に入れたね」
「振られたからって仲良くしちゃいけないってことはないでしょ?折角同じ中学なんだし。それに2人とは仲良くなれたしさ」
おお、いい事いうじゃん。
「大輝、こいつのメンタル見習えよ」
「ん~ちょっと厳しいかも。っていうかあれだね。隼人くんの気持ちがなんかより理解できた気がする」
急になんか言いはじめた。なんだよ、と聞いてみる。
「ん~まずルナくんはさぁ、なんていうか王道のNTRものの悪役感があるし、マコトくんは爽やかイケメンの裏に少しの腹黒さを隠したBSSもののキャラって感じなんだよね。だから隼人くんも気が気じゃないんじゃないかなって」
「それを本人の前で言うとはお前もなかなかメンタル強いじゃん」
思わず笑ってしまった。まぁマコトの爽やか感はちょっと腹黒さを感じないでもない。でもまぁ腹黒さを抱えてないやつなんていないだろうし別に気にしない。もし仮に俺の周りにいるのが俺のおこぼれ狙いとかだったとしても、それならそれでいいんじゃねって感じだ。人の内心なんて読めないしな。




