第24話 早見芹那視点
「はぁ~マジやっちゃった…」
血塗れのシャツに顔を腫らして帰ってきた兄貴。当然心配していろいろ聞いたらルナって名前だけだしてきたからつい疑ってしまった。
「にしてもあのクソダサ兄貴…マジでしょうもないことやりやがって」
後輩に嘘告しかけてボコられるとか情けなさすぎる。ダサすぎる。親にも言ってやろう。
ルナくんとはほとんど初めて話したが、そんな悪い人には見えなかった。屋上で詰められたときはガチでビビったけど…。愛梨も懐いてるし、どんな人なんだろ。
っていうか明日健太達に合宿の班違うとこ行くねって言わないといけないんじゃん。うわ、めんどくさっ。つい愛梨達の班に入るって言ったけどちょっと後悔してきた。
しょうがない、自分で言っちゃったことだし普通に報告しよう。
次の日、健太達に合宿はルナくん達のとこの班に入るね、というと案の定喧嘩になった。
「はぁ?!なんで?俺等と一緒にいたらいいじゃん!」
「いや~あたしも高校入ったから新しい友達とか作ってみたいじゃん?」
「それなら別の奴と組めばいいだろ!なんであの不良のとこいくんだよ」
「ちょうど愛梨もいるし、溶け込みやすそうかな~って。ってか別に良くない?そんな悪い人じゃないと思うけど」
「色々噂の件話してやっただろ!なんで分かってねーんだよ!」
でた、真偽不明の噂はもういいよ。
「別に普段は一緒にいるんだから良くない?合宿のグループくらい好きにさせてよ」
そんな会話をしてからずっとぶつくさ文句を言われている。はぁ…、だるいなぁ。優奈がずっと健太をなだめてくれているけどしんどいな。
あたしは優奈みたいに健太を朝起こしたり健太の親がいない日にご飯を作ってあげたりするわけじゃない。四六時中健太と一緒の優奈とは違う。健太と出会ったのも優奈の後だ。優奈が健太を好きで、それであたしも好きになった感じだけど、もうこの小学生から続いてる安っぽい恋愛感情にも疲れてきたな。
もう班のメンバーは提出済みだから、といってスルーしているとそのうち健太も落ち着いてきた。自分の班が3人になったから適当な人に声をかけ始めたがなかなか決まっていないようだ。
結局健太達の班にはマコトが入ることになった。楠木真。中学の時に私達全員に告ってきた男子。ちょっと笑ってしまう。まだ諦めてないのかな。彼もイケメンなんだし他で彼女作ればいいのに。でもまぁ悪い人じゃない。ちょっとチャラいだけだ。
そうこうしている内にテスト期間に入ってバタバタしはじめた。中間はまぁそれなりかな。そこそこ勉強はやったけどやっぱむずかった。
中間の結果が返ってきた。順位を見てみる。240人ほどいて137位。まぁ悪くはない。良くもないけど。想定していた程度の順位だ。
休み時間になって中間の結果が張り出された。どうせあたしは順位表になんて乗ってないが、ぷらぷらと見に行く。一位から順に見ていってすぐ下の名前に思わず驚いた。
6位 一ノ瀬 月
はぁ?マジで?ってか超人?思わずルナくんの姿を探す。結果を知っているからか、自分の席で愛梨と楽しそうに話している。
ここは結構な進学校だ。順位が一桁なら好きな国立大に行けるだろう。旧帝大だっていけるような順位だ。まぁまだ高校に入って初めての中間で範囲も狭かったがそれにしてもだ…。正直言ってヤバすぎる。
いや、見た目がガリ勉ならヤバすぎないけど、ルナくんの感じでこの順位なのがヤバすぎる。だってそんながっつり勉強してるとこなんて見てないし。家とかでコツコツ努力しているんだろう。
いろいろと考えながら順位表の6位から下を眺めていく。50位まで張り出されるが、私達のグループの名前は入ってないな~なんて思いながら見ていると知ってる名前があった。
