第25話
矢野の嘘告事件から少し時が経って合宿の日だ。
1日目は登山やらレクリエーション、飯盒炊爨、キャンプファイヤーとかで、2日目がなりたい職業やら、大学に行ってからの目標設定とかのグループワーク。
バスから降りて伸びをする。隣では爆睡していた大輝が欠伸をしている。美容院にいって少し垢抜けた感じがしないでもない。
山の中腹にある宿泊施設まで登山して、ついたら昼飯だ。バスは先行して宿泊施設まで向かっている。この半端な登山になんの意味があるんだろう。教師もだるそうだ。
「おつかれー」と女子3人がやってきて班のメンバーが揃った。
列になって登山口に入り、施設へと向かう。
雑談をしながらひたすら山道を登っていく。ところどころで脇によけて休憩しているグループと通りすがる。とあるグループの横を通るときに瞳が声を出した。
「あ…お疲れ様…」
小声だ。人にお疲れ様という声の音量じゃない。誰に言ってんだ?と思って瞳に視線の先を追うと、1人の男子生徒だ。ザ・普通ってかんじの子だ。あちらもすこし気まずい感じで「おう」と手を上げている。そのまま横を通り過ぎた。
「えっと、知り合い?」
と愛梨が聞く。
「うん、一応小学校から一緒の知り合い」
「そういえば違うクラスに幼馴染的な奴がいるって前に言ってたな」
まだ3人で飯をくってたころにそんな話をしてた気がする。
「なんか気まずい感じ?空気ちょっとおかしかったけど」
芹那も話に入ってきた。
「う~んと…この前ちょっと喧嘩みたいになっちゃってさ」
「えっマジで!喧嘩?なんでなんで?」
芹那はこういう話題が好きそうだ。俺も好きだ。続きはよ。
瞳は「ん~~」と言いながら俺達を見回す。
「えっとね、愛梨ちゃんに色々教えてもらって私もちょっと見た目に気を使うようになったでしょ?そしたらね、なんか急に似合ってないからやめろとか言われちゃって…、それでって感じ」
なるほど?いや、確かに見た目はめっちゃ変わった。癖毛がストレートになってメガネがコンタクトになって、うす~~くだが化粧もしている。普通に可愛くなったと言えるだろう。大輝の髪切っただけとはレベルが違う変わり方だ。前と比べたら確実にこっちのほうがいいと思うが?
「え~!絶対こっちの方がいいじゃん!意味わかんなくない?」
「それな。あーでもまぁ人の趣味っつーのもあるし、メガネっ子が好きだったとか?」
「そんな趣味があったとして、似合ってないからやめろとか言うかな普通?」
愛梨の冷静な指摘が入る。確かに。「俺はメガネしてたほうが好みだったけどな~」とかか。
「でしょ?なんか急に喧嘩腰というか、そんな感じで言ってきたから私も頭にきていろいろ言い返してたら気まずくなっちゃったんだよね…」
瞳が男に怒っていろいろ言い返すところが想像できないが、それができるのが幼馴染ってもんなんだろう。
「えっと、瞳ちゃんとその幼馴染って付き合ってたとかそういうのあるの?」
黙って聞いていた大輝が口をひらいた。
「あれ、大輝くん瞳ちゃんの恋愛事情気になっちゃってる感じ?」
芹那が大輝をからかう。
「いや、違うって!そんなんじゃなくて、えっと、僕分かるかも。なんでその幼馴染が急にそんなこと言ってきたのか」
男女の機微に疎そうな大輝が大きく出た。
「え、なんでなんで?」
「えとね、うーん。ちょっとまってね」と言って大輝はうんうん考え始めた。しばらく皆で黙ってひたすら山を登る。
「よし、えっと、僕がまずその幼馴染の気持ちになってみるね。彼は、瞳ちゃんにほんのりか、とってもか知らないけど、ちょっとだけ好意をもってます、として。」
いきなり仮定から入った。皆でほうほう、と続きを促す。
「で、えーっと幼馴染って何組?あぁ4組ね。ならお昼に学食に行くときとかに2組の前を通るでしょ?で、その時に中をチラッと覗いたりしてさ。」
「それで、中を見たら瞳ちゃんは僕とかルナくんとご飯をたべてます、と。」
あぁ、なんとなく話が分かってきた。
「それに最近はマコトくんもいるでしょ?愛梨ちゃんもいるけどさ」
「あ~なんとなく分かったかも」
他の皆もなんとなく分かったようだ。
「で、急に垢抜けた感じになって、ちょっと化粧とかも始めましたと。それってもうあれだよ。定番の感じなんだよ」
さすがラノベ脳。そういうのに詳しい大輝だからすぐ思いついたのか。
「ちょっと地味だった友人とか幼馴染とか、そんな女の子が男と付き合って派手になっていくっていうのはド定番のシチュエーションなんだよ!」
