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求人

「先輩、これ、怪しくないですか?」


 あれから数日。

 まだ落ち葉の出品はない。

 俺たちは、なんとか石田と同じ求人を見つけるべく、アルバイト情報を漁っていた。

 こんなに真剣にバイト情報を確認するのは初めてだったが、よく見ると、世の中にはたくさん怪しいアルバイトがあった。


 野良猫を報告するだけで一件三万円、住み込みの家政婦で月給百万。一体どんな仕事をさせられるのだろう。

 いわゆる闇バイトと呼ばれるものは、意外と身近に存在するのかもしれない。


「どれや?」


 俺は、それらしき求人を見せた。


「なになに?『簡単な地域リサーチの仕事です。一件5万円から。詳細は以下のURLをクリック!』やて。うわぁ、ごっつう怪しいやん」

「開いてみます?」

「せやな」


 リンク先を開くと、アンケートフォームが表示された。


 ============


 地域生活実態調査 協力スタッフ 事前確認フォーム


 このたびは、地域生活実態調査スタッフ募集にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。


 本調査は、地域ごとの暮らしの実態や世代間の生活差を可視化し、今後の政策提言に役立てることを目的としています。

 なお、対象者への直接的な接触は原則としてありません。


 回答内容をもとに、活動可能地域や調査スタッフとしての適性を確認させていただきます。正解・不正解はありませんので、率直にご回答ください。


【1】年齢を選択してください。

 ・18〜22歳

 ・23〜26歳

 ・27〜29歳

 ・30歳以上


【2】現在のご職業を選択してください。

 ・大学生

 ・専門学生

 ・アルバイト

 ・契約社員/派遣社員

 ・正社員

 ・無職/求職中

 ・その他


【3】現在の生活状況について、当てはまるものをすべて選択してください

 ・学費や生活費に不安がある

 ・短期間で収入を得たい

 ・奨学金や借入金がある

 ・将来の生活に不安がある

 ・特に不安はない


【4】今回の募集に興味を持った理由を教えてください。

 ・高収入の仕事を探していた

 ・社会問題に関心がある

 ・地域調査に興味がある

 ・空き時間を有効に使いたい

 ・その他


【5】ご自宅や学校・職場の近くで、徒歩または自転車で回れる地域はありますか。

 ・よく知っている地域がある

 ・少し知っている地域がある

 ・知らない地域でも調べながら回れる

 ・あまり外を歩くのは得意ではない


【6】近所の方や年配の方と、自然に会話をすることはできますか。

 ・得意だと思う

 ・必要であればできる

 ・少し苦手だが努力できる

 ・難しいと思う


【7】決められた項目について、確認できた範囲と推測を分けて報告することはできますか。

 ・できると思う

 ・説明を受ければできる

 ・少し不安がある

 ・難しいと思う


【8】調査内容について、いかなる理由があってもSNS等にアップロードしないことや、友人・知人に話さないことを守れますか。

 ・守れる

 ・内容による

 ・少し不安がある

 ・難しい


【9】説明会当日、本人確認のため、学生証または運転免許証等をご提示いただけますか。

 ・提示できる

 ・説明を聞いてから判断したい

 ・提示できない


【10】説明会当日に確認したいこと、不安な点、希望する活動地域があればご記載ください。


【11】最後にお名前とメールアドレスを入力してください。


 ============


「普通のアンケートみたいですね」

「あほ。よく読み。立派なスクリーニングやないか」

「スクリーニング?」

「ああ。例えばこの3番。金に不安があるやつを炙り出そうとしてるのがミエミエや。8番は口封じの適性やな。つまり適度に口固くて、金に困ってて、騙されやすい奴を探しとるんや。へーちゃんみたいな」