48位 高橋 愛梨
はぁ?マジで?ってか何で?思わず愛梨の姿を探す。結果を知っているからか、ルナくん前の席の椅子に座って楽しそうに話している。
愛梨はこんなに頭がよくなかったはずなのに。あたしと成績はほぼ変わらなかったはず。ルナくんと勉強会しているのはしってたけど、こんなに離されるなんて。
「ルナくんってマジやばいね、頭良かったんだ」
「良かったんだっていうか…良すぎでしょ。見た目とのギャップえぐぐね?」
声が周りから聞こえる。ヤバい。なんかおいてかれてる感。
席に戻って健太達に声をかける。
「見た?やばくない?ルナくん6位だった」
途端に健太は不機嫌になった。
「はぁ?どうせカンニングかなんかしてるんでしょ」
本気ではないだろう。不機嫌になってつい発した言葉だろうというのは分かる。分かるけど。
「はぁ、まぁいいや」
あたしは会話する気も起きなくなって席を離れた。
ルナくんが6位だ。正直驚愕の事実だし話題にしないのもおかしいから言ってみたけどやっぱりこうなったかぁ。あたしはなんて言ってほしくてこの話をしたんだろう。
「俺らも勉強頑張ろうぜ」とか、そんな言葉?
なんかもうよく分からなくなってきたなぁ。
中間も終わって何となく浮ついた空気が流れている。もうすぐ合宿もあるし楽しくなってきた。
週末になってオリエンテーション合宿に行く前に必要なものを揃えに、班の皆で一緒に買物に行くことになった。
定番の待ち合わせ場所につく。まだルナくんも愛梨も、大輝くん達も来ていない。
ぼ~っとスマホをいじっていると声をかけられた。
「ねぇねぇ、マジ可愛いね。一緒にどっか遊び行こうよ」
チラッと目線を上げると、背もそう変わらないような男だ。顔もイケてない。身の程知らずのナンパ野郎。
無視してスマホをいじっているが、ひたすら声をかけてくる。しまいにはあたしの腕をつかもうとしてきた。近づいてきた手をはね除ける。
「ちょ、マジうざいから。触んな」
周囲には人が沢山いるので変なことにはならないだろうがしつこい。ナンパに慣れていない感じがでていて気色悪い。
しつこいナンパにうんざりしていると、ルナくんと愛梨が並んでこちらにやってくるのが見えた。ルナくんならこんな奴ワンパンだろう。助けを求めようと手を振ろうとしたところでルナくんが唇に人差し指をあててシーっとしてきた。ニヤッと笑っているので何か考えがあるんだろうか。
えっと、なんで?と思っているとルナくんがナンパ男の後ろに立つ。
「こらこら、嫌がってるだろ。しつこいナンパはやめなさい」
と言いながら、ナンパ男の両脇の下から手を入れて持ち上げた。ナンパ男は俗に言う高い高いをされている。「ちょ、やめろって!降ろせって!」と小男が叫びながら揺れている。ルナくんによって左右に揺すられ足がぷらんぷらんとしてひどくマヌケだ。
周囲にいた人たちがその光景をみて笑っている。さっきまでのイライラしていた気持ちが晴れてあたしも笑ってしまう。
最後にくるりと一周回したあと「ほら、どっかいけ」と言ってルナくんがナンパ男を降ろしてケツをはたくと、顔を赤くしながら走って逃げていった。その姿がまた周囲の笑いを誘う。注目を集めてすこし恥ずかしくなってきたので、ルナくんの胸をつんつんしながら文句を言う。
「もう、普通に助けてくれたらよかったのに」
と言うと、ルナくんは笑って言った。
「俺が普通に助けてもナンパ男が逃げてくだけじゃん。あれなら周りも盛り上がるし、芹那もおもろかったっしょ?」
と言ってルナくんは片目をパチリとつぶると悪戯っぽく笑った。
少年のような、悪童のようなその笑顔をみて、思わず顔が熱くなるのを感じて俯いた。




