表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/10

宛先

 10万円の落ち葉 2


 宛先


「落ち葉を購入したものです。指定のものが同封されていませんでした。至急再送して下さい」


 見知らぬアカウントから来たDMに俺が固まっていると、天野先輩が気付いて声を掛けてきた。


「なんや、へーちゃん。死人みたいな顔して」


 今更相談したら、呆れられるだろうか。


「いや、別に……」

「ほんなら、手の震えは寒気っちゅーわけやな。すまんすまん。扇風機消そか」


 見抜かれている。そう感じた。

 今頼れるのは天野先輩しかいない。俺は正直に全てを話すことにした。


「実は……」


 あの夜、落ち葉を出品したこと。すぐに落札されたこと。入金されたお金でつい気が大きくなったこと。途中しどろもどろになりうまく話せなかったが、天野先輩はワンカップをチビチビと飲みながら、静かに俺の話を聞いてくれた。


「なるほどなぁ」


 手付かずだった柿ピーをパーティー開けすると、ピーナツだけを一気に口に放り込んだ。


「せ、先輩…?」

「へーちゃんの金で焼肉食った時点で、ボクも片棒担いでもうてるしな。その上柿ピーも一気喰い。同罪間違いなしや。一緒に考えよか?」

「嬉しいですけど……なんでピーナツ一気喰いなんすか」

「なにて……柿ピーの価値はピーナツやろ。これだけ食べたら全部食べたんと一緒や」


 理由はよく分からないが、天野先輩なりの理屈があるらしかった。

 俺は大人しく従うことにした。


「で?DMがきたんやて?」

「そうなんです……俺、購入者にアカウントなんて教えてないのに」

「へーちゃん、ボクともXつながっとらんよな?」

「え?ああ、はい」

「ちょっとフリマアプリのアカウント見せて」


 俺がスマホを差し出すと、先輩は画面を見てしばらく自分のスマホを操作していた。

 が、ややあっていきなり再びDMが送られてきた。


「先輩!またDMが来ました」

「督促かもしれんな。開けてみ」


 恐る恐る、DMの画面を開く。すると……


「柿ピーご馳走様でした!ピーナツこそ至高!!」


 というアホみたいな文章が届いていた。


「先輩、これ…?」

「ボクの本音やで」

「そうではなく」

「ああ、なんでDM送れたか?そりゃ簡単やん」


 そういうと、先輩は俺のフリマアプリの画面を見せた。


「へーちゃんのフリマアプリ、アカウント名がtn_0831やんな。Xもおんなじ。こんなの見つけてって言ってるようなもんやで」

「……」

「この調子だと、メールアカウントも使いまわしてるやろ。あかんで、そういうの」

「すみません」


 図星すぎてぐうの音も出ない。

 イニシャルに、誕生日。アカウントを安直に使い回してきた自分を恥じた。


「しかしなぁ、指定のもんて、なんやろ」

「それが、分からないんですよね……」

「とりあえず、Xでもフリマアプリでもええから、お金返しますって言ってみれば?」

「でも、お金使っちゃったんです……」


 情けないことこの上ないが、泣きそうな顔で説明した。


「ほんなら、ごめんなさいするしかないなぁ」


 天野先輩も、梅干し食べたみたいな顔をしてそう言った。

 改めて、XのDMを開く。しかし、DMの送り主はさっきまでの表示から「unknown」に変わっていた。プロフィールを開いても、何も表示されない。

 慌ててフリマアプリを開くと購入者のページも、存在しないアカウントになっていた。


「……へーちゃん」

「はい」

「これ、謝らせる気ないな」

「ですね」


 先輩は、少し考えてから口を開いた。


「金返せって言うなら分かる。でも相手は、金の話をしてへん。指定のものを再送しろって言うとる。指定のものって、なんや?」

「……」


 それがわかれば、俺だって悩んでない。


「とりあえず高額の落ち葉について調べてみるか。話題になってるかもしれん」


 そういうと、先輩は早速検索サイトを開いた。

 同時に、AIにもいくつかの検索条件を投げ、関連する情報をまとめて調べるよう指示する。次にXのタイムラインを調べ始めた。こんな能力があるのに、この人はなんだって2年も留年したのだろう。

 尊敬と呆れの混じった気持ちで、俺は先輩のパソコン画面を眺めていた。


「うーん、なんも見つからんなぁ」


 10分後。先輩は腑に落ちない様子でそう呟いた。

 10万円の落ち葉なんて、見かけたら話題になりそうなものなのに、不思議である。

 だが、天野先輩が探して見つからないのだから、本当にないのだろう。


 先輩はそのままパソコンのブラウザでフリマアプリを開くと、落ち葉の出品物を調べ始めた。

 金額は500円くらいが多く、高くても三千円くらいの出品がほとんどだ。大体がクラフト用か、腐葉土作成用である。

 だが高い順にソートし直すと、確かに10万円前後で売れている落ち葉が複数存在する。安いものだと5万、高いと15万のものもある。商品の状態が新品だと価格も高い。

 落ち葉の新品とはどういうことだろう。


「へーちゃん、なんの葉っぱ出品したんだ?」

「適当に……寮の入り口のやつを拾いましたよ。桜の木ですよね」

「うーん……ん?」

「どうしました?」

「この前ボクが見かけた落ち葉が消えとる。というか、今残ってるのは最近落札されたヤツだけや」

「確か取引完了して二週間経ったら商品削除できるルールだったはずですよ」

「なるほどなぁ……」


 先輩は出品物の写真などを開いては保存し、拡大などして確かめている。

 サクラ、ケヤキ、クヌギ、コナラ、カエデ……落ち葉と一口に言っても色んな葉っぱがある。

 なんだか小学校の頃の理科の授業を思い出した。

 だが、どれもただの落ち葉だ。


「見た感じ、売れてる落ち葉の写真に共通点はない。ただ、出品メッセージはどれも似とるな。へーちゃん、出品の内容はどうしたん?」

「思いつかなかったんで、他のやつをコピペしました。まずかったっスかね」

「いや、どうやろ……」


 しばらく腕組みをして考えていたが、くるりとこちらを向き直した。


「今わかる情報としては、確かに高額で売れている落ち葉が複数あること。一定期間経ったものは、出品者が消している可能性があること。商品の状態はバラバラやけど、状態がいいほど金額は高い。共通点は出品のメッセージ。それから、発送方法」

「発送方法?」

「ああ。全部普通郵便になっとる」

「そういえば!宛名書くの面倒だったんですよね」

「へーちゃん、宛名まだ覚えとる?」


 宛名は覚えてないが、確か発送前に封筒の写真を撮ったはずだ。カメラロールを探して、該当する写真を表示する。


「これですね」

「東京都A市……か。意外と近いな。よし!」


 先輩は一人満足したように頷くと、言った。


「へーちゃん、明日ここに行ってきて」

「は?」


 突拍子もない提案に、俺は目を丸くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