第18話
送られてきた動画のサムネイルは暗い画面で内容はよく分からない。
これ愛梨に見せても大丈夫なやつなのか?どぎついエロ動画とかヤバい犯罪動画の可能性もないことはない。身分証の後に送られてきたからなんの内容か想像もできない。
愛梨をチラッと見ると早く早くと急かすように腕をペチペチされた。もうこれ一緒にみるしかねえじゃん…。
「スピーカーにするから外のベンチ行くか」
「おっけー!」という返事とともに俺達は店を出た。
外のベンチに並んで座る。俺のスマホを一緒に見るために、めちゃめちゃ密着してくる。こういう時じゃなかったらよかったんだがな、と思いながら動画をタップした。
しばらく暗い画面で音声だけが流れている。「くる?」「そろそろじゃね?」という声。男女の声だ。抑えた声だが何かを楽しんでいるのが伝わってくる。しばらく待っていると「きたきた!」という声とともに画面が明るくなった。
2人の制服の男女がこちらに歩いてくる。恐らく校舎裏か何かで、この動画を撮っている奴は何かの陰に隠れてこれを撮っている。撮影者側の声は一気になくなった。
しばらく見ていると、2人の男女が撮影者にとってはベストなポジションで向かい合った。男の顔に寄るように少しズームされる。
「矢野じゃん」
「この男子が矢野って人?」
服もよれよれで髪もボサボサの少し小汚い見た目、まさしく矢野である。「うんうん」と適当に頷き続きを見る。動画の中の女が声を発した。
「えーっとさ、あのね、君のこと前から学校の中で見ててさ、気になってたんだよね」
「あー、はぁ。えっと先輩っすよね?俺は初めて見たんすけど」
矢野に見覚えはないらしい。まぁもう大体事情は分かった。なんで身分証が送られてきたのかも。
「私はいっつもみてたの!でね、ちょっと君のこといいな、って思ってて…」
「はぁ。そっすか。えっと俺全然先輩のこと知らないんすけど…」
「まぁそれはこれから知ってくれたらいいから!でさ、えっと、私と付き合ってください!」
女が声を張る。正直おもろい。これからどうなるかが容易に想像がつく。
「はぁ、まぁじゃあよろしくお願いします」
矢野がマヌケにも気の抜けた了承の返事を返す。まぁ女の方もそこそこ可愛いしオッケーだすか。
撮影者達のコソコソした声が聞こえる。「そろそろいく?」「短くね?」とかいう声だ。男の「てってれー!」というネタバラシの掛け声と共に陰からスマホが動いた。
「ドッキリでしたー」という女の声とともに矢野の顔に画面が寄っていく。撮影者は女か。後ろでは男の「みのりー、短いって。もっとなんか引き伸ばしておもろくしろよ」という声が聞こえている。
「だってさー、話したこともないし。クラスの陰キャとかならエピソード語れるかもだけどさぁ」恐らくみのりって名前の女の声だ。矢野の顔が真っ赤になっていく。撮影者の女が矢野に声を掛ける。
「えっと、一年の子だよね。名前何?てか、どう思った?嬉しかった?」
矢野の顔が怒りに染まっていく。まぁさすがに自分が嘘告されてバカにされてることに気付いたんだろう。矢野が画面を指差す。画面いっぱいに矢野の人差し指が近づいてくる。
「これずっと撮っとけよ。録画止めたらマジ殺すから」
撮影者の女の「え?」という言葉を無視して矢野が画面外で半端に見切れている男の腹辺りをいきなり全力で蹴飛ばした。一旦再生を止める。
「えーっと、愛梨、まだ見たい?今から多分こいつらがフルボッコにされると思うんだけど」
「あーうん、そうなんだ…えっと、多分、矢野くんは嘘告の被害者ってことだよね?いや、てかそれにしてもキレすぎじゃない?まぁ…んと、気になるしまだ見たいかも」
まぁ見たいなら見ればいい。動画を再開する。
撮影者は律儀に矢野の方にスマホを向けた。映っているのは矢野を除いて男2女1で男の1人は腹を抑えて悶絶している。「ちょ!」「おい!」とかいう謎の掛け声を無視して矢野がうずくまる男の顔を蹴り上げた。「うわぁ…」という愛梨の声が聞こえてきたが無視する。
そのまま向かってきたもう一人の男にヤクザキックをかまして、倒れかかった顔面に膝を叩き込んだ。ん~見ててスカッとする。女が1人逃げようとする。矢野は即追いかけて、推定みのりちゃんの襟元から制服をつかみそのまま地面に背中から引き倒した。女にも容赦なしである。ちょっと笑いそうになったが、愛梨の手前控えることにした。愛梨は口に手をあててあわわわ、という顔をしている。
そのまま女の制服をつかんで引きずり男たちのところに並べると、矢野なりのドスの効いた声で「お前等逃げたらマジ殺す」と脅して撮影者の方にやってきた。矢野はスマホを奪い、撮影者にカメラが向けられた。そこそこかわい子ちゃんだ。
矢野は彼女に「お前もあっこで正座しろ。あと靴ぬげ」と命じて、脱がされたローファーを適当な草むらに投げ込んだ。動画内では3人が倒れており、1人が正座させられている。「ふー、どうする?」息の荒い矢野の独り言を最後に動画が終わった。
こいつどうするつもりなんだろ。あんな適当な嘘告に対して明らかに過剰にやり返してるけど。長年一緒だった幼馴染にされた嘘告並みの報復のレベルだ。
中学の時からキレやすい奴ではあった。俺からすればチワワみたいなよく吠える奴程度の認識だったが、にしてもキレすぎである。
トーク画面に戻るともう一つ動画が来ている。愛梨を確認すると頷いたので、そちらの動画を再生した。
再生するといきなり地面に正座した全裸の男2人と、下着姿の女2人が映った。男達はさっきよりボコられているのが分かる。
「矢野さん、すいませんでした」というと4人は土下座した。
適当にリハが行われたんだろう。声が揃っている。また笑いそうになったが、動画が犯罪的すぎるのでさすがに自重する。
「えっと、仕返しにしてはさすがにやばくない?」
「まぁ、やばいかやばくないかで言えば、やばいかもね」
恐らく自分でもヤバいと思ったから矢野はこんな動画撮ってるんだよ。とは言わなかった。愛梨に矢野の気持ちを理解してるみたいに思われるのイヤだし。
その後、あらかじめ準備してあったんだろう、4人の身分証が動画にざっと映ったあと動画は終わった。
多分これつい先程起こった出来事なんだろう。面倒事と言えば面倒事だが、俺は何も悪いことしてないし、ちょっと楽しそうだ。俺のスマホにこの動画が残っているのはちょっとダルいし、矢野に連絡してみよう。
「ちょっと矢野に連絡してみるけど、愛梨どうする?」
暗にこれから面倒なことになるかもだけど家に帰るか?と聞いてみる。
「いやいや、気になるから私も一緒にいるよ!なんかあったら、おねがいね…?」
と言うと、俺の服をちょこんとつまんできた。可愛いかよ。