「おぉ~」と瞳以外が拍手をした。
「マジ当たってそうじゃね?俺的にはかなり名推理だと思うわ」
「えっと、それでその幼馴染の人が嫉妬?的なので瞳ちゃんにそんな事言ったってこと?」
「ちょっと待ってね」と大輝がまた何か考え始めた。しばらくして口を開く。
「えっとね~、多分幼馴染の人はルナくんかマコトくんとかの影響で瞳ちゃんが変わってしまった、と思ってて。そしてその現実を受け止めきれない、的な?で、イヤでイヤでしょうがなくて、変わってしまった幼馴染を見るのがイヤで、つい言ってしまって今は後悔している。って感じかな!」
「おぉ~」と瞳以外が再び拍手をした。
「それじゃん!絶対それじゃん!」
「なんか信憑性すごかったよ!大輝くんやるじゃん!」
美少女2人に褒められて大輝はうれしそうだ。
「まぁあとはルナくんの見た目がアレだしね」
浮かれているのかボソっと口をすべらした。おいこら聞こえてんぞ。
今度は瞳がう~んと何かを考えている。
「まず隼人が、あーえっと幼馴染の名前ね。隼人が私のことを好きだったっていうのがちょっと考えられないっていうか。今も別にだけど、前は尚更地味な感じだったでしょ…?」
微妙に自分を卑下しつつそんなセリフを吐く。なんて返そうか考えていると再び大輝が口を開いた。
「さっき見た感じ、その隼人くんも大人しそうというか、まぁ普通の感じだよね?だから全然あり得ると思うけど。幼馴染補正だってあるんだよ?」
瞳が卑下した部分を上手く濁しながらそう言った。
「俺も全然ありえると思うわ。前が多少地味だったとして、今が可愛くなって余計に自分の中の恋愛感情を意識しだしたって可能性もあるし」
「なんか聞けば聞くほどこれが正解って気がしてきた」
「うんうん、絶対これでしょ。間違いないって」
「う~ん、そうなのかな…」
瞳は自信なさげだ。
「まぁ恋愛感情は置いといても、ずっと一緒だった幼馴染がぽっと出の目立つ男子に近づかれて、そしたら急に格好が垢抜けてきたってなったら動揺せずにはいられないよ」
大輝の言う「ぽっと出」とか「近づかれて」という言葉が気になったが、確かに俺から近づいたな、と思い返してぐっと言葉を飲み込んだ。
「確かに。そう言われるとそんな気もしてきたかも」
やっと瞳は納得したようだ。
「これが正解として、んじゃどうすんの?」と聞いてみる。
「ん~、私が化粧とか髪とかいろいろ提案したから、私が教えたんだよってその隼人くんに言うとか?」
「なんか唐突すぎないそれ。急になんすか?ってなると思うけど」
「確かに」
「とりあえず瞳はどうしたいの?仲直りしたいの?あとは隼人くんのこと好きなの?」
聞きたい疑問をとりあえず聞いてみる。
「えっと、もちろん仲直りはしたいよ。好きかどうかは…えっと、分かんない。とにかく仲直りはしたいかな。親同士だって知り合いだし」
なんとなく、ドンマイの気持ちを込めて大輝の肩を叩く。急になに?みたいなよく分かってない顔をされた。
「んじゃやっぱりなんとかしたいよ、私に責任はないかもだけど、原因にはなってるみたいだし」
「全然愛梨ちゃんのせいとかじゃないよ!私も変わるきっかけもらえてうれしかったし!」
女同士の友情劇が繰り広げられる。
「とりあえず当分は隼人くん側からは歩み寄ってこないだろうし、瞳ちゃんからなんかアプローチしたほうが良さそうな感じかな?」
ギャルが頭を悩ませている。
「瞳はなんも悪くないのに下手にでて何か言うってのもどうかと思うけどな」
「んーと、いや、いいよ。もしさっき大輝くんがいったのが原因なんだったら、私から誤解を解いてくるよ」
「えらいっ!ってか素直、っていうか可愛い!」
愛梨が瞳に抱きついた。確かに偉い。自分だったらと想像して余計なこと言ったわ。
「んじゃさ、今日ピッタリの仲直りイベントあるじゃん。キャンプファイヤー!そこで言おうよ!」
芹那はノリノリだ。
「何ていうの?」
と大輝が聞く。それなんだよな。皆がう~んと頭を悩ませる。適当に思いついたセリフを言ってみる。
「例えば隼人くんを落としたいならこんな感じか?「あのさ、私最近変わったでしょ?これ、隼人に見てもらいたくて頑張ったんだよ…?愛梨ちゃんにいろいろ教えてもらってさ」」
適当に瞳のモノマネをしながら言ってみる。
「ぜっっったい無理!ていうかそもそも隼人を落としたいとか思ってないから!」
まぁ、でしょうね。冗談冗談。




