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異変

 SOLD

 ============

 商品名:落ち葉

 価格:100,000円

 商品の状態:傷や汚れあり

 配送方法:普通郵便

 発送元地域:山梨県

 発送までの日数:1〜2日で発送

 商品説明:

 近隣地域の落ち葉です。

 説明書きを添えてお届けします。

 天然物のため状態は変化する可能性があることをご理解ください

 ============


「なぁ、落ち葉が10万円で売れるって知っとるか?」

「は?10万?」


 夏休みの男子寮は、明日からお盆に入るということもあり閑散としている。

 寮に残っているのは、俺たちだけだ。

 俺は実家に帰る交通費がない、天野先輩は実家と折り合いが悪い。真島は夕方のバスで免許合宿に向かうのであえて帰省せず。


 天野先輩の部屋は節約のためにクーラーはつけずに窓を開け放し、扇風機を回していた。

 窓から時折り吹き込む風で、いつからそこにあるのかわからない年代物の風鈴がチリンと音を鳴らす。

 俺はさっきコンビニで買ってきたガリガリくんを食べながら、何代か前の先輩が置いていった美味しんぼを読み返していたところだった。


「へーちゃん、金ないんやろ?」


 へーちゃんと言うのは俺のあだ名だ。

 本名は平一たいらはじめ。だが、見た目も中身も平凡なせいか「へーちゃん」と呼ばれている。嬉しくないあだ名だ。


「金はないですけど……なんすか、10万円の落ち葉って」

「これ、見てみ」


 天野先輩が見ていたタブレットをこちらに向ける。

 画面に映っていたのは、フリマサイトに出品された落ち葉の写真だった。10万円で出品されている上に、SOLDのマークが表示されている。


「現代アートか何かですか?」


 真島がズレたメガネを直しながら天野先輩に聞いた。

 確かに、ただの落ち葉が10万円なんてありえない話だ。


「それが、ほんまに落ち葉らしいで」

「じゃあイタズラとか」

「だけど、他にも似たような落ち葉が売れてるんだよなぁ」

「じゃあ、集団のいたずらですね!」


 冗談で発言したのに、誰も笑わなかった。


「平くん、フリマサイトは販売手数料が掛かります。たとえ仲間内で回しても、手数料ぶんだけ損をします。確か一割だったかと。そこまでしてイタズラするでしょうか」

「わかってるよ、冗談だってば」

「平くんの冗談は分かりにくいです」


 つまらない、ではなく分かりにくいと言ってくれるのが、真島の優しさ、なのかもしれない。


「マジメ君は相変わらずやなぁ」


 天野先輩がうんうんと頷いてみせる。

 ちなみにちょいちょい関西弁が混じるが、神奈川県出身のはずである。

 曰く、「大阪弁を使うといろいろ便利なことがあんねや」とのことだが、何が便利なのかはよくわからない。


「どや。へーちゃんも出品してみい。落ち葉なんて寮の前に落ちてるやろ」

「いや、売れないでしょ」

「出すだけタダやん」

「じゃあ先輩が出品してください」

「そんなんしゃらくさいわ」


 真島は俺たちのくだらない会話を聞いていたが、ふと時計を見ると立ち上がった。


「そろそろ行きます。平くん、出品なんてしたら詐欺に巻き込まれます。お金なら僕が貸してあげますから」


 そういうと、五百円玉を一枚ちゃぶ台の上に置いて、部屋を出て行った。

 俺はその五百円を手に取ると、じっと見つめた。


「五百円じゃ、スマホ代にはならんなぁ」

「なんで、それを!?」


