第22話
屋上へつながるドアを開ける。
パラパラとご飯を食べているカップルや、女のグループがいる中、早見芹那が1人フェンスに身体を預け腕を組んで待っていた。金髪で存在感がすごい女だ。近づいて声をかける。
「よう、おまたせ」
「一ノ瀬さぁ、早見元春って知ってるっしょ」
時候の挨拶も無しにいきなりなんか言ってきた。えっと、誰?こいつも早見だから、親戚かなんか?
「あん?誰?」
無礼な態度にこちらも半ギレで対応する。
「早見元春だよ!あんたが昨日ボコったうちの兄貴だよ!」
とんでもない大声で急にブチギレられた。周りのカップルがビックリしてこっちを見ている。
はぁ?何いってんだこのクソ女。
「あぁ?知らねーよ、誰だよそいつ」
こっちもキレながら言い返した瞬間に思い当たる事があった。名前聞いたことはないけど見たことあるわ。あー、あれか。まさか血塗れシャツくんの事?なんか身分証でそんな名前見た気がするわ。
「あ、ちょいタンマ」
言い合いになる前にギャルを手で制する。ギャルは虚を突かれたようであちらも黙り込んだ。
腕を組んで考える。血塗れシャツくんもとい早見元春が、こいつの兄貴だったとしてなんで俺がやったことになってんの?昨日は制服だったし、矢野は俺にタメ語だし、俺の事を早見元春の前でルナって呼んだりも多分してる。
てことは早見元春は、このルナって名前のやばそうな奴は妹と同じ高校の同学年だってことは認識してたんだろう。
なるほどなるほど。分かるけど分からん。でも大体分かった。
「お前さ、お前の兄貴に俺のことなんて言われたの?殴られたとか?」
多分そんなこと言ってない。言ってたら処刑だし。変な冤罪きせたら処刑されそうって分かってるはずだし。
「あ?顔を腫らして帰ってきたあいつが、ルナって奴知ってる?って聞いてきたんだよ。んで何があったか聞いても頑なに口割らないし。お前がなんかやったんだろーがよ!」
精一杯虚勢を張って子犬の様に吠えてくるが全然怖くない。怖くないがムカついてきた。外見で怖がられるのはいいが、レッテル貼られて冤罪をかけられるのは苛つく。まぁこいつの兄貴の言動はかなり誤解されてもしゃーないかもしれんが。
顔面をぐっと近づけてガンを飛ばす。時代は男女平等だ。
「やってねぇよ。お前もし俺がガチでやってなかったらどう落とし前つけんだよ」
途端にギャルは勢いを失った。
「いや、え?えっと…」と言うと黙り込んだ。
うーんこれ。雑魚が噛みついてくるからこうなる。スマホを見るともう昼休みも終わりそうだ。
「とりあえず放課後な。何があったか教えてやるよ」
と言って教室に戻った。もう授業が始まるので席につく。愛梨がこちらをみていたのでスマホを指差す。「部活終わってから時間ある?昨日矢野がボコった男の1人が早見の兄貴だったらしくて俺がやったって完全に誤解されてるwww」というメッセージを送っといた。
愛梨から「wwwww」「おけ!時間あるよ!」と返ってきたので。愛梨に軽く手を振る。これでいいだろう。授業に集中することにした。
愛梨が部活終わるまで図書館で勉強していると終わったよ~とメッセージが届いた。愛梨と合流して早見の待っているファミレスに向かう。早見の連絡先はグループから引っ張ってこれるが、個チャ送るのもなんかイヤだったので愛梨に段取りを組んでもらった。
一通り屋上で言われたことと、俺の考察を話した。
「いや~ルナくんもってるね~」
愛梨にからかわれる。確かに。どんな偶然だよ。一瞬これがフラグってやつ…?という実はNTRゲーム世界論がまた頭をかすめる。ないない。たまたまたまたま。
「矢野のこと言ったら早見が警察にチクったりしないよな?」
「さすがにないんじゃない?んーと、矢野くんが嘘告に怒って男の方にやり返したってかんじなら、どっちも悪かったで済むんじゃないかな」
「確かに。女を下着で土下座させて身分証と動画とったこと言わなければ大丈夫か」
「こう聞くと矢野くん大概やばいね…」
とかなんとか話しているとファミレスに着いた。ギャルがボックス席でいかにも怒ってますよ、というオーラを出しながらスマホをいじっている。ギャルの向かいに2人で腰掛けた。
「なんで愛梨もくんの?」
ギャルが言う。
「いやー私も昨日その場にいたからさ」
「はぁ?」という声を無視して呼び出しボタンを押してドリンクバーを頼んだ。適当に烏龍茶を注いで席に戻る。
「んで、何があったの?」
こいつの上から目線もどこまで続くか見ものだ。
昨日の一本目の動画が残ってたら話が早かったが仕方ない。1から何があったか話すか。
「え~っとまずお前の兄貴がやったことが発端なんだが…」と説明を始めた。矢野が女を引き倒したこと。女を下着にしたこと。女を土下座させたこと。女の身分証を撮ったこと。とかのもろもろ女関連のことを抜いて話す。
俺のスマホに残っている矢野との通話記録とか、愛梨の証言、なんならお前の兄貴つれてこいよというとギャルは観念して俯いた。
「えっと、要は兄貴が直江校の1年の矢野くんって人に嘘告かけて、キレられてボコボコにされて、その矢野くんが過剰にやり返したかもって心配して一ノ瀬に相談して、んで一ノ瀬が兄貴と矢野くんを和解させたってこと…?」
「まぁ大体そんな感じだな。ほぼほぼ正確だ」
うんうん、と愛梨も頷いている。おら、どうすんだよ、何とか言ってみろや。
「マジか…」とギャルは黙り込んだので追撃する。
「あーあ。屋上で俺はなーんもやってないのに冤罪を大声で叫ばれて、つらかったなぁ~」
「ちゅらかったねぇ~」と愛梨がノリノリで慰めてくれる。ほら、どう落とし前つけんだよ、と若干おもしろくなって見ているとギャルはばっと顔を上げてテーブルに手をついた。
「マ~~~ジ、すいませんでしたぁ!許して!何でもするから!」




