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NTRゲー悪役みたいな外見してるけど、これマジでそういう世界じゃないよね?  作者: 小野千春


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第16話 妹視点

「1年がなんか調子乗ってるらしいよ」


 友達と昼ご飯を食べているとそんな話題が出てきた。


「ルナくんいなくなっちゃったからなぁ。結衣ちゃん、ルナくん連れてきてさ、1年シメてもらってよ」


 ルナくん、ルナ先輩、ルナくんさん。お兄ちゃんの呼び名だ。同級生のギャルっぽい子達はルナくんって呼ぶし、普通の子達はルナ先輩。不良っぽい男子はルナくんさんだ。


「無理!自分でなんとかしろって言われるんじゃない?」


「えー!絶対結衣が呼べば来てくれるでしょ。いいなぁ、あんなお兄ちゃん欲しかったな」


 さすがに無理だと思う。そんな理由で中学1年生シメさせるとか絶対断られる。


 あんなお兄ちゃん欲しかった、かぁ。そういう事言われるたびに嬉しくなる。自己顕示欲的なのが満たされる。


 イケメンで、いかつくて、頭もいいし私にも蓮にもとにかく優しい。


 一緒に歩いてると、周りがビビりまくってるのも面白いし、とにかく安心感がすごい。一緒に服を買いにいったりすると、店員さんに羨ましがられることなんてザラだ。


 正直言って怠惰である私達双子にも、根気強く勉強を見てくれるし、家事も8割くらいはお兄ちゃんがやっている。


 私が彼氏に要求するスペックが高くなるのもしょうがないだろう。だからか未だに彼氏がいない。半分くらい強くて、半分くらい頭が良くて、優しくてイケメンならいいんだけど。


 とにかく妹の私にとっては、とっても自慢のお兄ちゃんと言える。

 でも弟の蓮からしたらどうなんだろうって思うときもある。

 ちょうど1年くらい前の出来事だ。






 当時、中学2年に上がってしばらくした頃だ。蓮に好きな人ができた。今、クラスの隅っこでご飯を食べながら猛勉強している凪咲ちゃんだ。


 私は蓮の初恋を応援してあげようと、中2でクラスが一緒になった凪咲ちゃんと積極的に仲良くなった。まぁ可愛くて有名な子だったから喋ったことは何回もあるしね。


 はたから見てもお似合いだし、蓮が話しかけた時も凪咲ちゃんは楽しそうにしている。お互いゆっくりと好意を育んでいるのが目に見えて分かる、いい雰囲気だ。夏祭りとか、その辺りで付き合ったりするのかな、なんて思っていた。


 そんな中、私と蓮と一緒にうちの家で遊ぼうよってことになった。


 リビングで3人でゲームをしていた。


 ちょうど蓮がトイレに行っていて、私と凪咲ちゃんだけになったとき、玄関の鍵が開く音が聞こえた。


「チビ共~帰ったぞ」


 まずい。今日はお兄ちゃん友達と遊んでくるって言ってたのに。どうしよ、どうしよ、とキョロキョロ謎に周囲を見回して考えている内にお兄ちゃんがリビングに入ってきた。


「あれ、お客さん?」


「あ、ルナ先輩…。梅宮凪咲って言います。結衣ちゃんと一緒のクラスで…。お邪魔してます」


 凪咲ちゃんがサッと立ち上がってペコリと一礼した。


 お兄ちゃんは凪咲ちゃんを見て、その後私を見て、周囲を見回した後、優しい笑顔を浮かべた。ま、まずい…。お兄ちゃんは先輩と別れて今フリーだ。よく分からないが本能的に嫌な予感がする。なんとなく考えが読めてしまう。


「凪咲ちゃんっていうんだ。妹と仲良くしてあげてね」


 優しい笑顔で体を寄せて、頭をそっと撫でて親指で頬を軽くなぞっている。凪咲ちゃんは真っ赤な顔と潤んだ瞳でお兄ちゃんを見上げている。このままキスでもしそうな雰囲気だ。


 あ、終わった。


 その時お兄ちゃんの背後のドアが静かに開く。凪咲ちゃんとお兄ちゃんの様子をみた蓮の絶望した顔が今でも脳裏に焼き付いている。


 その後、「んじゃ、ゆっくりしてね」とさっさとお兄ちゃんは自分の部屋にいき、しばらくしてリビングに蓮がもどってきた。


 私はなんとか場を盛り上げようとしたが、凪咲ちゃんはぽーっとしているし、蓮は廃人みたいになっている。なんとも言えない空気の中、その日は解散となった。


 多分お兄ちゃんの中では可愛い後輩見つけたから軽く粉をかけた程度の認識だったんだろうけど、あまりにも致命的なタイミングで、相手があまりにも悪かった。


 今思えばやりようはあった。蓮も一緒に遊んでるから!と言えば、お兄ちゃんは多少なりとも空気をよんでくれたはずだ。もう取り返しもつかないし考えてもしょうがないことだけど私もパニクってた。そもそもお兄ちゃんに蓮が凪咲ちゃんって子の事気になってるって言ってなかったのも悪い。


 それからは、蓮は完全に脳が破壊されているのか、もういいよ…としか言わなくなったので、もはや私も静観するしかなかった。


 夏前くらいで凪咲ちゃんとお兄ちゃんが付き合ったと聞いた。


 付き合ってしばらく経った夏休みのとある日に、私と蓮はお兄ちゃんに呼び出された。お兄ちゃんは財布を出して、私と蓮に千円ずつ渡すと、


「今から凪咲が家来るからさ、ファミレスで夏休みの宿題でもやってて。20時くらいには帰ってきていいから」


 と言った。なんと残酷なことを言うんだろう。いや、事情をこっちも説明してないから悪いことをしてるとは微塵も思ってないんだろうけど。


 余裕をもって21時くらいに家に帰ると、リビングのソファにお兄ちゃんと凪咲ちゃんが座っていた。ぶかぶかのお兄ちゃんのTシャツに身を包み、肩を抱かれ頬を染めた凪咲ちゃんからはうちで使っているボディーソープの匂いが漂っている。


 完全に事後である。お兄ちゃんはこんなにノンデリだっただろうか。蓮の方をチラッと確認すると、死んだような無表情だ。こ、心が死んでる…。


 それからはしょっちゅうそんな事があった。というか、むしろお兄ちゃんより凪咲ちゃんがそういう事に積極的なのが見てて分かった。普通のデートよりお泊りお家デートをしたがっていた。


 凪咲ちゃんはお兄ちゃんが卒業するときに、これからは学校も違うし~?スマンみたいな事を言われてフラレたらしい。


 蓮に別れたらしいよ、もういいの?と言ってみたが、嫌な顔をされたのでそれ以降、凪咲ちゃんの話をするのはやめた。


 そこから凪咲ちゃんは猛勉強している。なんでかって、まぁお察しの通りだろう。



 蓮が凪咲ちゃんの事を気になっているというのは少ないながらもそれなりの人数が知っていたので、お兄ちゃんと凪咲ちゃんが付き合い始めた時はそれはそれはざわついた。


 そのころからお兄ちゃんの悪名のトップにNTRゲー悪役というのが躍り出た。まぁ何もしてないのにそんな渾名つけられるわけないもんね。


 まぁでも表立ってお兄ちゃんに、弟の想い人奪ったらしいな、なんて言えるほど度胸のある人はもちろんいなかったので、未だにお兄ちゃんはその事を知らないんだろう。


 多分ショックをうけるから、知ってほしいとも思ってないけどさ。


 まぁいいや。誰がなんと言おうと、私にとっては優しい自慢のお兄ちゃんだ。蓮もなんだかんだあったけど、お兄ちゃんのことは大好き…な、はずだ。

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