 実は入れ込んでるゲームのガチャで推しキャラがピックアップされていたせいで、先月だいぶ課金してしまったのだ。

 でも、なんで……


「お!今、なんでそれを?て思ったやろ」

「思いました」

「知りたい?」

「知りたいです」

「ふふ、それはねー」


 俺が次の言葉を待っていると、天野先輩はにっこり笑った。


「教えなーい」

「ちょ、先輩!!」

「そう怒らんといて。あ、ボクもそろそろバイトの時間や。説明はまた今度ー」


 結局理由がわからないまま、俺は先輩の部屋から退散することとなった。


 ◇


 その日の夜。

 俺は携帯と睨めっこしていた。


 と、ゲーム内チャットから通知が届く。天野先輩からだ。


「キャラ強化は程々にな」

「!!」


 俺と天野先輩は同じソシャゲをやっていて、フレンド登録もしている。

 先月のピックアップで初登場した俺の推しキャラは、すでに五回……つまり最終形態まで強化されていた。

 サポートメンバーとして設定しているので、天野先輩にはそのキャラが見えている。

 考えてみれば、バレバレだった。


「やばいなぁ」


 指摘されるまでもなく、使い込み過ぎた自覚がある。

 先月ソシャゲに注ぎ込んだお金は五万円。

 つまり今月それだけ引き落とされるということだ。

 ソシャゲ界隈にいると課金感覚がバグるが、貧乏大学生にとっては大金である。

 日雇いのバイトでもするべきか。でも、この時期マジで暑いんだよなぁ。


 そんなことを考えていると、昼間の天野先輩の言葉が頭をよぎった。


 ――出すだけタダやん。


 俺は窓の外に目をやった。

 寮の前の桜の木は、毎年この時期になると暑さに負けたみたいに葉を落とす。


 しばらく悩んだ末、俺はコンビニのレジ袋を手に、部屋の外に出た。


 ◇


 フリマサイトの出品は意外に手間取った。

 これまでも手持ちの不用品を売ったことはあるが、毎回バーコードを読み取らせていたので、自分で商品説明を書くことはほとんどない。

 AIの自動生成機能もあるにはあるが、落ち葉の出品には流石に使えなかった。


「あー、もう!」


 めんどくさくなった俺は、別の出品者の文章をコピペすることにした。

 よく知らないけど多分出品説明に著作権はないし、コピペでも大丈夫だろう。

 折角なので商品状態も配送方法も丸パクりする。


 出品額は10万円にした。1を打ち、0を五回打つと、思い切って出品ボタンを押した。

 まぁ、売れなくて元々だ。今日はもうダルいし、明日になったらバイトの募集でも探すとしよう。


 俺はそのまま部屋の電気を消すと、眠りに落ちた。


 ◇


 うっかり眠り込んでしまい、目覚めるとすでに陽が高い。

 眠い目を擦りながらスマホを確認すると、フリマアプリから通知が届いている。

 値下げ交渉かな、いや、そんなわけないか、など寝ぼけた頭で考えつつアプリを開いた。


「!!!!!」


 落ち葉が、売れていた。


 どういうことだろう。世の中には俺が知らないだけで、落ち葉コレクターみたいな人がいるのだろうか。それにしても、なんの変哲もないただの落ち葉だ。価値があるとはとても思えない。

 暑さとは違う変な汗が流れてきた。

 誰かに相談したかった。

 だが、真島は合宿でいない。アイツのことだ、多分スマホの電源も切っているに違いない。

 天野先輩は……とLINEを送りかけて、手が止まる。

 天野先輩に相談すれば、「やめとけ」と言われる気がした。いや、あの人なら面白がってもっと変なことを言うかもしれない。どちらにせよ、俺が欲しい答えは返ってこないだろう。