「ひどっ!」

「ひどくない。例えば最初に対象者と接触ないって書いてあるのに、自然に会話できますか、とか、おかしいやろ」


 確かにその通りだ。

 俺は金欲しさに、落ち葉を出品した。だが、本当の意味での出品者になる可能性もあったのだ。


「敵さんもプロや。下手に作り込むとバレるかもしれん。へーちゃん、素直に答えてみ」

「……わかりました」


 少し釈然としないが、確かに俺が答えるのが適任だということは理解できる。

 俺は考えながら、アンケートフォームに回答していった。

 が、最後の項目で手が止まる。


「……名前、どうします?」

「確かに……」

「でも身分証要りますよね。俺の名前にして、俺が参加します」

「いや、本名はマズイやろ。リストに残ると厄介や」

「じゃあどうするんです?」

「うーん……へーちゃんの名前いじって、平田一郎はどうや」

「なんですか、その政治家みたいな名前は」

「偽名にしといて、ボクが行くわ」

「俺がアンケート答えたんですよ。先輩じゃ頭が切れるので怪しまれます」

「せやかて……」


 こんな感じで言い争っていると、先輩の部屋のドアがノックされた。


「真島です。合宿から戻ってきました」


 二週間ぶりに会う真島は、やっぱり真島だった。

 部屋に入ると、持参した笹団子を天野先輩に手渡す。


「これ、土産です」

「免許合宿で土産て、相変わらず律儀やなぁ」

「笹団子、名物らしいので」

「笹団子……」

「なんや、また葉っぱかいな」

「ちょっと、先輩!!」


 事情のわからない真島が不思議そうな顔をしている。


「何かあったんですか?」

「いやいやいやいや、なーんもないで」

「そうそう、平和そのもの」

「とりあえず、お茶、淹れますね」


 真島は勝手知ったる様子でヤカンを火にかけると、急須を取り出した。


「で、どうするんです?」


 俺は先輩に近寄ると小さく耳打ちした。


「とりあえず、一旦休戦や。明日話そ」

「りょーかいです。真島には内緒にしましょう。絶対警察に行けって言われます」

「おう」


 もう少し。もう少しだけ自分たちで糸口を掴みたかった。


「なんか、僕のいない間に仲良くなってませんか?ちょっと悔しいです」

「何ゆうとるんや。ボクはへーちゃんもマジメくんも大好きやで」

「まあいいです。お茶、入りました」


 真島の淹れる緑茶は美味い。

 俺たちは笹団子を食べて、お茶を飲んだ。


「笹団子は、上杉謙信が携帯食としていた説があるそうですね。それから、くず米を活用するためでもあったとか」


 真島が説明書きを読み上げた。


「説、か」


 天野先輩が小さく呟いた。


「どうしました?」

「いや、こういう文章ってよう出来とると思ってな。断定はしとらん。でも読んだ方は、なんとなくそういうもんやと思う」

「笹団子の話ですよね?」

「せや。笹団子の話や」


 絶対に笹団子の話ではない。

 だが、真島の前でそれ以上聞くわけにもいかず、俺は黙って緑茶をすすった。


 ◇


 翌朝、先輩の提案で、アンケートの回答名は「佐藤翔」とした。メールアドレスは新しく作ったものを使うことにして、俺たちはフォームを送信した。

 平田一郎はさすがに古すぎるということで却下とした先輩が、


「あちらが山田ならこちらが佐藤や」


 と言い出したのだ。

 詳しく聞くと、日本で一番多い苗字である佐藤と、俺の年代に多い名前である翔を組み合わせたらしい。


「でも、身分証が……」

「へーちゃん、ちょっとこれ見て」


 そういうと、先輩は俺にスマホ画面を見せた。

 学生証が表示され、


 S大学工学部四年

 天野才人


 とある。


「先輩の学生証じゃないですか」

「最近、電子学生証も使えるようになったんよ。カラオケ行く時とか便利やで」

「そうなんですか!?俺もすぐインストールして……」

「いや、嘘やねん」

「は?」

「でも、本当っぽいやろ?人は堂々とありそうな話をされると信じてまうのや。佐藤翔の身分証はこれで作っとる」


 再表示された画面には、佐藤翔の学生証が映っていた。

 写真は天野先輩である。

 よくできた画像だった。腹が立つくらい、それっぽい。

 しかし、先輩を行かせる訳にはいかない。


「その方法でいくのはわかりました。でも、俺に参加させてください」

「いや、でももう学生証もできとるし」

「そんなの、すぐに直せますよね?俺は、自分の目で見届けたいんです」


 先輩はしばらく俺の目を見ていたが、ややあって諦めた様子で手を挙げた。


「わかった。降参や。でも、当日はそばで待機しとる。それでええな」


 ◇


 説明会の案内は、思ったより早く届いた。

 俺が思う以上にお金に困っている学生は多く、集まりがいいのかもしれない。俺は石田が話していた説明会の内容を思い出し、暗い気持ちになった。


 指定された都内のレンタルスペースは、国道から一本裏道に入った雑居ビルの四階だった。

 カレー屋の角を曲がって少し行くと、日本リサーチカンパニー・説明会会場はこちら、という小さな看板が出ている。如何にも嘘くさい名前だ。

 俺は一度ビルの前を通り過ぎると、ぐるっと回り道をして先輩が待つ元の国道に戻った。


「どや?」

「会場はすぐ分かりました。案内も出てたんで」

「ホンマに一人で平気か?」

「何言ってるんですか。二人で行ったらそれこそ怪しまれますよ」

「そりゃまぁ、そうやけど……」


 歯切れの悪い口調だ。俺のことを心配しているのだろう。

 急に、大学受験の見送りにこようとして止めた母親のことを思い出した。


「じゃあ、行ってきます」

「あ、へーちゃん、これ」


 天野先輩は、ボールペンらしきものを、俺のシャツの胸ポケットに差した。


「小型カメラや。スマホはしまえって言われるかもしらん。これでボクはへーちゃんの様子を確認しとくわ」

「分かりました」


 俺は今度こそ、奴らの待つ会場へと向かった。

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