宛先
10万円の落ち葉 2
宛先
「落ち葉を購入したものです。指定のものが同封されていませんでした。至急再送して下さい」
見知らぬアカウントから来たDMに俺が固まっていると、天野先輩が気付いて声を掛けてきた。
「なんや、へーちゃん。死人みたいな顔して」
今更相談したら、呆れられるだろうか。
「いや、別に……」
「ほんなら、手の震えは寒気っちゅーわけやな。すまんすまん。扇風機消そか」
見抜かれている。そう感じた。
今頼れるのは天野先輩しかいない。俺は正直に全てを話すことにした。
「実は……」
あの夜、落ち葉を出品したこと。すぐに落札されたこと。入金されたお金でつい気が大きくなったこと。途中しどろもどろになりうまく話せなかったが、天野先輩はワンカップをチビチビと飲みながら、静かに俺の話を聞いてくれた。
「なるほどなぁ」
手付かずだった柿ピーをパーティー開けすると、ピーナツだけを一気に口に放り込んだ。
「せ、先輩…?」
「へーちゃんの金で焼肉食った時点で、ボクも片棒担いでもうてるしな。その上柿ピーも一気喰い。同罪間違いなしや。一緒に考えよか?」
「嬉しいですけど……なんでピーナツ一気喰いなんすか」
「なにて……柿ピーの価値はピーナツやろ。これだけ食べたら全部食べたんと一緒や」
理由はよく分からないが、天野先輩なりの理屈があるらしかった。
俺は大人しく従うことにした。
「で?DMがきたんやて?」
「そうなんです……俺、購入者にアカウントなんて教えてないのに」
「へーちゃん、ボクともXつながっとらんよな?」
「え?ああ、はい」
「ちょっとフリマアプリのアカウント見せて」
俺がスマホを差し出すと、先輩は画面を見てしばらく自分のスマホを操作していた。
が、ややあっていきなり再びDMが送られてきた。
「先輩!またDMが来ました」
「督促かもしれんな。開けてみ」
恐る恐る、DMの画面を開く。すると……
「柿ピーご馳走様でした!ピーナツこそ至高!!」
というアホみたいな文章が届いていた。
「先輩、これ…?」
「ボクの本音やで」
「そうではなく」
「ああ、なんでDM送れたか?そりゃ簡単やん」
そういうと、先輩は俺のフリマアプリの画面を見せた。
「へーちゃんのフリマアプリ、アカウント名がtn_0831やんな。Xもおんなじ。こんなの見つけてって言ってるようなもんやで」
「……」
「この調子だと、メールアカウントも使いまわしてるやろ。あかんで、そういうの」
「すみません」
図星すぎてぐうの音も出ない。
イニシャルに、誕生日。アカウントを安直に使い回してきた自分を恥じた。
「しかしなぁ、指定のもんて、なんやろ」
「それが、分からないんですよね……」
「とりあえず、Xでもフリマアプリでもええから、お金返しますって言ってみれば?」
「でも、お金使っちゃったんです……」
情けないことこの上ないが、泣きそうな顔で説明した。
「ほんなら、ごめんなさいするしかないなぁ」
天野先輩も、梅干し食べたみたいな顔をしてそう言った。
改めて、XのDMを開く。しかし、DMの送り主はさっきまでの表示から「unknown」に変わっていた。プロフィールを開いても、何も表示されない。
慌ててフリマアプリを開くと購入者のページも、存在しないアカウントになっていた。
「……へーちゃん」
「はい」
「これ、謝らせる気ないな」
「ですね」
先輩は、少し考えてから口を開いた。
「金返せって言うなら分かる。でも相手は、金の話をしてへん。指定のものを再送しろって言うとる。指定のものって、なんや?」
「……」
それがわかれば、俺だって悩んでない。
「とりあえず高額の落ち葉について調べてみるか。話題になってるかもしれん」
そういうと、先輩は早速検索サイトを開いた。
同時に、AIにもいくつかの検索条件を投げ、関連する情報をまとめて調べるよう指示する。次にXのタイムラインを調べ始めた。こんな能力があるのに、この人はなんだって2年も留年したのだろう。
尊敬と呆れの混じった気持ちで、俺は先輩のパソコン画面を眺めていた。
「うーん、なんも見つからんなぁ」
10分後。先輩は腑に落ちない様子でそう呟いた。
10万円の落ち葉なんて、見かけたら話題になりそうなものなのに、不思議である。
だが、天野先輩が探して見つからないのだから、本当にないのだろう。
先輩はそのままパソコンのブラウザでフリマアプリを開くと、落ち葉の出品物を調べ始めた。
金額は500円くらいが多く、高くても三千円くらいの出品がほとんどだ。大体がクラフト用か、腐葉土作成用である。
だが高い順にソートし直すと、確かに10万円前後で売れている落ち葉が複数存在する。安いものだと5万、高いと15万のものもある。商品の状態が新品だと価格も高い。
落ち葉の新品とはどういうことだろう。
「へーちゃん、なんの葉っぱ出品したんだ?」
「適当に……寮の入り口のやつを拾いましたよ。桜の木ですよね」
「うーん……ん?」
「どうしました?」
「この前ボクが見かけた落ち葉が消えとる。というか、今残ってるのは最近落札されたヤツだけや」
「確か取引完了して二週間経ったら商品削除できるルールだったはずですよ」
「なるほどなぁ……」
先輩は出品物の写真などを開いては保存し、拡大などして確かめている。
サクラ、ケヤキ、クヌギ、コナラ、カエデ……落ち葉と一口に言っても色んな葉っぱがある。
なんだか小学校の頃の理科の授業を思い出した。
だが、どれもただの落ち葉だ。
「見た感じ、売れてる落ち葉の写真に共通点はない。ただ、出品メッセージはどれも似とるな。へーちゃん、出品の内容はどうしたん?」
「思いつかなかったんで、他のやつをコピペしました。まずかったっスかね」
「いや、どうやろ……」
しばらく腕組みをして考えていたが、くるりとこちらを向き直した。
「今わかる情報としては、確かに高額で売れている落ち葉が複数あること。一定期間経ったものは、出品者が消している可能性があること。商品の状態はバラバラやけど、状態がいいほど金額は高い。共通点は出品のメッセージ。それから、発送方法」
「発送方法?」
「ああ。全部普通郵便になっとる」
「そういえば!宛名書くの面倒だったんですよね」
「へーちゃん、宛名まだ覚えとる?」
宛名は覚えてないが、確か発送前に封筒の写真を撮ったはずだ。カメラロールを探して、該当する写真を表示する。
「これですね」
「東京都A市……か。意外と近いな。よし!」
先輩は一人満足したように頷くと、言った。
「へーちゃん、明日ここに行ってきて」
「は?」
突拍子もない提案に、俺は目を丸くした。