 よく考えてみよう。

 俺は、落ち葉を出品した。

 指定した金額で売れた。

 出品文は何度読み返しても落ち葉と説明書きのことしか書いてない。

 どこの誰かは知らないが、この落ち葉が10万円で欲しかったから買ったのだ。

 つまり、これは違法ではない。

 そうだ、これは需要と供給の幸せなマッチングなのだ。


 最後の方は自分でもなんだかわからない理由となったが、折角成立した取引なのだ。とにかく一刻も早く発送しようと思い立つ。


 説明書きは何を書けばいいのか分からなかったので、適当に葉っぱの写真を撮ってAIに文章を考えてもらう。

「バラ科サクラ属の落葉広葉樹」「桜の落ち葉には、葉脈、鋸歯状の縁、葉柄などの特徴が残る」などなど。

 こんなもんでいいだろう。


 落ち葉はできるだけ傷がつかないようにティッシュペーパーで包むと、部屋にあった段ボールを切って、折れ曲がらないように落ち葉を挟んだ。

 水濡れもまずい気がしたので奮発してジップロックに入れて封をする。そして最後に茶封筒に入れた。

 我ながら完璧な梱包だと思った。


 さて発送手続きを、と確認すると、配送方法は普通郵便になっていた。どうやら昨夜、他の出品を丸パクリした時にそこまで真似していたらしい。

 取引画面には購入者の住所が表示されているので、ボールペンで書き写す。しまった、手書きなら中身を入れる前に宛名を書けばよかったと思うが、後の祭りだ。

 最近文字なんて書かないので、自分の字が汚いことにうんざりする。

 差出人も書くべきか迷ったが、相手が誰かも分からないのに自分の住所を書くのは怖かったので、やめておいた。

 念のため梱包した封筒の写真をスマホで撮影すると、近所のポストに投函し、発送連絡を押した。

 これでミッションコンプリートだ。

 ちょっとした満足感に包まれたので、そのままコンビニでコーラとじゃがりこを買って帰った。


 部屋に戻ると、じゃがりこ片手にスマホゲームの周回に勤しむ。

 と、フリマアプリから通知が入った。

 なんだろうと確認すると、受取評価がされていた。

 何かの間違いだろうか。先ほど投函したばかりなのに……。

 後からクレームを入れられても困るが、連絡するべきだろうかと悩む。

 やり取りゼロの取引画面を見つめる。俺は向こうからメッセージが来ない限り、自分からメッセージは送らない。相手にとって何が地雷かわからないからだ。

 数分悩んでいたが、俺は思考を放棄した。

 間違えて受取評価を押してしまうことだってたまにはあるだろう。

 俺は深く考えるのをやめて購入者評価を行い、取引を完了させた。

 アプリの残高には手数料を引かれた九万円が表示されていた。


 ◇


「なんや、やたら羽振りええやん。宝くじでも当たったか?いや、今時期ちゃうか。ほなロト6か?」


 三日後。

 無事に口座に入金されたことに気を良くした俺は、天野先輩を誘い、駅前の焼肉屋でご馳走した。スマホ決済分を払っても、まだ四万円近く残る。そう思うと、少しくらい使ってもいい気がしたのだ。

 久しぶりの牛の肉の脂を堪能すると、その足でコンビニに寄る。ここでも好きなものを買っていいと伝えると、天野先輩は遠慮がちにワンカップと柿ピーを選んだ。俺はいつものコーラとじゃがりこをカゴに入れる。

 ああ、お金があるって素晴らしい。

 そんなふわふわした気持ちで寮に戻り、先輩の部屋でささやかな宴会を始めた。


「こんなにご馳走されても、ボク、身体でしか返せへんよ?」

「返さんでいいです」


 ウキウキしていたせいか、つられて関西弁になってしまった。


「まあ、ちょっと臨時収入がありまして」

「臨時収入ねえ」


 一瞬目を細め、探るような目で俺を見る。

 実は落ち葉が10万円で売れたんです。そう話したらどんな反応をするだろうか。


 だが、ふわふわとした高揚感はすぐに終わりを迎えることになる。

 コーラを半分ほど飲み終えたころ、俺のSNSにDMが届いたのだ。

 知らないアカウントだな。そう思いつつメッセージを開く。

 するとそこには、こう書かれていた。


「落ち葉を購入したものです。指定のものが同封されていませんでした。至急再送して下さい」


 当たり前だが、俺は購入者にSNSのアカウントなんて教えていない。

 こいつはいったい誰なんだ……?

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